第19話 当然の勝利
――『眷属招来』。『悪魔』系や『堕天使』系、『天使』系の種族が習得できる魔法。その効果は、術者よりも下位種族のモンスターを呼び出すことができるというもの。
つまりは、術者によって召喚できるモンスターの質は変動する。
膨大な魔力こそ消耗すれど、私と同じ『大悪魔』の召喚も可能である。召喚モンスターの維持には追加の魔力の消費があり、時間制限というデメリットがあるが、その強さは単純なステータスでいえば『門番』より少し劣る程度もある。
五つの切り札の中には入っていないが、倒されても構わない手駒を即席で用意できるという面で、この魔法は非常に便利である。
例えば、今のような状況である。
『悪魔城』の周辺を包囲していた探索者と呼ばれる武装集団。数だけは多いものの、総力を合わせても私一人の足元にも及ばない。
しかしその中でも、シスター服姿の少女は『悪魔城』一帯を覆う結界を展開している術者だと当たりをつけている。
今後の活動にあたって、この結界の存在は鬱陶しい。術者本人に解除させる為に、シスター服姿の少女を一時的に『悪魔城』へお持ち帰りしようと考えていた。そしてこの戦闘は、ハンデありの戦闘の練習を兼ねている。
『眷属招来』によって、召喚された中級悪魔『地獄の防人』。そのモンスターは武器である金棒を振り回し、探索者達の集団に大立ち回りを演じていた。
探索者達が持つ剣や槍では、頑強な肉体に僅かな傷をつけることしかできず、その傷を一つつけるだけでも多くの探索者が負傷して戦線を離脱していった。
私は『地獄の防人』の肩に乗り、時々下位の攻撃魔法を発動して探索者の数を削り、飛び回って探索者達に『ヒール』をかけていく。もちろん絶対に気づかれないように、細心の注意を払った上でだ。
それでも一度戦闘不能になった探索者は、最低限の『ヒール』しか施していない為、戦線復帰は叶っていない。
それだけであれば、どれだけ人数がいようと問題なく『地獄の防人』一体で決着はついていただろう。
しかしシスター服姿の少女の存在によって、それは確実な未来ではなかった。
彼女の魔法は他の探索者の魔法と比べても異質で、『地獄の防人』に少しずつだが的確にダメージを与えていた。
それだけではなく、彼女は支援効果と回復効果の魔法を併用して発動しているようにも見えた。しかも、その対象は戦闘を行っている探索者達全てだ。
それに結界の効力も強まった気がする。私にとっては誤差程度であっても、見た目は厳つくても所詮中級悪魔の『地獄の防人』には大きなデバフになっている。
(あれだけの魔法を同時発動……!? 戦闘が始まって、もう十分以上が経つのに魔力が尽きる様子が全く見えない。
戦闘前に確認した魔力よりも多くなってない!? 何これ!?)
内心驚愕していた。
当然シスター服姿の少女の存在が異質で、ゲーム脳な私からしても出鱈目な魔法の運用をしていたとしても、私が負ける要素はない。
このまま『地獄の防人』の援護に徹していれば、勝つことは難しくないだろう。
しかし目の前の少女のようなインチキ染みた手合いが他にもいるとして、その人物が彼女よりも強いとなると、下げていた警戒レベルを引き上げる必要がある。
(少なくとも、この場での勝利は揺るがない。でも駄目押しに、もう一体追加)
念の為に『眷属招来』を再度使用し、『地獄の防人』をもう一体召喚する。
一体でギリギリであった戦線は、二体目の『地獄の防人』の登場によって崩壊した。
「皆さん! お願いですっ! まだ諦めないでくださいっ!」
シスター服姿の少女が大声で檄を飛ばすが、最早どうにもならない。
一人一人と私達に背を向けて敗走を始めた。
二体の『地獄の防人』は追撃をすることはなく、まだ向かってくる探索者の心をへし折ることに注力した。
そしてシスター服姿の少女の周りには、他の人間の姿はない。
もちろん未だに戦意が失われず、立ち向かおうとしてくる者もいるが、私としてはこれ以上の戦闘に意味を見出せなくなっていた。
むしろ一刻も早く、この世界の魔法やより詳しい情勢について調べなければならない。
二体の『地獄の防人』達で、残りの探索者達が接近できないように足止めをしてもらう。
その隙に変化を解除して人型になり、シスター服姿の少女の体に正面から抱きつき、顔を彼女の耳元に寄せて囁く。
「はーい、ゲームオーバー。私達の勝ちだね。負けたからには覚悟をしているよね?」
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