第39話 次の敵は
――『迷宮荒らし』を壊滅させてから、数日。我が拠点である『悪魔城』は平穏そのもの。
事前に決めた通りに、人質の少女を一人――『狂剣』という大層な二つ名を持っていた――を解放し、『ギルド』側は
それは今の所、守られている。が、外は外で騒がしくなっているようだ。
ん? 何で、『悪魔城』に引きこもっている私が外の事情を知っているかって?
それはね、不干渉地帯の外に『眷属招来』で召喚したモンスターを、数体偵察に出しているからだ。
あの『剣鬼』と取りつけた約束は、『ギルド』が私達に手を出すことを禁じるだけで、その逆には一切の制限がない。
その盲点を利用して、隠密行動に特化した中級悪魔『
戦闘能力はそこそこだが、並の探索者であれば十数人ぐらいを相手取る程度はある。
と言っても、それはオマケに過ぎず、その真価は人間やら物体の影に乗り移る能力にある。
ゲームの時も重宝していたが、現実世界でもその利便性に陰りは全くない。
もっと早い段階で外部の諜報活動を開始できれば良かったのだが、その頃は正確なパワーバランスも分からなかった。
それに加えて、異様に効力の高い結界魔法の存在があった為、慎重に立ち回っていたがそれも終わりだ。
一応『ギルド』から『悪魔城』に干渉しないという約束も取りつけて、相手の強さの上限も大方把握し、結界を張った術者本人はこちらで確保している。
本当は『狂剣』の少女と一緒に解放すべきと考えていたのだが、『ギルド』の動きもきな臭いので、念の為にもう少し人質としていてもらう予定に変更した。
そして肝心の『
『ギルド』や政府関係の重要そうな施設には近づかないように徹底して、適当な人間の影に潜まして、情報収集は現在進行形で行われている。
もう少し情報を握ってそうな人物に取り憑かせたかったが、中級悪魔に過ぎない『
そのせいで手に入る情報の質はいまいちだが、完全に引きこもり状態であった当初を思えば、大分改善された方だ。
一般に出回っている情報によると、『迷宮荒らし』のアジトを潰し回っている間に、『ギルド』の各支部長の多くが不審死。
その後、混乱を抑える為に、あの『剣鬼』が『ギルド』のトップである『ギルドマスター』に就任したらしい。
一体、裏で何を考えているのやら。どう見ても、単なる偶然ではないだろう。
他にも、どこかの研究所が襲撃を受けたらしいが、特に関係ないはず。
これ以上の情報はあまり期待できないが、もしもの時を考えて『
「『ギルド』に関しては一旦様子見するとして、次に考えないといけないのは……」
『ギルド』から不干渉地帯として指定されたのは、『悪魔城』の半径数キロメートル。外界との境界線には、以前よりも数が減ったとはいえ、武装した探索者による監視網がある。
とはいえそれは今は重要すべき問題ではない。肝心なのは、その内側にあるモノついてだ。
「前よりも自由になる空間が広がったのは良いけど、その中に『ダンジョン』があるとは……。
しかも、一般探索者に向けて開放されてる『ダンジョン』じゃなくて、『悪魔城』と同じ区分の特別警戒『ダンジョン』を寄こしてくるなんて……。不発弾の処理を私にさせる気か。あの男は」
自分しかいない玉座の間にて、私はこの場にはいない『剣鬼』に向けて文句を吐き出す。
頭の痛い話だ。流石に私達が苦戦するぐらいのモンスターが潜んでいるとは思えないが、その可能性もゼロではない。
いつ暴発するか分からない爆弾が、こんなに身近にあったとは。大分気が緩んでいたらしい。
その『ダンジョン』の危険度を測るに、下級悪魔の『レッサー・デビル』でも偵察に出してみるか。
そんなことを考えていると。他の階層に用事があり、出払っていたアメリアが慌てた様子で戻ってきた。
何故だろうか。猛烈に面倒事の気配がする。
アメリアは少し乱れていた服装を整えると、玉座の近くまで来て、報告をしようとした。
「――リリス様! 『悪魔城』より北に一キロメートル離れた場所に位置する『ダンジョン』から、モンスターが複数出現。
巡回中の『レッサー・デビル』や『ヘル・ハウンド』達と交戦を開始しました!」
――嫌な予感というものは、つくづく当たるようにできているらしい。
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