第42話 新しい人は目立つ


「こんにちわ長田君。私も一緒に食べていい?」


 俺に声を掛けて来たのは、学祭の時、俺達の研究室の出し物に来てくれた女性、真行寺友恵さんだった。


「真行寺さん」

「ここ良いかな?」


 俺は大隅を見ると

「俺は構わないけど」


 でも榊原さんが不服そうな顔をしている。しかし

「いいけど。他だって空いているじゃない」

「ごめんね。私、長田君と一緒に食べたいの」

 

 また、大隅の目が笑っている。



 §榊原

 山田さんが居なくなり、早瀬さんが退いたと思ったら、何で今度は真行寺さんなのよ。

 それもこの大学では、ずば抜けた美人。モデル並みのプロポーションだし、この人じゃ勝負にならないよ。


 真行寺さんは食べながら

「長田君達はいつも一緒に食べているの?」

 知っているけど知らない振りして聞いてみた。でないとストーカーと間違えられる。


「ええ、いつもこの三人で食べています」

「そう、これから私も仲間に入れてくれないかしら」

「「「えっ?!」」」


「そんなに驚かなくてもいいでしょう。あの相性占いで長田君と私、ピッタリだったじゃない。ねっ!」


 もう大隅の目は富士山みたいに笑う寸前だ。あっ、堪え切れなかった。

「ぷははっ、長田。お前という奴は、女性を惑わせる媚薬でも付けているのか?」

「そんなものある訳無いだろう」

「そうだよな。有ったら俺も欲しいよ」


「ふふっ、あなた達楽しそうね。私も仲間に入れてね」

「俺は構わないぞ。何と言っても去年のミスコン一位をぶっちぎりで取った真行寺さんだからな。昼食が楽しくなるよ」

「ありがとう。君の名前は?」

「大隅誠です。宜しく」

「私は…」

「知っているわ。榊原美里さんでしょ」

「何で私の名前を?」

「まあ、そんな事はいいじゃない。あっ、もうこんな時間だ。ごめんね長田君。もう行かないと。また明日」


 真行寺さんは、食べ終わった皿が載っているトレイを持って、食洗機室の方へ向かった。

「長田、どういう事だ?」

「俺にも分からない。学祭の時、俺達の催し物に一度来ただけなんだが」

「でもさっき相性ピッタリと言っていたわよ。この前長田君に聞いた時、誰もいないって言ったじゃない。嘘つき」

 大隅が腹を抱えて笑い始めた。


「もう、三限目が始まる時間だ。行こう」

「モテる男は辛いな」

「誰がモテる男だよ?」

「長田以外に居るか」


 俺に取っては災難でしかないのに。


 その次の日から毎日とは言わないが、真行寺さんが一緒に昼食を摂る様になった。彼女の人気がどれだけの物かは良く分かった。


 今迄大隅と榊原さんだけで食べている時、周りは疎らだったのに、彼女が俺達と一緒に食べる様になってから、周りに男子学生が多くなった事だ。女子学生も少なくない。


 そして真行寺さんは主に俺にばかり話しかけて来るので、当然男子学生の視線が痛い。どう見ても勘違いしている。



 そして、四限までで研究室にも行く必要が無かった日、家に帰ろうと思って南門に向かっていると


「長田君」

「真行寺さん」

「あれ、いつもの二人は?」

「珍しく、別々に用事が有るらしくて」

 二人のプライベートを言う必要はない。


「そうなんだ。良かったら。喫茶店に寄らない。私、君の事もっと知りたいんだ」

「俺の事知っても何の得にもなりませんよ」

「いいの、いいの。さっ行こう」


 迷惑だけど…迷惑じゃない。こんなに容姿端麗の人が俺を誘ってくれているんだ。無下に断る理由はない。


 やって来たのは、大学近くの綺麗な喫茶店。前に榊原さんと行った所とは違う。


 ドアを引くとノスタルジックにドアベルが鳴った。真行寺さんが先に入ると

「いらっしゃい。友恵ちゃん。あれ、珍しく二人かい」

「うん」

「適当に空いている席に座って」

「はーい」


 中に入ってから少し左奥のテーブル席に二人で座ると

「真行寺さん、ここ良く来るんですか?」

「うん、一年の時からね」

「へえ、長いですね」


 そこに先程彼女の名前を呼んだマスターらしき人が水の入ったグラスと紙おしぼりを持って来た。

「友恵ちゃん。もしかしてこの子が長田君?」

「えっ?」

「叔父さん、駄目だよ。いきなりそんな事言っちゃぁ」

「えっ、付き合っているんじゃないの?」

「もう、早くあっちに行って。あっ、長田君、コーヒーでいい?」

「はい」

「じゃあ、ブレンド二つね」

「分かりました」


「あの、…どういう事?」

「ごめんなさい。本当は長田君の事、二年生の時から知っていて。でも学部違うから会えなくて。そしたらフードコートに毎日行っている事が分かって。でも名前知らなくて」


 顔が段々赤くなって来た。でも言っている事が良く分からない。

「落着こう。どうして俺を?」

「あの…。恥ずかしくて言えない」


 そんな話をしているとマスターこと叔父さんがいい匂いのするブレンドコーヒーを持って来た。

「がんばれ友恵ちゃん」

「もう、余分な事言わなくていい」

「あははっ、ではごゆっくり」


「とにかく、私は長田君の事を…。と、友達からでいいです。付き合って下さい」

 もう顔も耳も真っ赤で下を向いている。


 付き合うというか、もう俺は卒業するまで恋愛は良いと思っている。でもこんなに綺麗な人がこんなに一生懸命言って来ている。でも直ぐにうんという気にはならない。


 俺が黙っていると

「長田君、今お付き合いしている人いるの?」

「いないです」

「じゃあ、私と」

「真行寺さん。俺もう大学卒業するまでは女性と付き合うの止めようと思っているんです」

「なんで?」

「それは…」

 俺の恥ずかしい過去なんて言えない。


「勉強に集中したいんです」

「それは私も同じ。でもお昼一緒に食べたり、偶には会う事だって出来るわよね。お願い、やっとこうして会えたの。男性好きになったの君が初めてなの」

「えっ?」

「あっ、言っちゃった」

 また顔を赤くして下を向いてしまった。一体俺のどこが良いんだ。モテる顔でもないし。何人もの女性に裏切られている。この人だって…。


「俺のどこが好きなの?」

「全部、かっこ良くて優しそうに笑う笑顔が好きで、でもまだこれだけしか知らない。外見しか知らない。

 でも二年の時からずっと見ているけど、今迄あの二人といつも仲良くしている。だから私も君の事もっとよく知って。私も知って貰って、それから…」


「分かりました。とにかく付き合うという特定の事は出来ないです。でも友達なら良いですよ。大隅や榊原さんと同じ様に」

「ほんと!うん、それからでいい。ねっ、スマホの連絡先交換しよう」

「それは良いですけど」


 コーヒーが空になった所でマスターがコーヒーサーバーを持って来た。

「お代わりはいかがですか?」

「はい、貰います」


 それから三十分程話した。彼女は大学から俺と同じ方向に三十分程行った街、何と俺の住んでいる街から十五分程の所だった。

 そのおかげで

「長田君、毎日一緒に通学しよう」


 頭が痛くなって来た。

 

―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。

「僕の花が散る前に」

https://kakuyomu.jp/works/16818093089353060867

交通事故で亡くした妻への思いが具現化する物語です。初めちょっと固いですけど読んで頂ければ幸いです。

応援(☆☆☆)宜しくお願いします。

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