第16話 夏休みの過ごし方
俺は、浦永先生から渡された資料と夏休みの宿題を美優に渡した後、家に帰った。今日は終業式の為、学校は午前中で終わったから両親はいない。
自分の部屋で着替えた後、キッチンに来てカップ麺を探したけど在庫がない。仕方なくインスタントラーメンを食べる事にした。
カップ麺の方が簡単だが無い事には仕方ない。やかんに水を汲んで沸かしているとスマホが鳴った。美優からだ。直ぐに出ると
『博之、私』
『うん』
『話したい』
『良いけど、三十分後で良いか?今から昼なんだ』
『私が作ろうか?』
『いや、いいよ。自分で作る』
『そう。じゃあ三十分後にまたかけるね』
『ああ』
俺は通話を切った。前だったら喜んで作って貰っただろう。でも今は、あいつが久保としていた事を考えるととてもじゃないが食えない。久保のあれを触った手で作った物なんて食べれる訳が無い。
博之は私が作る事を断った。当然だよね。あれをしている所を博之が見てしまったんだから。見た場面が悪すぎた。まさかあんな場面を前島が見せるなんて。考えれば考えるほど自分が愚かだったことが分かる。
俺は沸いたやかんのお湯を鍋に移し替えてその中にインスタントラーメンを入れる。三分ぐらいでほぐれるのでそこに付いているスープを入れて終りだ。
メンマとかチャーシューとか有れば良いのだろけど、そんな器用な事は俺には出来ない。鍋敷きとインスタントラーメンを作った鍋をダイニングに持って行くとそのまま食べた。
こんな姿母さんが見たら怒るだろうな。いつも言われている。食べるだけなら犬や猫と同じ。
器を揃えきちん盛り、見て楽しく、食べて美味しさを味わえるのは人間だけよって言う。その通りだな。
そういう意味では、俺は今、犬や猫と同じか。
何となく虚しい気持ちになりながら食べた。三分もかからないで食べ終わると鍋と箸をシンクに入れて洗い冷蔵庫から五百CCの炭酸ジュースを持って自分の部屋に戻った。
少ししてスマホが震えた。美優からだ。直ぐに画面をタップすると
『博之』
『うん』
『もう私達会う事も出来ないの?』
どう言う意味で言っているんだ?
『どういう意味か分からないけど、会う事までは拒否しないよ。でも前の様な事は一切出来ない』
『うん。それなら夏休みの宿題一緒に出来ない』
また難しい事を言ってくれる。美優の口が久保のあれを咥えている場面を想像すると吐き気がする。
でも浦永先生は言った、今美優の傍に居てあげれるのは俺だけだと。そして恭二も言った。一度は一生連添うと決めた女性だろうと…。
そして脅されてされたのは俺やお互いの両親を守る為だったと、それは誤った判断ではあったけど美優なりに考えた事だ。
どうする…。
『博之……。駄目なら』
『美優、一緒にやるか。でも俺や美優の部屋は駄目だ。図書館かお互いの家のリビングだ』
『博之の家に行くのは辛い。図書館も外に出るのは辛いから私の家のリビングが良い』
『分かった。後、美優』
『なに?』
『俺、夏休み、塾に行く日がある。泊りがけの時も有るからその時は一緒に出来ない』
『夏休みの塾…』
そうか、来年受験だものね。私は怖くてとても行けない。仕方ないか。
『分かった』
『じゃあ、明日からやるぞ』
『うん』
夜、父さんと母さんが帰って来てからこの事を話した。父さんは、俺が決めた事だ責任もって最後までやり通せと言ったけど、母さんは父さんの事を聞いた後だからか難しい表情をしただけだった。そして
「お昼どうするの?」
「帰って来て、カップ麺かコンビニ弁当食べる」
「それなら私が朝、博之のお昼を作っておいてあげるわ。電子レンジで温めればいいようにして」
「ありがとう母さん」
次の日から毎日午前九時から午後十二時まで、午後一時から午後三時まで美優と一緒に彼女の家のリビングで宿題をした。
ローテーブルに向かい合って座ってひたすら問題を解いている。偶に美優が俺の事を見ているのが分かるが、俺は顔を起こさない。
そして美優が一生懸命している時は、偶に俺が美優を見ているという感じだ。昼は勿論家に戻った。美優の作ったお昼は食べる気にならない。
午後三時からは自分の部屋で宿題をした。美優も同じ事をしている。そして七月三十一日には全て終わった。終わった後、美優は俺に
「博之、もう戻れないんだよね」
「はっきり言って無理だ」
「そう…。この後はどうするの?」
「前にも言った通り明後日から塾だ。ほとんど夏休み終わる迄勉強する」
「分かった」
美優は寂しそうな顔をしているが俺にはどうしようもない。
俺は、明後日から塾のいわゆる夏特訓前半、そして夏合宿、帰って来て夏特訓後半と勉強詰めの毎日を過ごす予定だ。間の時間も全て勉強、受験生だから当たり前だ。
その間美優が何しているかは聞かなかった。俺がこういう状態である以上聞いても相手出来ないからだ。
俺は片付け終わった夏休みの宿題を持って家に戻って家でゆっくりしていると警察から連絡が有った。
久保が俺への暴行を示談にしてくれと言って来ているらしい。随分時間が経ってからだなと思ったけど、でも俺は示談を断った。そして両親にその事を言うと
「それでいい。一応弁護士にも声を掛けておこう。向こうが弁護士を立てて来て丸込められるのは嫌だからな」
「うん」
そして、塾に行っている合間に両親から聞いた話だが、久保はあの時麻薬に近い興奮剤を使っていたらしい。液体で美優とキスをする時彼女にその液体が入る様にして興奮させていたのだそうだ。
久保の罪は重かった。お互いが未成年で有ったが脅しと薬物による強制性交で有る事を考慮すると不同意性交罪が成り立つという事だそうだ。
久保は当然、退学と同時にスポーツ推薦取り消し、少年刑務所に何年か入るらしい。前島は、こちらは同意による性行為で有ったが、薬物使用よる行為で有った為、執行猶予付きの罪になるらしい。
らしいというのは裁判所の決定には時間が掛かるらしく検察側の起訴内容通りに行くかはこれからだそうだ。
いずれにしろ俺が夏休みを過ごしている間にあの件はほぼ決着が付く様だ。
私は、博之と一緒に夏休みの宿題が終わった後、本を読んだり偶に一学期の時に買っておいた問題集をやっている。でも全然量が少なくて直ぐに終わってしまう。
外出する事は怖い。母原町にでも行ければ良いのだろうけど、私の事を知っている生徒は多い。バッタリ会って嫌な気分になりたくない。
博之と一緒に塾に行きたかったけど、塾は間違いなく同級生がいる。だからいけない。
だから勉強以外で部屋の中でエアコンを掛けて出来る事と言ったら、自分で慰めるしかなかった。ほとんど毎日博之とした時を思い出しながら。その度に虚しく涙が流れた。
お父さんの仕事はこの街ではない。ちょっと遠いけど千葉市まで通っている。だからこの噂は関係がなかった。
お母さんはパート。職場に私の事を知っている人が居たらしいけど何も言われなかったらしい。
でも私は両親にとんでもない迷惑を掛けていたのだ。前島の言葉なんか無視すれば良かったのに。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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