第43話 上級天使VS大悪魔
――
制限時間ギリギリに、『バベルの塔』の最上階に到達することができた。
制限時間である三分間を迎えて、消滅をする
私は『バベルの塔』のトップであろう天使に向き直り、軽い自己紹介をしながら、挨拶代わりの『ヘルフレイム』をお見舞いする。
「――舐めないでくださいっ!」
「――へえ……」
ダイナミックな登場で半ば放心状態であった天使は、自らに迫る業火を見て、すぐに正気を取り戻す。
そうすると、もう何度も見飽きた神聖属性の槍を出現させ、それで業火を振り払った。
その鮮やかな槍さばきに、思わず感嘆の声を漏らす。
戦闘とは呼べない一瞬の攻防ではあったが、この天使が今まで戦ってきた相手の中で、一番強いことを確信した。
どうせ普段の戦闘の時と変わらない蹂躙で終わると思っていたが、これなら少しは楽しめそうだと口角を上げる。
(……でも、本当に綺麗な人。この容姿に、背中に生えた純白の翼。推定じゃなくて、ここの連中の種族は天使で確定だな。
実際の強さがどのくらいか分からないけど、負けるつもりはないし、勝ったら色々と聞きたいこともあるから、半殺しでいこう)
そんな風に予定を立て、数の利を得る為に『眷属招来』を発動させる。
今回呼び出すのは、下級や中級の悪魔ではない。そんな格下のモンスターを召喚したとしても、見立てでは上級であろう天使。
それ程の敵を相手の前では、一秒の時間稼ぎができるくらいで、魔力の無駄遣いにしかならない。
よって、召喚するのは上級悪魔の一体。それが私を守るように、姿を現した。
「GAaaaa……!」
上級悪魔に分類される異形の名は、『バフォメット』。その姿を簡単に言い表すと、人間のように二足歩行をした黒山羊。
二メートル近い大きさに、頭部の立派な角や下級・中級の悪魔達とは比較にならない程の保有魔力。
私や『門番』よりかは、二つくらい格が下がるとはいえ、これ程に強力な戦力を用意できる『眷属招来』にはゲームの頃から頼りっぱなしだ。
と言っても、ここに来るまでに大技の『禁忌・邪竜降臨』を始めとして、多くの魔法を使っている。保有魔力は、万全の状態の半分近くまで削れていた。
最後に試したいこともあるので、魔力は多少は温存するつもりである。
「……戦闘が始まる前に、一つだけ問いたい。降参してくれませんか? 私が今まで貴女を見てきた限り、更生の余地があると思っています。
どれだけ力の差があろうと、完全に敵対していなければ人間を殺しなかった。私が貴女や貴女の配下を含めて、しっかりと面倒を見てあげます。
他の『使者』達や『主』が何か言おうと、貴女達の殺させません。
私が責任を持って、きちんとした教育を貴女達に施してあげますので」
天使が槍を構えたまま、私に降伏勧告をしてくる。私が消耗している様子を見て、既に勝った気にでもなっているのか。
その宝玉のように美しい瞳には、敵対しているはずの私を心配するような色が見える。
しかしそんな天使の態度に、自分でも制御できないような苛立ちが積もる。
恐らくこの感情の乱れは、『大悪魔』として天敵である天使に同情の視線を送られたせいだろう。
感情を落ち着かせる為にも、これ以上の会話は不要だ。気になる単語を天使は話していたが、それらの詳細は全てが終わった後に、本人からじっくりと聞けば良い。
「まあ、天使さん。私のような『大悪魔』にも情けをかけてくれるなんて、お優しいのね。
でも、駄目。私だって部下の命を預かっているし、大切な人を元の場所に返さないといけないから。
――じゃあ、殺し合いましょう? 行け、『バフォメット』」
「GAaaaa!」
私の指示に従い、天使に向かって突撃する『バフォメット』。それに対応すべく、天使は槍で迎撃の体勢を取る。
まずは、相手の大雑把な戦闘能力の把握や消耗を図るとしよう。
「GAaaaa!」
「――くっ!」
『バフォメット』の鋭利な爪と天使の槍がぶつかり合い、離れた場所にいる私にまで軽い衝撃波が届く。
両者の力は一見互角。こちらに対して有利な武器を持っていたとしても、圧倒的な差をつけることができる程の性能はないらしい。
威勢の良い啖呵を切った割に、天使は『バフォメット』の相手で精一杯のようだ。
「――そこですっ!」
「GAaaaaっ!?」
いや、そうでもない。
槍と爪による応酬は、隙を突いた天使に軍配が上がる。頑丈な肉体を穿つ、神聖属性の槍。
『バフォメット』は獣に似た――獣のそのものの悲鳴を上げる。
その間に、天使の体についていた傷が癒え、魔力面以外は万全の状態になる。
そして、天使はせっかくできた隙を無駄にはしない。
「――お前達! そこの『悪魔』を拘束しなさい! 多少傷つけても構いません!」
天使の凛とした声が響く。それと同時に、階下に控えていた中級天使達が飛び出してきた。
視線をやると、彼らの手には武器だけではなく、神聖属性と同じような気配を放つ縄や布が握られていた。
どうにも今までの戦闘で、私単体の戦闘能力が高くないことはバレているようだ。
そもそも、どこかで自分から口走った気もする。
せっかく呼び出した前衛が一時的に戦闘不能になった瞬間を狙って、私を拘束をするつもりらしい。
確かに私を抑えすれば、彼らの勝利は確定するだろうが、この程度の天使を寄こしてくるとは。
実に舐められたものだ。
残りの魔力量を考えて、私の十八番とも言うべき魔法を発動させる。
「――『地獄の門・開門』」
私を襲おうとしてきた天使達と、同数以上の悪魔の軍勢が『門』から現れる。
「なっ……!? まだ、これだけの魔力を残していたのですかっ!?」
「流石に魔力の消費も辛くなってきたから、決着をつけさせてもらうよ?」
驚きを隠せない天使陣営。それは戦場において致命的な隙となり、遠隔で回復魔法を施した『バフォメット』が天使に襲いかかる。
天使はそれに応戦するが、私は『バフォメット』を巻き込む前提で、最大火力の『ヘルフレイム』を叩き込んだ。
■
――『大悪魔』は天使の軍勢との戦いが、ようやく終わり向かっていることを実感でき、嬉しく嗤う。
あの汚れを知らないであろう無垢なる天使を、どのように堕とすかを思い浮かべながら。
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