第6話 クリパに参加したけど


 結局、私はクラスのクリパに参加する事になった。博之には事情を話して断れないと言った。


 何人来るのかも聞いてなかったけど、参加したのは前島さんと仲のいい友達二人、それに普段口もまともに利かない隣の子だけだった。


「前島さん、クラスの子全員じゃないの?」

「ごめんね。皆に聞いたんだけど、直前は色々都合があるからってこれだけになっちゃった」


 あの時は、クラスの子全員が来るから私だけ来ないのは不味いんじゃないとか言っていたのに。


 いきなりのクリパと状況の違いに驚いたけど参加した以上は仕方ないと思い、そのまま雰囲気に流される様にした。そして前島さんが


「そろそろ、 飲み物もなくなったし、ブレイクタイムとしようか」

「「「「うん」」」」


 私も賛成だった。受付の傍にあるドリンクサーバーから微炭酸のオレンジジュースをグラスに入れて部屋に持って行った後、まだ他の子も戻って来ていない事を確認してからトイレに行く事にした。


 部屋を左に出て歩くと周りの部屋から色々な音が聞こえてくる。感心しながらトイレに向かうと

「石井さん」

「えっ?…久保君」

「石井さん達もこのカラオケに来ていたんですか」


 私は一歩下がる様にして

「え、ええ」

「奇遇ですね。あの時以来です。会いたかったです」

「私は、会いたくなんて…」


 いきなり体を抱きしめられると唇を合わせて来た。顔を思い切り振ろうとしたけど久保君の左手で顔を抑えられている。


顔を避けようとしたけど力が足りない。強引に口を開けられ彼の舌が私の口の中の入って来た。


このままではと思っても経験した事の無い甘美な肌触りに体の力が抜けそうになった時、博之の顔が思い浮かんだ。

 思い切りの力で久保君を押しのけると私はそのまま部屋に戻って自分のバッグを取ると

「帰る!」

「「えっ?!」」


 それだけ言ってカラオケを出た。


 あの時と同じだ。前島さんに誘われて本当は夜の外出は禁止されているのに前島さんが、直ぐに戻れば問題無いと言って皆で旅館の外に出た。


 フロントで久保君達と会ったけど、別に一緒に行く事も無いと思い、皆と一緒に川沿いを歩いていて気持ち良かったけど、いつの間にか気が付いたら隣は何故か久保君だけだった。


 そして彼がいきなり私の左肩を抱きしめて私を彼の方に向かせると、好きですと言っていきなり私の唇にキスをして来た。


 何も分からないままに体を離そうとしても力の違いがある。その内、私の胸を触った来た。

 流石に両腕で彼の体を思い切り殴りながら引き離すと、私は思い切り相手を睨みつけて部屋に逃げ帰った。


 部屋にはまだ誰も戻って着ていない。おかしいとは思ったけど、先に寝ても不安が有ったから窓際で待っていると帰って来たのは皆一時間後だった。


 そして次の日の熊本城の見学の時、また久保君の班と何故か一緒に歩いたけど、私は彼を避ける様に歩いた。

 

 でもまた前島さんが私に修学旅行なんだから楽しくしようよとか言って、私と久保君をくっ付けてきた。前島さんがどんな人か分かって来た。




 カラオケを出ると急いで駅の方に向かいながら博之にスマホで連絡した。


 俺は、部屋で本を読んいるといきなりスマホが鳴った。美優だ。まだクリパしているんじゃないのか?そう思いながら画面をタップすると


『博之、助けて』

『はっ?』

『とにかく駅まで迎えに来て』

『駅って?』

『家の最寄り駅で良い』

『分かった。直ぐに行く』


 俺は部屋着だったけど、美優の声が尋常じゃないと思い、母さんの忠告も聞かずに急いでそのままの恰好で駅に向かった。


 十分もしない内に美優が改札から出て来た。そしていきなり俺に抱き着くと

「博之、博之。怖かったよう」

「美優、落着け、とにかく落着け」


 俺の言葉を無視するように美優は俺の体から離れなかった。一緒に降りた乗客が不思議そうな顔をしながら出て行くと改札には誰も居なくなった。


「美優、誰もいない。とにかく落ち着け」

「うん」


 やっと、俺の体から離れると

「博之ーっ!」


 と言ってまた俺の体に抱き着て来た。そして

「私、私。…久保君に襲われた」

「何だって!」

「でも、唇だけだから。だから思い切り上塗りして、博之の唇であの男の汚い物を取り去って」

「分かった。ここじゃあ、無理だから俺の部屋に行こう」

「うん」


 美優はしっかりと俺の手を握って来た。二人で早足で俺の家まで行くと母さんに声だけ掛けた後、俺の部屋に行った。


 そして長い間、美優とずっと口付けをした。勿論お互いの舌と舌とで絡み合った。どの位していたのか分からないけど、美優がゆっくりと離れると


「私どうすればいいの?」

「今は、とにかく落着く事だ。久保のやろうの事はそれから考えよう」

「うん、それと前島さん、修学旅行の時からやたら久保君を私に押し付けて来る。今回もあの人が言っていたクリパと全然違った。久保君達が偶然同じ時間にあそこに居るなんておかしい」

「そういう事か。学校は後、二日で終わる。授業以外はずっと俺の傍に居ろ」

「うん」


 それから三十分位ずっと抱き合っていた。本当はしたいけど、一階には母さんが居る。明日なら出来るからと二人で我慢した。




 次の火曜日、私はいつもと同じように博之と一緒に登校した。教室に入ったけど、前島さんが近付いてこない。

 

 こっちを見て気不味そうにしている。午前中だけの授業だけど中休みは2Aの博之の所に行った。


 午後は大掃除。前島さんが近付いて来たけど声が掛けられない様に避けた。次の終業式の日も博之と一緒に居た。



 §前島

 久保君から石井さんを紹介してと言われた。修学旅行で上手くやってくれると思ったけど、あいつは失敗したと言っていた。


 聞けばいきなりキスをしたらしい。頭の中が馬鹿だという事が良く分かる。力ずくなんて駄目に決まっているのに。お陰でその日は私が相手する事になった。


 そしてクリパを設定するから上手くやれと言ったのにまた力ずくでキスしたと言っていた。馬鹿もここまで来ると度が過ぎている。


 顔が良いだけの頭の中身がない男だ。あれがちょっとうまいからって力ずくで何とかなると思ったのだろう。


 お陰で昨日から石井さんに話しかけようにも全く出来ていない。今日だって寄ろうとすると直ぐに避けられる。多分気が付いたんだろう。作戦を変えないといけない。


―――――

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