第3話 目指すは追放

 程よい時間に戻ると皆の喧騒は静まっており、帰還した僕の姿を見ると僕を案じる。

 どうやら僕の醜態は効果覿面だったよう。


 「大丈夫かァ……? 小夜」


 「心配かけたね。大丈夫さ……」


 「さ、小夜くん……お身体の具合は」


 「すまなかったね。無問題モーマンタイさ……」


 鬼龍くんと鳳凰院さんに気遣われた僕は、そのまま生徒会三人衆の元へ戻る。

 帰還すると物憂げに鈴華は詫びる。


 「すまない……私が不甲斐ないばかりに」


 僕の意図を察していたのだろう。

 真とミカに目を留めると鈴華と似たような表情をしていた。


 「フッ……僕は腹痛地獄苛まれただけさ。謝る必要なんてないよ」


 「君はやはり優しいな……」


 僕の犠牲で3組が纏まるなら安いものさ。

 そう流して国王に視線を向けると彼は大衆の面前で国王ともあろう御方が頭を下げていた。


 「こちらの都合で君達に迷惑を掛けたのは申し訳なく思う。……だが頼む、どうか君達の力を貸してはくれないだろうか。必ずや元の世界に帰る術を見つける。それまではどうか……頼む……!」


 一国の主人が堂々と謝罪する態度に皆は何も言えず固まる。

 息の詰まった空気が蔓延する中、それを払拭させるかの如く鈴華は駆り出す。


 「天音鈴華と申します。……確かに私達は争いとは無縁な国出身な上に私は未熟者ではあります。しかし、ですが……私としては困っている人を見捨て、帰りたいからと言い何もせず傍観するのは許せません」


 「…………」


 「皆が全員私のように一致した意思を持っているというわけではありませんが、私は是非とも貴方達を救うべく力を貸したい」


 うーん、やはり驚異的な扇動力。

 鈴華の演説は皆の心境に変化を生じさせるだろう。

 僅かながら妥協する者や前向きになる者の声が上がる。

 担任兼保護者の先生は納得がいかないご様子であったが、場の雰囲気からか口出し出来る状況ではないようだった。


 そんなこんなで自身の能力値ステータスを測定するらしく、各々壇上に上がって魔道具である水晶玉に触れてくれと宰相に告げられる。

 便利な魔道具は【HP】【MP】【攻撃力】【防御力】【魔力】【魔抵抗力】【素早さ】【運の良さ】と固有技能が分かるらしい。

 水晶玉の輝く色によって初期の強さが判明するらしく、強さの順序は虹色金色赤色紫色緑色青色白色であるらしい。

 ──パチンコの保留色かな?


 「ンで誰から行くンだァ?」


 鬼龍くんが皆の顔色を伺いながら訊ねた。

 気が引けるのか率先して手を挙げる者はいないかに思われたが、私が行こうと鈴華が先陣を切る。

 さて、鈴華の色は何色かなと固唾を飲んで見守る。

 鈴華が手を置くと水晶玉は燦然と輝き、なんと虹色を放ったではないか。

 初っ端S級の大当たりを引いた結果に国王や宰相は歓喜の声が上がる。


 文献によると召喚の儀において虹色の人物を召喚させたことはないらしい。

 最大で金色。赤色を引けば大当たりといった感じだそう。

 魔道具もない時代にどう当たり判定をしていたのかという話になるが、召喚時に自身の周囲に光がまとわれ、その色によって判別していたそう。

 この魔道具と手を交わすことにより王国と契約、契約魔法が成立し、いつでもどこでも自分の能力値を確認したいと念じれば、能力値やら保有技能を確認出来るそう。

 便利な世の中になったもんだなぁ。


 「見たか。私の勇姿を」


 ドヤ顔で帰還した鈴華は皆から喝采を浴びる。

 初っ端大当たりの次の人物はやり難いだろうなと同情していると、二番手を名乗り上げたのは長髪を後ろに一括りにした男装の麗人である那岐なぎちゃんである。


 「これもまた一興。観客の皆様、私の大躍進をご覧あれ!」


 過剰な様になった振る舞いをしつつ那岐ちゃんは測定すると、これまた虹色には劣りつつも赤色という結果になった。

 二連続で当たりなんて排出率調整狂ってる?

 そのまま流れ作業のように測定するのは、空手部の大男千丈せんじょうくんである。

 彼の巨体に宰相や兵士が萎縮する中、彼も手を添えた。

 当然の如く赤色となり、驚異的な低確率の連発に国王達は目を疑う。


 「俺のは赤色か……」


 やはり男たるもの強さを求めるのだろう。

 納得いかぬ様子であったが千丈くんは壇上から降りる。

 続いて高校生にして女優を勤める藍葉あいばさんの出番になると彼女も赤色。もう四連続の当たりである。


 「まぁ妥当ね」


 千丈くんや藍葉さんの後に続いて、委員長のりんちゃん、自称剣豪の石川いしかわくん、熱血漢の炎堂えんどうくん、ヤンス口調の矢田部やたべくん、御曹司の近衛このえくん、猫の黒猫くろねこさん、不良少女の百地ももちさんやらも赤色を的中させていった。

 今の今まで全員は赤色ことB級以上を全員引き当てており、それ以下を引いた者はいない。

 皆がB級以上なのにそれ以下引いちゃったら羞恥心で死にそうですと危惧していたかのえさんも無難にB級を獲れていた。


 ……B級以下は出ない仕様?

 終盤に差し掛かり先生も測定してみたら? という女生徒の集団に流された伏見先生の結果は赤色となっていた。

 謎の保証が生まれてからは皆は着々と測定していく。

 そんなこんなで測定していない者も減少していき、残されたのは真、ミカ、鬼龍くん、鳳凰院さん、僕という面子になってしまった。

 あれっ……そういえば尸織は?


 「じゃ次誰行く?」


 「みんな赤色ォ出してンだァ。今更誰が行ったって変わりゃしねェだろ」


 「そうは言っても、やはり緊張はありますね」


 僕と真を除いた3人が順番を決め合う。

 順番なんて興味ねェと語る鬼龍くんと私も特別気にしませんという鳳凰院さんの意見により、ミカの独断により順番は、ミカ、鬼龍くん、鳳凰院さん、真、僕となった。

 あれっ、僕が最期? 締めを務めるの?


 「さて、私の番だね!」


 突っ込む暇もなく突っ走り意気揚々と何も臆する物はないと手を置いたミカの輝きは金色を解き放っていた。

 これまで複数人召喚に成功することはあったが、S級とA級の2人を引き寄せることはなかったらしい。

 そんな中で2人目の召喚に成功させたのだから、1人目のA級出現に皆が湧き立つ。


 「これが私の実力! 何か感想は?」


 何故かミカに感想を求められたので「へぇ凄いね」と述べると何故か足元を踏み躙られた。

 続けて不貞腐れ気味の鬼龍くんが手を翳すと、2連続の金色を輝かせていた。


 「チッ……虹色じゃねぇのかよ」


 これまた金色の出現により盛り上がりは最高潮となる。

 凄いやりにくそうな鳳凰院さんは緊張気味に触れると、またもや確率操作されているのか偶然なのか分からないけれど、これまた金色を解き放つ。


 「一先ず一安心ですね……はぁ疲れた」


 えっ、何これは……。

 3連続の金色とかどういうことなの。

 こんなん真も金色確定じゃないか。

 とはいえ鳳凰院さんのように不安はあるのだろう。真は僕に心中を告げる。


 「鈴華が虹色……ミカが金色で……鬼龍や鳳凰院も金色。俺が……俺だけが紫や緑とかになったら怖いな」


 「真も大丈夫さ。根拠はないけれど僕を信じなよ」


 もう神の介入がない限りB級以下は出ないから大丈夫だと思う。

 これはもう茶番なのだ。

 主要人物の驚異的な的中を連続させて凄ェとなる展開なのだ。

 だから結局、真も金色を引き当てて拍手喝采となるに違いない。

 

 「そうか……うん。ありがとう小夜……行ってくる!」


 自身の頬を軽く叩いて喝を入れた真は水晶玉に手を置く。


 「これは……おぉ!」


 「え、何ですか……これ? いいのか、悪いのか?」


 その水晶の輝きは、金色以上の虹色を燦然と輝かせていた。

 鈴華に続いての虹色。

 ミカに鬼龍くんに鳳凰院さんとA級を引き当てた上に再びS級を当選させたのである。

 国王は足をもつれ姿勢が崩れるが護衛の兵士に抱えられる。


 「……これで人類は勝利へ近付く……!」


 もう人類側の圧勝では?

 いやはや、全員が当たりで大当たりや超当たりを引き当てるとは思わなんだ。

 ンン、何とも良い結果に終わったね……。


 「次は小夜くんの出番だな!」


 鈴華の呼び掛けで我に帰る。

 そういえばミカの嫌がらせにより締めの役割を押し付けられていたんだった。

 遠慮しますと辞退出来る雰囲気ではない。


 「小夜くんも私達と同じ虹色か金色を出すだろう! 期待しているよ小夜くん!」


 謎の信頼と期待の籠った応援を鈴華より浴びせられる。


 「まぁ小夜なら心配ないさ」


 「仮に白が出ても私が慰めてあげよっか?」


 二人からも応援を受けますます辞退出来るような状況ではない。

 いや別に測定してもいいんだけれどさぁ……。


 「小夜ァ、俺より上の色出したらただじゃァおかねェからな」


 「普段通りに行けば大丈夫です。自信を持ってください」


 鬼龍くんと鳳凰院さんからも厚い信頼。

 なんなんだ。皆の僕への信頼と期待はなんなのか。

 万策尽きたか。

 もう行かねばならない雰囲気だよ、これは。

 

 「ありがとう……!」


 全員がB級以上を引き当てている。

 そんな中、僕がF級などを引いてしまえばどうなる?

 役立たずの技能や雑魚能力値だったらどうなる?

 それは明白だ。

 無能として軽蔑され侮蔑され、お前のような無能は要らないと追放されるのが定例だ。

 

 だからこそ僕は、

 追放されるべく大外れのF級を手にしてみせる。

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