第48話 決意
「クソっ!? この程度で私が滅びる訳が――」
全力一歩手前の『ヘルフレイム』に巻き込まれた『何か』は、捨て台詞を最後まで吐き出す前に消滅した。
『何か』の気配が消失した後も、油断はしない。『聖女』の体にはまだ『何か』が潜んでいて、いきなり攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
他の『ダンジョン』から、『何か』が言う『使者』とやらが報復に来るかもしれない。
あらゆる可能性を考慮して、警戒を続ける。
「……何もなしか」
三分程警戒を続けるが、異常は起きない。安全を確認し終えると同時に、私の体は連続の戦闘による疲労感で崩れ落ちた。
視界の端で、『何か』が持っていた二枚のカードが人の形を取る。それは『門番』のセフィロトとアリスであった。
忌々しいことに『何か』は、この二人を『母体』候補と呼んでいた。想像したくもないが、碌でもないことを企んでいたのだろう。
非常に不愉快だ。
幸いなことに、二人は意識を失っているだけで外傷は見当たらない。美由紀や『聖女』の方も無事であるようだ。
魔力量はすっからかんで、疲労感は凄まじいが頑張った甲斐はあった。
(……今は『悪魔城』に退避して、被害状況の確認。さっきの連中が居座っているだろう『ダンジョン』に対する警戒を……)
そこまで思考を巡らした時。遠くから、こちらに近づいてくる気配を感じた。敵かと思い意識を向けるが、それが杞憂であったことに安堵する。
その人物の正体は、つい先ほど従属化させたアザゼルであった。遠目に見える彼女の表情には、焦りのようなものが浮かんでいた。
恐らく急いで駆けつけて来てくれたのだろう。有り難い。今動ける面子がいないので、非常に助かる。
「――リリス様! ご無事ですか!?」
「……うん。何とか。私の方はいいから、美由紀達を『悪魔城』の方に運んでもらえるかな?」
「は、はい! かしこまりました!」
私からの指示を受けたアザゼルは、最初に美由紀を『悪魔城』へと運び始めた。
手伝いを頼む為に、周囲に散開させていたモンスター達を呼び寄せる。モンスター達が集結し始めているのを見た後、私はゆっくりと目を閉じた。
――玉座の間に運んでもらった後。私はセフィロトから、『悪魔城』の被害状況を聞いた。
「――嘘でしょ?」
「……は、はい。本当でございます」
――私は自分の耳疑った。それほどまでに、意識を取り戻したセフィロトから聞かされた現状の『悪魔城』が置かれている状況は、非常に不味いものだった。
意外にも『悪魔城』の被害は軽微ではあった。消滅させられたモンスターも、換えの利く下級や中級の悪魔だけ。『門番』の中には無力化された者もいたが、全員無事である。
ただ一人を除いて。
十三階層にあたる玉座の間の『門番』であるアメリアの姿が、『悪魔城』のどこにもなかった。念話の送ることができる魔法を試してみたが、応答はなし。
私と『門番』との間に存在する繋がりを探ってみても、ある程度の範囲で途切れてしまう。
この事実が意味することは――。
「――アメリアが攫われた? あのクソ野郎に?」
私の口から溢れた声は、思った以上に低かった。
本当に『アレ』は、私を――『俺』を苛立たせるのが上手らしい。
「――セフィロト。今、出撃可能な戦力はどのくらい?」
「あ、あの……リリス様。もしや、アメリアを救出に行かれるのか――」
「――当たり前でしょう? アメリアも含めて、美由紀もセフィロトもアリスも、みんなは私の物だよ。それに手を出した。
一度だけではなく、二度もだ。取り返すのはもちろんのこと、絶対に報復は行う。
命乞いも聞かない、戦力目的で眷属化も行ってやらない。
自分が一体誰に喧嘩を売ったのか。『アレ』とその配下どもに、身を以て教えてやる。
セフィロト。それで今使える戦力は?」
「……はい。少々お待ちください。今すぐに確認を取ります」
セフィロトの話に耳を傾けながら、私は内側から溢れ出しそうになる怒りを必死に抑え込んだ。
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