第5話 修学旅行が終わったからって油断は出来ない


 翌日は午前中黒川温泉で自由行動。俺達は湯巡りと土産物屋巡りをする事にした。旅館から出る為フロントに降りると美優達の班も丁度居た。俺は直ぐに寄って


「美優達、今日はどうするんだ?」

「うん、湯巡りしてお土産物屋さんに行こうと思って」

「俺達と同じだ。今日も一緒に行けるかな」


 前島さんが、

「長田君、昨日あれだけ一緒だったから今日は別々にしよう」


 美優の顔を見ると残念そうだったけど

「博之、残念だけど」

「そうか」


 それだけ言うと俺は自分の班に戻って皆と出かけた。確かに昨日はほぼ一日一緒に居たから仕方ないか。


「さっ、私達も出かけようか」

「「うん」」


 皆で二つの温泉に浸かり土産物も買って旅館に戻ると、えっ?なんで美優達が久保達と一緒に居るの。


 俺達と別々って言っても初日と同じじゃないかよ。それも楽しそうに話をしている。美優は俺の方を向かずに久保と何か話をしていた。全然面白くない。昨日は嫌だったなんて言っていたのに。


 それから、俺達は熊本市内に移動。熊本城を見学したけどその時も美優達の班は久保達と一緒だった。どういう事なんだ?


 ホテルに移動してまた同じ班と部屋割りになったんだけど、スッキリしないので班の人達にちょっと言ってから、美優達の所に行くと

「美憂」

「あっ、博之。どうしたの?」


 俺の顔を見ても不思議そうな顔をしている。いつもなら嬉しそうな顔をしているのに。

「いや、なんでもない。大丈夫か?」

「何が、私は大丈夫だよ。それより」


 そこに前島さんが

「お二人さん、話をしている所悪いんだけど、もう部屋に行くから。石井さん行こう」

「うん、博之、また明日」

「ああ」


 なんか違う。どうしたんだ?



 

 翌日は、午前十時にホテルを出てそのまま熊本空港に行って飛行機に乗った。美優と俺は何も話さなかったが、美優達の班にスポーツ科の連中が近付く事も無かった。


 そして羽田空港に着いて解散となった。美優は俺の傍に来て

「博之、帰ろ」

「おう」


 いつも美優の顔だ。少し安心。電車に乗りながら

「楽しかったね」

「うん、なあ…」

「何?」

「何でもない」

「どうしたの?博之らしくない」

「そうか。家に帰ってからにしよう」

「うん」


 博之は何か気になる事でも有るのだろうか。結局家の最寄り駅に着くまで碌に話はしなかった。


 駅を降りるとまだ午後三時だ。

「博之、部屋に行ってもいい?」

「いいけど」


 いつもなら喜ぶのに?私は修学旅行のバッグやお土産物が入ったバッグを置くと直ぐに博之の家に行った。


 玄関は空いていた。直ぐに博之の部屋に行くと

「ねえ、博之」


 ジッと私の顔を見ると口付けをして来た。そのままベッドに倒れて思い切りした。随分していない感じだ。博之は積極的で何回も行きそうになってしまった。一通り終わると


「美優、聞いて良いか?」

「うん」


「黒川温泉の午前中、前島さんが俺達とは昨日一緒だったから別々に行動しようと言いながら、お前達の班は久保達とずっと一緒だったよな。どういう事?」

「あれ、なんか前島さんが久保君達と一緒に回る約束をしていたらしいの。前の日に部屋で言われて。私は嫌だったんだけど他の人が賛成しちゃって」

「美優、久保と話している時とても楽しそうにしていたよな由布院の時はいやそうだったのに」

「うん、最初嫌だったんだけど、途中で前島さんから私に、そんなに嫌な顔していると久保君が可哀そうだよ。ここだけなんだから楽しそうな顔しなよって言われて」


「そうか、でも熊本城の見学の時も楽しそうに回っていたじゃないか」

「あれも前島さんの所為。彼女久保君の事好きみたいでさ。皆も引き摺られた感じ」

「そうなんだ。仕方なかったのか」

「うん」

 本当はちょっと違うけどそんな事絶対に言えない。どうせ修学旅行だけだろうし。



 翌日金曜日は振替代休。やっぱり博之の部屋で一日した。こうして居ると気持ちが落ち着く。



 翌月曜日からは普通の授業。俺と美優はいつもの様に登下校も一緒、昼休みも一緒。土曜日は俺の部屋で楽しい事もした。


 二学期末考査対策も二人でして、無難に乗り切った。成績も成績順位表に載った。俺が三十位、美優が三十一位だ。そして二人共理系志望。問題なくクラスは一緒になるはずだ。


「博之、学年末で同じレベルなら一緒のクラスになれるね」

「間違いないだろう」


 成績順位表には私の隣に座っている女の子の名前も無ければ、前島さんの名前も無い。三年になればもうあの人達とも縁がなくなる。



 俺達は終業式を翌週に控えた金曜日の放課後一緒に帰りながら

「美優、来週木曜日は終業式。でもその前にクリスマスイブとクリスマスがあるから今週の日曜日は二人でプレゼント買いに行こうか」

「うん」


 土曜日はいつもの様に楽しい事をして、日曜日は渋山に二人でプレゼントを買いに行った。


 そんないつもの週末を過ごした翌月曜日。私はいつもの様に教室に行くと直ぐに前島さんが寄って来た。最近珍しいなと思っていると


「ねえ、石井さん。今日皆でクリパしようって言っているんだけど来ない。石井さん、クリスマスは長田君でしょ。だから今日どうかなと思って」

「えっ、いきなり?」

「うん、ほんとはもっと前に言いたかったんだけど、石井さん、長田君とべったりで言うチャンス無かったんだ」

「えっ!そうだっけ?」

「もうラブラブだから自覚無いんだ。ねっ、だから今日位いいでしょう?」


 他の子達も

「そうだよ。石井さん行こう」

「昼過ぎの返事でもいい?」

「いいけど、長田君だけだと視野狭窄になるぞ。好きな事するのは今の内なんだから、行こう」


 私は昼休み、この事を博之に話すと

「それって女子だけ?」

「うん、そう聞いている」

「うーん、はっきりって行って欲しくないけど、確かに前島さんの言うのも一理あるなぁ。美優、言い方悪いけど俺だけだもんな」

「私は、博之だけで良いんだけど」


「こほん、熱々な所申し訳ないんだけど」

「「あっ、前島さん」」


「長田君、石井さんの為にも偶には女子会の経験っていいと思うんだけど」

「どうするかなぁ」

「ねっ、長田君。石井さん、君以外の会話出来なくなってしまうよ」

 私は構わないけど。


「そうだなぁ。美優は?」

「私は…」

「石井さんも良いでしょ」

 ちょっと圧が有るな。


「前島さん、それ何時に終わるの?」

「今日は午後三時半終わりだから午後四時から二時間予約している」

「やっぱり美優次第だな」

「博之」

 私は行きたくないのに。


「じゃあ、石井さん、教室で話そうか」


 結局、私は行く事になってしまった。クラスの中で仲間はずれにされたくないという気持ちからだ。


―――――

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感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

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