第50話 榊原さんと偽カップルの練習その一
授業休業期間という名前の春休みに入り家でゴロゴロしていると二月に入って直ぐに榊原さんから連絡が有った。
『長田君、お父さんと会う日が決まった。二月十四日。それでね、いきなり二人でお父さんに会いに行ってもカップルの振りするの無理じゃない』
それもそうか。
『それでね。カップルの練習しない?』
『カップルの練習ですか?』
『うん、カップルの練習』
うーん、何をするんだ?
『どんな練習するの?』
『それは会ってから相談しよう。それでね、いきなりだけど明日空いている?』
明日は特になにも入っていないし。
『良いですよ。何処で会います』
『取敢えず中央区の駅の外改札に午前十時でいいかな?』
『いいですよ』
『じゃあ、明日ね』
ふふっ、長田君とデート。何しようかな。手を繋いで、いえ思い切り腕を絡ませて…、彼に抱き着いて…。出来ればチューなんて…。楽しみだなぁ。
そうだ一回じゃ駄目だから二回は会わないと。ホテルなんか行ったりして、うふふっ。
-ぞくっ!
榊原さんとの会話終わったら、背中が寒くなった。風邪引いたのかな。明日の件断ろうかな。
俺は、朝午前八時に目が覚めた。体調はいい。机の上に置いてある時計で外気温が三度と表示されている。結構寒そうだな。暖かい格好していくか。
一階に降りて洗面所で顔を洗いダイニングに行くと母さんが居た。
「あら、早いじゃない。まだ寝ていると思ったわ」
「うん、出かけて来る」
「帰りは?」
「遅くならないよ」
俺は、厚手のパンツに厚手のシャツそれにダウンを着てスニーカーを履くと外に出た。結構寒い。一応腕には榊原さんからクリパの時送られたメンズブレスレットを付けている。
中央区へは快速で三十分。一応十五分前に外改札に着いて右端の壁の所で待っていると五分前になって榊原さんがやって来た。
茶の膝下スカートに黒のロングブーツ白いダウンに首にはピンクのマフラーだ。女の子らしい。
「おはよう、長田君」
「おはよう、榊原さん」
「早速だけど近くの喫茶店に入って、練習項目をあげよう」
「分かりました」
なるほど彼女も何をして良いか分からないと言う事か。
駅近くの素敵な喫茶店に入った。前に榊原さんと来た所だ。二人で暖かいミルクティを頼むと
「早速だけど、お父さんの前でカップルらしくする為の練習項目挙げてみた。こんなのどうかな?」
彼女が挙げた練習項目は
-名前で呼び合う。
-腕を組んでぴったりと体を寄せ合いながら歩く。
-頬を付けてニコッと笑う。
-思い切り抱合う。
-プリクラでぴったりと抱き合った写真を撮る。
-キスの練習をする。
-胸揉みの練習をする。
「あのこれって?」
「だって将来を約束した二人に見せる為にはこれくらいしないと」
「でも最後二つは…」
「だって、お父さんの前でカップルだって証拠にキスしてみなさい、胸揉んでみなさい、なんて言われたら練習していないと出来ないでしょ。練習よ、練習」
「それは断れば?」
それに父親が目の前で娘の胸を揉めなんて言うか?
「そしたら認めないとか言われてお見合いする事になってしまうのよ。長田君、私を見捨てるの?」
「いやいや、そんな事無いからここに来ているんですけど、キスとか胸揉みはちょっと」
「いいじゃない。練習だから。それに一日だけの練習ではボロが出るかも知れないから二日位これしよう」
「えっ?二日も」
「たった二日よ」
「上の五項目は何とかしますけど後の二項目はちょっと…」
「長田君、私を助けてくれないの?」
寂しそうな顔をしながら下を向いてしまった。
参ったなぁ。普通偽カップルの練習とは言えキスの練習とか胸揉みするか?
「榊原さん、最後の二つは止めよ」
「お願いどっちでもいい。お父さんにキスって言われても胸揉みで許して貰うし、お願い」
今度は顔の前で手を合わせて頭を下げた。参ったなぁ。
「でもなぁ」
「とにかく、お願いします」
「じゃあ、キスは止めよ」
「どうしても?」
「うん、出来ない」
「じゃあ、胸揉みだけね」
「何処でするの?ここでは練習しないよね」
「それはそういう所で。いいじゃない後にしてさ、とにかく五番目までは直ぐにしよう。
「えっ?今から」
「いつする気なの?」
いつと言われてもな。仕方ないか。
「じゃあ、しますか」
俺の頭の中、ほぼ諦めモード。
二人で喫茶店を出た。彼女がいきなり俺の腕を掴んのはいいのだけど
「あれ、全然出来ない。もっと腕を絡ませた方が良いのか?」
「いや、二人のガウンが厚すぎて上手く回り切れないんですよ」
「じゃあ、ゲーセンでプリクラ取るからそこで練習しよう」
ゲーセンなんてこの近くに在るのかと思ったら、何とデパートの中に在るらしい。近くの大きなデパートに入ると暖かいのでガウンを脱いだ。
「博之、腕絡ませよ」
「博之?」
「そうだよ。名前で呼ぶんでしょ。美里って呼んで」
「み、美里さん」
「さん要らない。ほらぁ練習する必要あるじゃない。はい、美里」
「美里」
「うん、宜し」
榊原さんは、俺の腕に彼女の腕を思い切り絡ませてきた。
「これじゃあ、歩けないんじゃ」
「大丈夫、大丈夫。さっ、行こうか」
彼女が寄りかかる様にしてくるので柔らかいものが思い切り腕にくっ付いて来る。思ったより大きそうだ。
彼女に引っ張られる様に歩いてエスカレータに乗って、二階のフロアへ行くとフロア半分位に色々なゲーム機が置いてある。クレーンゲームとかガチャとか呼ばれている機械が所狭しと並んでいる。
「長田君、目的の場所はあっち」
「榊原さん、来た事有るの?」
「美里」
「あっ、美里。来た事有るの?」
「うん。大学の女子友達と来た事あるよ」
ゲーム機の間を通って連れて来られたのは写真を撮る可愛いピンクや白の機会が並んでいる所だ。
「ここで撮るの。じゃあまず思い切り抱いて」
「えっ、ここで?」
「うん」
「流石にここでは」
「そっかぁ、じゃあ最後の項目の練習の時ね。さっそくプリクラしよう」
近くに在ったプリクラの機械に二人で座ると
「博之」
そう言って思い切り抱き着いて来た。
ふふっ、練習とはいえ嬉しい。彼の匂いが一杯する。ずっとこうして居たい。
「あの、美里?」
「練習、練習」
仕方なくそのままにしていると
「よし、今度は頬をぴったりとくっ付けて写真撮るよ。私の左頬に博之の右頬くっ付けて」
「こ、こうか」
流石に抵抗がある。付くか付かないか位にしていると
「駄目、こうよ」
思い切り頬を押し付けて来た。左腕は俺の肩に回されている。
「博之も私の右肩を抱いて」
「うわぁ、うわぁかった」
頬がくっ付いているので喋り辛い。
「じゃぁ、
「
撮った写真サンプルを見てお気に召さなかったらしく
「もっと笑わないと」
益々、顔が引き攣りそうだが、何とか笑い顔をして撮ると、サンプルを見た彼女が
「じゃあ、ちょっとデコしてっと。これでいいかな博之」
サンプルにはハートマークがお互いの頭や周りに一杯降っていた。
「良いんじゃないか」
「よし、では次に行こう」
今度はいったいどこに行くんだ?
―――――
この続きは次話のその二になります。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。
「僕の花が散る前に」
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交通事故で亡くした妻への思いが具現化する物語です。初めちょっと固いですけど読んで頂ければ幸いです。
応援(☆☆☆)宜しくお願いします。
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