第41話 チャンスは積極的に生かすべし


 学祭最後の日、俺の担当は昨日午後担当だったので、今日は午前中で終わりだ。早瀬先輩が一緒に回りたいというお願いを大隅や榊原さんと回るからという事で回避出来た。


 行く先は当然他の学部。特に工学部や情報データサイエンス学部は楽しそうだ。でもそれも午後三時まで。その後は付属図書館の前に特設されたミスコン特設ステージに行く事にしている。

 

 今年のミスコンへのエントリー数は六人。一人ずつ舞台に出て来て紹介されている。その内三人が特に目を引く子だ。大隅が

「なあ、今年は粒ぞろいだな」

「今年はと言われても去年見なかったし」

「えっ、そうだっけ?」

「うん、あんまり興味無かったし」

「まあ、理由は分かるけど」

 長田は山田さんの事もあり気が滅入っている時だったからな。


「ねえ、長田君、大隅君。今年は誰を応援するの?」


 大隅が

「俺は一番右から二番目の髪の毛が長くて切れ長の綺麗な子」

「俺は…。皆綺麗だから全員」

「なにそれ、選ぶんだから。スマホにミスコンソフト入れているでしょ。誰か選ばないと」

「そうなんだけど」


 自己紹介に始まって、自分の得意な事、踊りや歌、楽器の披露、司会者が六人に同じ質問をしてどう対応するか等、色々な催しをする度に見ている人から笑いや拍手が起こった。


 その後は、見ている人から舞台上にいるエントリーした女性への質問とか有って最後の投票になった。


 選ばれたのは大隅の押しではなく肩までの亜麻色の髪の毛で目がぱっちりとした可愛い女の子だ。


 凄い拍手と本人の喜びの声を聞いた後、去年のミスコン一位、昨日俺達の教室に来てくれた真行寺友恵さんが、新しいミスコンの頭に素敵なティアラを乗せてあげて更に大拍手。


 真行寺さんって明らかに目立っている。今年のミスコンが薄くなるほどだ。


 そして無事にミスコンは終わり。榊原さんが

「ねえ、どこか行く?」

「うーん。偶にはいいかな」

「えっ、長田君いいの?」

「大隅も行くだろう?」

「そうだな。偶には三人でかるーっく行くのも有りかな」

「やったぁ」


 でも時間は、まだそんな時間ではなく他にまだ催し物をしている所を回って午後五時を過ぎた所で大学を出ようとしたところ、偶然南門で一人で帰ろうとしている早瀬さんを見かけた。

「あれ、珍しい。早瀬先輩一人だよ。こんな日は誰かと一緒じゃぁないの?」


 ちょっとだけ寂しそうな顔をしている。あっ、こっちを見た。ほんとに偶然だ。落ち込んでいた顔の瞳が大きく見開くと走ってこっちに来た。


「長田君、帰り?」

「先輩も?」

「ええ。ねえ、この後どこかに行かない。飲まなくても良いから」

「早瀬さん、私達は三人で飲みに行くんです。邪魔しないで下さい」

「長田君…駄目かな?」

「駄目に決まっているでしょ。邪魔しないでよ」

 榊原さんの言い方がちょっときつい。


 先輩は肩を落とすと思い切り寂しい顔をしてまた門の方にトボトボと歩き始めた。

「長田良いのか?なんかいつもと違う感じだけど」

「でも、あの人と飲むと…」

「飲まなくて良いと言っているし」

「大隅君、駄目。今日は飲むの。やっと来たチャンスだよ」

「チャンス?」

「勿論、三人で初めて飲めるという意味」

「榊原さん、ごめん。自分がお人好しだって分かっているけど早瀬先輩は俺のグループの仲間なんだ」

「でもう」


 あーぁ、長田君が早瀬さんの所に早足で歩いて行ったよ。長田君が早瀬さんに何か話をしている。


 彼女が思い切り首を縦にうんうんって感じで振っている。そして思い切りの笑顔でこっちに歩いて来た。


「長田の奴。だから苦労するんだよ。でもあいつのあういう所大好きだぜ」

「私もだけど…」


 その日は早瀬先輩を入れた四人で近くの居酒屋で飲んだ。先輩にはチューハイ二杯以上絶対に飲まない事。

 チューハイを口にする時は必ず先に水を飲む事を約束させた。これは俺が先輩と二人で飲んだ時、なるべく酔わない様にする為に覚えた方法だ。


 二時間近く居酒屋で飲んだ。普通に話していれば先輩は綺麗で楽しい話が出来る人だ。何故か今日は榊原さんが酔ったから送って行けと言われたけどそれは大隅に任せた。


 俺はもう午後七時を回っているので一人で帰るつもりだ。早瀬先輩も一人で帰ると言っている。でも別れ際に


「長田君、榊原さんにきつく言われた日から他の人とは会っていない。全部別れた。誰ともしていない。本当に君の事が好きなの。だから今度はきちんと付き合ってほしい」


 俺は少し考えてから

「済みません。当分女性と付き合うのは止めます。勉強に集中したいので。でもグループでは教えてください」

「うん、分かった。君が私を受け入れてくれるまで待っている」

「無理かもしれませんよ」


「それでもいい。じゃあ今日は約束通り一人で帰るね」

「酔っているんだから気を付けて下さいね」

「ふふっ。こんなの酔ったうちには入らないわよ。君が一番知っているでしょ」

 この人反省していない様な。


 この日は無事に一人で家に帰れた。榊原さんと大隅がどうなったかは、今度聞いてみるか。上手く行ってくれると良いんだけど。



 三日後に大隅と榊原さんと一緒に授業を受けた後、フードコートでお昼を食べている時、聞いたら送ったのは途中までだったそうだ。


 俺達三人がお昼を食べていると俺の目の前に立った女性が居た。ラーメンを食べていたので顔を上げると

「こんにちわ長田君」


 立っていたのは真行寺さんだった。



 §真行寺

 学祭の時、長田君と会って取敢えず顔と名前は憶えて貰った。今度はそれをきっかけに彼と接触するだけ。


 そう思っていたらフードコートでいつもの三人で昼食を摂っていた。だから私は近付いて声を掛けた。


「こんにちわ長田君。私も一緒に食べていい?」

 

―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。

「僕の花が散る前に」

https://kakuyomu.jp/works/16818093089353060867

交通事故で亡くした妻への思いが具現化する物語です。初めちょっと固いですけど読んで頂ければ幸いです。

応援(☆☆☆)宜しくお願いします。

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