第28話 忘れ物は痛い思いをする
二月も終りになる頃、俺は部屋の中で一年の復習をしていると見たい資料がアパートに置き忘れている事に気が付いた。
「どうしようかな。でもあれが無いと分からないし」
独り言を言っても仕方ない。時間は午後四時、もう山田さんはアパートにいるはずだ。スマホで連絡を取ると直ぐに出た。
『山田さん、長田です』
『あっ、長田君。久しぶり元気?』
『はい、元気です。見たい資料をアパートに置いて来てしまったので明日そっちに行きます。ついでと言ったら悪いですけど一緒に食事でもしませんか?』
『ほんと、嬉しい。夕飯でいい。昼間はバイト入っているし』
『ええ、両親には一泊すると言っておきます。午後五時位には行きますから』
『嬉しい。じゃあ、準備して待っている』
ふふっ、長田君と久しぶりに夕飯を一緒に食べれる。何作ろうかな?
翌日、起きると母さんに
「アパートに見たい資料忘れているから取りに行って来る。向こうで一泊して来るから」
「分かったわ。帰って来るのは明日?」
「うん、そのつもり」
俺は午後四時少し前に家を出た。ちょっと早く着くけど問題ないだろう。
私は、午後三時までバイトをした後、一度アパートに戻り部屋を掃除した。やはり一人だと掃除とかルーズになる。
散らかっているダイニングや、多分関係無いけど自分の部屋も掃除した。彼の部屋には鍵が無いから入れない。
午後四時半位になり夕飯の買い物に出かけた。この時間になると結構暗いけど真っ暗という訳でもない。人通りも多い。
今日は一緒にお鍋を突くつもりだ。駅近くのスーパーで買い物してアパートの近くまで来た時だった。
えっ、いきなり後ろから口を押えられ脇の下から手を入れられた。私より背が高い。
ずられながら横道に連れ込まれる。不味いと思っても力の差があり過ぎる。駄目かと思った時、
俺は、午後五時少し前に駅を降りてアパートに向かっているとアパートに近くで男が女性をいきなり後ろから抱き着いて横道に連れ込もうとしている。
急いで駆け寄ると女性は山田さんだ。
「山田さん」
彼女を後ろから抱きかかえる様にしている男の肩を掴んで振り向かせようとした時、男は振り返っていきなり俺に殴り掛かって来た。
グキッ!
いきなりの事だったので避けたけど顎の部分を殴られた。でも俺より体は小さい。
強引に男の体を摑まえたけど喧嘩なんか知らない俺は、相手の体を抑えるだけだ。その間にも男が俺の体を殴って来る。痛いけど離す訳にはいかない。
「何やっているんだ」
通りがかりの人が俺を殴っている男の腕を摑まえた。その間に俺は体勢を立て直して男の後ろに回り込むと羽交い絞めにして体重を掛けながら地面に抑え込んだ。
パトカーがサイレンを鳴らして近付くと俺や男を抑え込んだ。
「お巡りさん、その人は私を助けてくれたんです。下にいる人が私を襲った犯人です」
男は警察官に抵抗したが、抑えられて手錠を掛けられた。顔にマスクとサングラスをしていたが争った時、落としたのか顔が分かった。
「大石さん!」
「知合いですか」
「バイト先の人です」
通りがかりの人にお礼を言った後、大石はパトカーに連れ込まれた。そして私達も警察に連れて行かれた。
長田君も大石も別々の場所で聞かれているのか私の近くに居ない。一時間位色々聞かれた後、長田君が手当てして貰ったのか、顔の二か所にガーゼを付けて私の所に来た。
「大丈夫だった。長田君?」
「うん、警察の人が丁寧に手当てしてくれた」
「そう」
二人が話をしていると
「山田さん、長田君。君達はまだ未成年だ。この事はご両親に報告する事になる。宜しいですね」
「「はい」」
家に電話したけど母さんしか居なくて警察官が事情を説明した後、俺が出て
「母さん、大丈夫だから。予定通り一泊して明日戻るよ」
「博之、本当に大丈夫なの?」
「こうして普通に電話しているじゃないか。問題ないよ」
「そうなの。気を付けてね」
大石は、暴行傷害の現行犯で逮捕されたと警察が言っていた。また来て貰う事になるとも言われた。
警察署からサイレンを掛けないパトカーでアパートの近くまで送って貰ってから周りに気付かれない様にそっと降りてお礼を言って、二人でアパートに戻った。
私はアパートに戻ると思い切り腰を曲げて
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。こんな事に巻き込んでしまって。なんて謝ればいいか分からない」
「謝るなんていいよ。それより山田さん、怪我無かったの?」
「うん、私は大丈夫」
「じゃあ、夕飯作ろうよ」
「うん、私が作るから椅子に座って居て。テレビ見ていてもいいよ」
「えっ?テレビ買ったの?」
「だって山田君がいなくて寂しかったから」
「……………」
なんて返せばいいんだ。
俺は自分の部屋に入るとベッドとか周りを少し掃除した。人が居ないと埃って溜まるんだな。
三十分位してダイニングに戻ると
「もうすぐ出来るよ。今日は二人でお鍋突こうと思ったんだ」
「へーっ、それは嬉しいな」
「食器揃えてくれる」
「分かった」
俺は台布巾でテーブルを拭くと二人の食器を並べた。久しぶりの動きだ。取り皿や鍋敷きも置いて待っているとご飯が炊けた音がした。
「長田君。鍋持って行ける?」
「簡単だよ」
厚手の布巾で鍋の二つの取っ手を持ってテーブルの鍋敷きの上に置いて位置を確かめると鍋から手を離した。
「じゃあ、食べようか」
山田さんが炊き立てのご飯を盛ってくれる。彼女の分も盛り終わった後、お鍋の蓋を取って食べ始めた。
「美味しい。こんな時間でこんなに大根に火が通るんだ」
「うん、コツがあるんだよ」
「へぇ」
お互い会わなかった時間の事を話ながら夕飯を食べた。
「もう、お腹に入らない」
「ふふっ、お粗末様でした」
山田さんがシンクに入れた食器を洗っている間、取りに来た資料を見ていると
「長田君、シャワー浴びれる?」
「ちょっと厳しいな。でも手とか足とか洗って来る。あっ、タオルが無い」
「私ので良かったら使う?」
「それは流石に…」
「長田君さえ嫌でなかったら私はいいよ」
「それでも…」
洗面所の脇の台から山田さんのタオルを取り出すと
「使って」
「ありがとう」
この雰囲気では断れない。洗面所に行き洋服を脱ぐとちょっと青あざの所もある。あいつ結構好き勝手殴っていたからな。
手とか足とか、洗える所は洗ってからお風呂から出た。彼女のタオルを触るととても柔らかくていい匂いがする。申し訳ないと思いながらも使わせて貰ってから風呂場から出ると
「タオル使わせて貰ったから」
「うん、構わないよ。そこに置いておいて。次に私が入るから」
「分かった」
普通ならどきっとする会話だけど、一月にこんな感じでお互いが注意して入っていたのでもう気になっていない。
俺はそのままベッドに横になると眠りに落ちてしまった。
私は、お風呂から出てもう少し彼と話せると思ったら、ダイニングに居ない。彼の部屋を見るとドアが開いていた。覗くと彼はベッドの上でそのまま寝ていた。
このままでは風邪を引くと思って足元に掛けてあった毛布を彼の体に掛けた。そのまま部屋を出ようとしたけど彼の寝顔が可愛い。
ベッドの傍にある椅子に座りながら
「長田君、今日はありがとう。あなたがいなかったら私、今頃どうなっていたか。君が今日ここに来てくれるって言ったのは神様のお導きよね。大好きよ長田君」
私は、洗面所に一度戻ると髪の毛を乾かしてパジャマに着替え、いえブラとパンティだけ着けると彼の横に滑り込んだ。結構狭いけど構わない。もう決めたんだ。
朝、目が覚めても彼は起きていない。疲れたのかな。横顔が可愛い。ブラを取ってからゆっくりと彼に跨ってキスをするとゆっくりと私の体を彼の上に乗せた。気持ちいい。
うん?ちょっと重い様な。でも暖かい。目をゆっくり開けると、えっ!山田さんが裸で俺の体の上に居る。どうして?
「山田さん、これは?」
「長田君、私の言う事を聞いて」
「なに?」
「私は、長田君と初めて会った時から好きな気持ちが芽生えたの。でも友達のままでいいやと思った。
大学で一緒に食事をするだけだったけど、君と話すのは楽しかった。アルバイト一緒にやっているのが楽しかった。
昨日、君が来てくれなかったら、私は今頃どうなっていたのか分からない。でも君は来てくれた。私を助けてくれた。私は神様が私達を結びつけるきっかけをくれたんだと思った。
だから好きという気落ちを隠さない。もう我慢しない、君に抱かれたい。お願い長田君」
そう言うと彼女はゆっくりと俺の唇に彼女の唇を合わせて来た。後は流れるままだった。彼女は初めてじゃなかった。でもそんな事気にしないで二人でした。
俺も久しぶりだったので思い切りしてしまった。最後の時、我慢出来ないと言ったら大丈夫だからと言われたので…。
結局、二回してしまった。彼女も慣れているという程ではないが色々してくれた。だから俺もそれに応えた。
狭いベッドの上で二人で寄り添う様に横になっている。
「狭くてごめんね」
「ううん、こっちの方がいい」
「ねえ、毎日とは言わない、週一回でもいい。こうしてくれるかな。心が温まるんだ」
「分かった。いいよ」
バイトはしなかったけど、二年生前期の履修登録の時期になる迄、週一回位家からアパートに来て彼女とした。そして三月も下旬に入る前に俺はアパートに戻った。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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