第34話 虎の尾の上でタップダンス
――日は明けて、約束の時間が近づいてきた。私は玉座の間にて、服装におかしな点がないかアメリアに見てもらっていた。
こういう細かい所をチェックするのは、流石メイドなだけあり、一応主である私に対しても言うべきことは言ってくれるので助かっている。
と言っても、今回は服装のことでアメリアとは大いに揉めてしまった。私はいつも通りの装備である黒ローブと杖の装備で行こうとしたのだが、アメリアは断固固辞。
彼女曰く、「今回は人間達と戦いに行く訳ではなく、話し合いに行きます。戦装束で行く訳にはいきません。リリス様は必要以上に敵を作るつもりはないのでしょう?
でしたら、いくらこちらの方が力で上回っているとはいえ、徒に刺激する必要はありません。
リリス様の方から敵意はないと、格好から示すべきです」ということらしい。
アメリアの鬼気迫る勢いに負けてしまい、弱々しく首を縦に振ることしかできなかった。
「似合っていますよ、リリス様」
「……本当? 私に似合うとは思えないけどなぁ」
アメリアが用意してくれたのは、黒色のドレス。外見年齢に相応な、露出の少ないドレスではあるが、姿見に映る
元男としては恥ずかしと思わなくもないが、この肉体になってから結構な時間が経つ。そして以前では考えられないような経験の連続で、自身の精神的な変化はある程度は把握している。
なので女物のドレスを着ること自体は、抵抗はほぼなかった。
最終的なチェックが終わり、他の『門番』達に留守を頼むとアメリアの手を引き、『テレポート』で『悪魔城』の外にまで一気に移動した。
■
「えーと……ここで待っていれば良いのかな?」
『悪魔城』の外にまで移動した後、再び『テレポート』を使用した。その先は、昨日捕らえた少女と交戦し、二人の探索者達と会話をした場所。
そこで待機すること、数分後。昨日も会った男女二人組の探索者達が姿を現した。
私と彼らの間で、緊迫した空気が流れる。アメリアも言われたことだが、少なくとも今回は争うつもりはなく、むしろこちらから協力を申し出にきたのだ。
人質を取っていることについては、ノーコメントで。強さを誇示するだけでは、手を出そうとする連中がいなくならないことは分かっている為、仕方がないのだ。
また彼らにとっても、この提案は悪い話ではないはずである。
『聖女』から聞いた知識しかないが、『迷宮荒らし』は『ダンジョン』から財宝を他の探索者から強奪し、売買する。そして酷い時には人間やモンスターまでを『商品』として取り扱うという常軌を逸している連中らしい。
『迷宮荒らし』への対応は、この国の政府や『ギルド』も苦労しているようだ。
そんな迷惑者の『迷宮荒らし』の壊滅。この話は『ギルド』の所属であるという彼らにも、十分にメリットがある。
もちろん私にとっても、『迷宮荒らし』の馬鹿共は私の妹である美由紀を攫い、愚かにも私にちょっかいを出そうとした因縁の相手だ。
この前の一件で首謀者を含めた一部は始末したが、それだけでは到底気は収まらない。
徹底的に追い詰めて、所属している人間は一人残らず血祭りに上げてやれ、と心の奥底から悪魔が囁いてくる程に、怒りの火種は未だに燻っている。
今回の話し合いは、『迷宮荒らし』の殲滅の為の打ち合わせに関してのものだ。
だから、私としても今回に限っては友好的にいきたいつもりである。
ピリつく空気を少しでも和らげる為に、笑みを浮かんで私の方から手を差し延べる。
「今日はよろしくお願いするね」
「……ああ」
「……ええ、こちらの方こそお願いするわ」
二人は表情こそ変わらなかったが、私の手を払いのける真似はしなかった。腹の奥底では何を思っているかは分からないが、表面上は受け入れられた。
そう判断して大丈夫そうだ。
とは言っても、碌な会話がないまま二人の案内で少し離れた場所にある建物にまでやってきた。
「ここは『ギルド』の支部の一つよ」
「へえ……」
案内されたのは、現代日本にそぐわない用途の為の建物であった。前に外に出た際に似たような建物を見かけたが、『ギルド』の支部だったとは。
確かにここであれば、内緒話にはうってつけだろう。
途中で、案内は別の者に引き継がれた。
そして通された大きな部屋は、どうやら会議室のようなものらしい。多く十数人にも及ぶ人間が既に席に座っていて、私とアメリアに厳しい視線を送ってきていた。
しかし、その反応も私がしたことを考えれば当然のものだ。
けれど、彼らの視線の中には警戒の色に混じって、値踏みするようなものもあった。肌に虫が這うような不快感が走る。
(……こちらは話し合いのつもりで来たんだけど、一筋縄ではいきそうにないな)
「よく来てくれましたな。『古城』の主よ」
考え事をしていた私に声をかけてきたのは、一人の男であった。標準よりも丸い体型と顔に浮かぶ笑みは、その男に優しいと印象を自然と抱かせる。
どこか作りものめいた男の笑みに、狸を連想させた。
「……どうも、お招き感謝します。『古城』改め、『悪魔城』の主のリリスです。今日はお互いに、実りある話し合いにしましょう」
私が付け焼き刃の仕草でお辞儀をし、名乗りを上げる。そうすると、狸に似た――可愛い意味ではない――男は視線で何か指示を送り、それに応えた武装した人間が数名。アメリアの背後に立ち、その細い首に剣をあてがう。
――どうやら、嵌められたようだ。
あの二人からは、こちらを陥れようという意思は感じられなかったが、勘が鈍ってしまったのだろうか。
一応相手の真意を伺いたいので、アメリアには思念で「命令があるまで動くな」と送る。
「……いえいえ。リリス殿。貴殿がいらしてくれて、私共は非常に助かります。わざわざ自分から
おっと、下手な動きは見せないように。勝手に動けば、お連れのメイドは殺してしまいますよ。
……それでは始めましょうか。私達にとって良い話し合いを」
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