第40話 『ダンジョン』攻略開始
――アメリアから報告をもらった私は、敵の戦力の全体像が不明な為、『悪魔城』の最大戦力である私自身が現場に急行することにした。
「今戦闘が起こっている『ダンジョン』には私が行くから、アメリア達は他の『ダンジョン』を監視しておいて。
今起きている戦闘が陽動の可能性があるから。もちろん『悪魔城』の警備も怠らないように」
「……かしこまりました。ですが、念の為にお気をつけを。お呼び頂ければ、どのような状況でも馳せ参じます」
「ありがとう。そうならないように、努力するよ」
アメリアにそう礼を告げた後、私は『テレポート』で『悪魔城』の外まで一気に転移。
体を鴉に変化させて、全速力で空を駆けた。
数分もかからずに、目的地の『ダンジョン』付近に到達。上空から見たその『ダンジョン』の外観は、とてつもなく高い塔である。
その高さは見ただけでは正確に分からず、周囲の建物が豆粒に見える程に巨大だ。
ある程度の高度を保っているはずの私が見上げても、その頂上が確認できない。
(どんだけデカいんだ……)
改めて見る高さに、内心呆れる。その点『悪魔城』は外観は普通の西洋建築のお城で、内部空間が見た目以上に広いという優れた物件だ。
周囲にも十分配慮している造りになって――。
(――そんなこと、口が裂けても言う資格はないよな……)
可能な限りの死者を出さないようにしても、今の私達はそこに存在するだけで人間に悪影響を与えてしまう。
それに私達の危険性は、既に周知されている。人類から見たら、明確な悪はこちらだろう。
(……それでも、私はだって死にたくない。元の体に戻りたいし、こんな似ているだけで全然違う世界になんか、ずっといたくはない。
最悪、美由紀だけでも元の世界に戻す方法も考えないと)
そもそも今の世界が、異変が起きる前の世界と完全に別物であるのかも、分かっていないのが現状だ。
不可思議の塊である『ダンジョン』を調べていけば、何れはその真相も分かるかもしれない。
そう考えれば、今回の件はむしろ都合が良いと言える。
そんなことを思っていると、常人離れした聴覚が、激しい戦闘音を捉える。
塔の形をした『ダンジョン』の入り口付近では、翼を持った人間に似た容姿をした者達と下級悪魔達が交戦をしていた。
戦況だけを見れば、翼を持つ者達の方が優勢そうだ。武器である神聖な光を放つ槍を巧みに操り、倍数以上の下級悪魔を消滅させている。
彼らの見た目や武器から、その正体を推測する。
(あれは天使か? 『モンスター・ハウス』でも似たようなモンスターはいたけど、完全に同じな訳がないし……でも、悪魔達の弱点である神聖属性の武器を使ってる……。
まあ相性が悪いだけで、下級天使より少し強いぐらいかな? 戦力を無駄に消費するのももったいないから、さっさと終わらせよう)
私は下級悪魔達に離れるように命令を送ると、変化を解除して人型に。
推定天使達の前に姿を現す。
突然現れた私の存在に、推定天使達は警戒の視線を送ってくる。
推定天使達の内、一人が私に槍を向けながら言葉をかけてくる。
「この悪魔達の首魁は貴様か? 小娘」
「へえ、君達は喋れるんだ。私の悪魔達は、話せない種類もいるから、少し新鮮でね」
「おい! 質問をしているのは、こっちだ! さっさと答えろ! お前ら程度の悪魔、殺すのに一秒もいらないんだぞ!」
どこか巫山戯た私の態度が気に入らないのか、話しかけてきた推定天使は苛立った様子で、私の喉元に槍を突きつけてきた。
これは向こうに敵対の意思あり、そう判断しても構わないようだ。
突きつけられた槍を右手で掴む。その瞬間、右手を焼けるような感覚が襲う。
どうやら彼らが持つ武器は、少しは有効らしい。
だが、それだけだ。
「何をっ!? 槍が動かん……!」
「力も下級相当だね。魔法特化タイプの私に力負けしているのに、どうやって私を倒すの?」
私の手から槍を引き抜こうと、無駄な努力を続ける推定天使を嘲笑う。
最近戦闘では、専ら召喚系の魔法しか使っていなかったので、偶には攻撃魔法を使ってみるとしよう。
槍を掴んだままの右手に魔力を集中させて、そこを媒介に魔法を発動させる。
「――『ヘルフレイム』」
地獄の業火が、推定天使を包む。
「ぎゃあああ!?」
推定天使の断末魔が響く。後に残ったのは、元が何か分からない燃えカスのみ。
残りの推定天使達に、動揺が走る。
その隙をついて、背後で待機している悪魔達に指示を出す。
「侵攻を開始。ここに来てから、初めての『ダンジョン』攻略だ。気を抜かずに頑張るよ」
――後書き――
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