第17話 秋の陽はつるべ落とし、そして寒い冬は過ぎて行く

 

 夏休みも終わった。始業式当日は美優と登校する事にしている。多分高校生の間はそうするだろう。


 浦永先生が言っていた冷却期間。俺も八月一杯美優から離れ勉強に夢中になっていた事で一学期に起きた事は頭の片隅の更に片隅に追いやられた。そんな事思い出す暇も無い。



 始業式の一週間前に美優から連絡が有ってずっと一緒に登下校して欲しいと言われた。俺の心の中にはさっき言った通りでわだかまりは大分消えていた。だから


「美優、恋人同士は解消したけど幼馴染には戻るか。でももう恋人にはならないよ」

「…うん」


 少しの寂しさの顔の後、思い切りの笑顔になった。昔なら飛びついて来ただろう笑顔だ。でも彼女もそこは自重している。


 そして、俺は、直ぐに浦永先生に連絡して学校で少しだけ話をさせて貰うことにした。二学期開始一週間前になるとクラスを持っている先生のほとんどは学校に出勤している。


「先生忙しい所すみません」

「いいのよ。夏休みの宿題、石井さんと一緒にやってくれたんでしょ。そのお礼よ。ところで話って何?」

「美優を俺の近くの席に移動させて欲しいんです」

「また無理なお願いを簡単に言ってくれるわね」

「美優は学校に来る気になっています。でもいくら夏休みが冷却期間だからって、そんなに人間の心は変わる事は有りません」


「君は変わったのに?」

「美優は生まれた時からの幼馴染です。だからその運命に逆らう事はしないつもりです。だからあくまで幼馴染として美優を守りたいんです」

「まあ、白馬の騎士みたいな事言っちゃって。私がもう少し若ければ長田君の彼女になりたかったな」

「先生話が逸れてますよ」

「あら、おほほ、ごめんなさいね。でも先生の一存では決められないわ。学年主任、教頭先生、校長先生も納得のいく理由が無いと」


「先生のクラスから転校生が一人出るのと有名大学に一人合格するのとどちらを選びますか?」

「まあ、この子ったら、教育者を脅すつもりなのね」

「そんなつもりはありません。ただ、前に先生が言った通り美優に普通に大学に入って欲しいだけです」

「先生、やっぱり長田君の事好きになりそう。…コホン。分かったわ。夏休み中に職員会議に掛けて話を通すよう頑張るけど絶対は無いわよ」

「分かっています。宜しくお願いします」



 私は、長田君が校舎を出て校門に向かって行く姿を見ていると

「なるほど、一人の子の過ちはもう一人の子の心の成長につながったみたいですね」


 私は振り向くと

「教頭先生。その様です。私も彼の意見に賛成です」

「私もですが、彼の傍の誰を移動させるんです。鮫島君は駄目でしょう」

「はい、前に座っている子に相談してみようかと思います」

「そうですか。その子の内申書、少しプラスしないといけないですね」

「まあ、それがいいでしょう。成績良くない子ので」



 浦永先生と教頭先生がこんな話をしているとは知らなかったが、始業式の日に美優と俺が教室に入って行くとざわざわ騒いでいる。 

 

 どうしたのかと思っていると、美優の席に一学期の時、俺の前に座っていた子が座っている。


 なるほどそういう事か。俺は美優に

「美優、お前の席は俺の前だ」

「えっ!本当なの?」


 そんな会話をしていると今美優の席に座っている女子が近付いて来て

「石井さん、席を譲ってあげるわ。その代わり、もうクラスの皆に迷惑を掛ける様なことはしないでよね」


 それだけ言うと新しい自分の席に戻った。

「博之…」


 俺は黙って頷くと美優は嬉しそうな顔をして俺の前の席に座った。隣の恭二が

「博之、昼休みな」

「おう」



 それからというもの、クラスの子が美優の事を口攻撃する事も無く苛めている気配も無くなった。

 ただ、美優に優しく口を利いてくれる子もいなかったけど。

 

 美優は勉強に集中した。文化祭は休んだ、仕方ない。誰も美優を仲間に入れてくれないからだ。


 そして十月第二週初めの模試とその後の中間考査、十月最終日の高校生最後の模試もやり通した。


 放課後美優と一緒に帰りながら

「どうだった。この前の模試は?」

「うーん、一応全問解答したけど、自信のない所も一杯有った。博之は?」

「同じだよ」

「美優、俺と一緒の大学にしなくて大丈夫なのか?」

「うん、博之は優しすぎる。でも元に戻れないのは苦しいよ。だから東京の大学に行く。そうすればもう私の事を知っている人も居ないし」

「そうか」


 俺は県内にある国立大学に行く事にしている。美優の気持ちは分かるけど、若い俺にはあの事はインパクトが大きすぎた。狭量と言われても仕方ない。



 正月になる頃には、お互いの両親も前の様に普通に会話する仲に戻った。美優の両親は俺の顔を見る度にお礼を言ってくれるけどもうお腹一杯だ。



 そして大学入学共通テストも無事こなし、お互いの大学の本試験も無事に通って、俺達は大学生になった。


 ちなみ恭二も東京の大学に行くらしい。残念だけどあいつともお別れだ。思えば長い様で短い三年間だったな。


―――――

これで第一パート高校編が終わります。数日後に大学編が始まります。

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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