第40話 学祭の発表にやって来た綺麗な人
学祭が始まった。予想していた通り、俺達の
大体の見学者が途中で引き返していく。世に言う店番は三年生が中心で偶に四年生が手伝ってくれているのだが、早瀬先輩が俺と一緒に店番していた仲間の耳に小声で何か言うと
「えっ、良いんですか?」
「うん、任せて」
「じゃあ、お言葉に甘えて。長田、俺休憩に入るから」
「えっ?!」
その後ろ姿を見ながら唖然としていると
「長田くーん。一緒に店番しようねーっ」
「……………」
何も言えない俺の肩を掴んで来る。教室の中なので外からは見えない。
「先輩、何をするんですか?」
「だってぇ、最近会ってくれないしーっ。だからぁ、こうして長田君成分を感じ取っているの」
何?この高校生の乗りの言い方。でもこのままでは、万一誰か訪れると不味い。
「先輩、あのここは教室です。今、学祭中ですから」
「大丈夫よ。誰も来ないわ」
「そんな事無いです」
俺は早瀬先輩が肩に乗せていた手を払いのけるとサッと廊下に出た。見ると皆途中の教室まで来て帰って行く。
これではと思い、入口にちょこっと置いてあった手作りの看板を廊下の真ん中で隣の教室との間位に置いた。これなら邪魔にならないだろう。
§早瀬
はぁ、長田君に抱かれたい。あの時から今までの男とは会う事を止めている。形だけでも長田君だけにしないと彼の彼女という立場にならないからだ。
でも私の体はそんなに簡単では無くて…結局自分でするしかなくなってちょっときつい状態が続いている。
学祭は、店番と呼んでいる担当時間が終われば自由だ。だから今日こそ誘うと思っている。
でも肩を掴むのさえ嫌がられている。あの榊原とか言う女の子が、彼の前で私を思い切り罵倒したからだ。何とか濡れ衣を晴らしたい。いや身の潔白を証明したい。
教室に戻って来た彼は机に置かれたPCの前の椅子に座った。また近付こうとすると入り口から誰か入って来た。
俺は入って来た女性を見て、ちょっと驚いた。凄い美人だ。
色白で女性にしては背が高く、背中の途中まで黒く艶やかな髪の毛があり、切れ長の大きな目にスッとした鼻、そして可愛い唇が特徴の綺麗な女性。
「あの、看板見て来たんですけど?」
「はい」
「これって相手が居ないと出来なんですか?」
「基本的には」
「じゃあ、君私の相手になって下さい」
「えっ…。俺で良いんですか?」
「はい、あなただから良いんです」
うん?なんか含みがあるような?
「それではこの用紙に自分の性格と血液型と星座を書いて下さい」
「私の性格を書くんですか?名前は書かなくてもいいんですか?」
「いえ、名前は結構です。その用紙が個人情報になってしまうので」
「あなたは書かないの?」
ちょっと疑わしそうな顔をしている。
「分かりました。俺も書きます」
何となく書かないといけない雰囲気なので仕方なく書いた。
自分の性格…お人好し
血液型…A型
星座…かに座
入って来た女性が書いた内容は
自分の性格…真面目で恥ずかしがり屋
血液型…O型
星座…さそり座
何故か、名前まで書いてある。
俺はこの情報をPCの中に作った相性占いプログラムの中に入力した。そしてエンターキーを押すと
ジャンジャカジャーン!
という音と共に大きく画面の真ん中にピンク色で表示されたのは
『相性ピッタリ。付き合えば何事も上手く行きます』
これって!
「わぁ。凄い。相性ピッタリ。付き合えば何事も上手く行きますって書いてある。嬉しい!長田君だよね。ありがとう楽しかったわ。ねえ、この用紙貰って行っていい」
俺、名前書いてないけど?
「はい、個人情報になるのでお持ちください」
「ふふっ、ありがとう」
何故か俺の用紙も自分の可愛いバッグの中に入れて教室を出て行ってしまった。
俺が唖然としていると
「真行寺友恵。去年のこの大学のミスコン一位、圧倒的な票差で一位になった子。身長百七十センチ。モデル並みのプロポーションで色々な男子から声を掛けられているけど全て断っている人」
「へーっ、あの人有名なんだ」
「長田君知らなかったの?」
「はい、大学の中では勉強と仲間しか会っていないですから」
「私は彼女でいいよね」
「いや、それは…」
「ねえ、私もう他の人と別れ…」
次のお客様が入って来た。良かった。何故かその後、コンスタントにカップルや男子、女子それに一般人までも入る様になった。あの人この教室の女神様?
§真行寺友恵
ふふっ、やっと会えた。二年生の時、フードコートで見かけてから、毎日とは言わないまでもずっと彼を見て来た。
背が高くて細面で笑顔が爽やかな男の子。それ以外は知らないけど、世に言う一目惚れ。理屈なんかない。
だから話しかけるチャンスをずっと探っていたけど、いつも仲のいい男子と女子がいて声を掛けるチャンスも無かった。でもやっと彼が情報数理学の学生だという事を知り合いから教えて貰った。
彼の研究室でも何か出すはずと思い、理学部の一号館二階のメディア教室に行って見たら看板を立て直している長田君を見つけた。
ほんと、やったーっと思った。催し物が何か分からなかったけど看板を見ると相性占いと書いてある。
凄いチャンスと思って教室に入ると男癖が悪いので有名な早瀬琴葉と彼が居た。チャンスと思って彼と一緒に相性占いしたらなんとピッタリだった。後は行動のみ。
この日は、俺の担当が最後の方になって榊原さんがやって来た。
「やっほー。長田君」
「榊原さん」
「私と長田君の相性占いに来たよ」
「それじゃあ、この用紙に自分の性格と血液型と星座を書いて」
「了解」
性格…何事にも控えめ
血液型…B型
星座…おうし座
一部虚偽の申告が有る様に思えるが…。
「さっ、入力して。そう言えば長田君のは?」
「うん、さっき入力したログがあるから」
「えっ、長田君誰かと相性占いしたの?」
何故か榊原さんは、俺の後ろに立っている早瀬先輩を睨んだけど
「入って来た人が女性一人の時は、俺が相手になってあげているだけ」
「何それ。不味いじゃない。相性抜群なんて出たら」
「まだ、一人もいないよ。(嘘です)」
「よかった。早く入力して」
「うん」
ジャジャジャジャーン!
誰だこんな曲入れたのは?画面の真ん中に黒い文字で
『お友達として素晴らしい関係を続けられる二人です』
「えーっ、もう一度やろうよ」
「何回やっても同じだから」
§早瀬
ふふっ、長田君と相性がいいのは私よ。榊原さん。もちろんあっちの事だけど。
「長田君、いつ終わるの?」
「後、十分弱。もう交代の人来てるし」
「そっかぁ。じゃあ、一緒に見て回ろ」
「ちょっと待ってよ。長田君と一緒に見て回るのはこの私よ。同じ研究室なんだから当然でしょう」
「早瀬さん、意味が全く分かりません。私と行くのが当然です」
「二人共止めて。他の人も居るんだから」
「「ごめんなさい」」
結局この日は、榊原さんと学祭を見た後、一緒に駅まで帰った。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。
「僕の花が散る前に」
https://kakuyomu.jp/works/16818093089353060867
交通事故で亡くした妻への思いが具現化する物語です。
応援(☆☆☆)宜しくお願いします。
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