第18話 蹂躙開始

 『悪魔城』周辺を覆う結界をどうこうする方法は、単純明快。その術者に解除させれば良い。

 私や『門番』に結界を解除できる手段があったら良かったのだが、どうもこの結界は『モンスター・ハウス』に登場する魔法やアイテムでは破壊できない。

 その為、姿を変化させているとはいえ、直接姿を表に現すのは避けたかった。

 しかしこれまでの戦闘を通しても、私に匹敵するような存在は確認できていない。依然として警戒は続けるが、これからはもう少し積極的に行動していくつもりだ。



 だが、不思議な話だ。単純な力関係では私達の側が圧倒的に上回っているはずなのに、少なくともこの結界に関しては干渉することができなかった。

 まだまだ調べないといけないことは、たくさんである。



 行きよりも若干急ぎ、鴉の姿のまま『悪魔城』付近の上空へ姿を現す。そこから地上で展開されている武装集団――探索者達に視線をやる。

 ざっと見渡し、結界を張った術者らしき人物を探そうとする。だが。



(駄目だ。全く分からん……)



 武器を持ち、真面目に『悪魔城』を見張る者もいれば、先の戦闘での疲労を少しでも癒す為に、壁に寄りかかり目を瞑って休む者といった感じで様々だ。

 中には如何にも「魔法使いです」と主張している格好の人間もいたが、感覚として結界の術者ではないことが分かる。



 果さて、どうすればべきか。やっぱりもう諦めて『悪魔城』に帰ろうか。適当に結界内をふらついていれば、術者が近くにいたら出てくるだろうという考えであったが、やはり浅慮だっただろうか。

 『モンスター・ハウス』での経験でいえば、術者は結界の近くにいるのが相場だったが、魔法のシステムが違うと勝手も異なるのかもしれない。



 大人しく『悪魔城』に帰るとしよう。行きとは違い、監視網を形成している探索者の中には強者がいないことは分かっている。

 陽動の必要性もないだろう。たとえ私の存在に気づかれたとしても、適当にあしらえればそれで良い。

 手加減の練習は少しはしたから問題ない。



 そう結論づけて飛ぶ方向を変えようとした瞬間。強い視線を感じた。



(ん?)



 その出所を探っていると、シスター服姿の少女と目が合った。そして『大悪魔』としての勘が告げる。その少女こそが、煩わしい結界を張った術者であると。



(ぱっと見強い感じはしないけど、他の人間に比べて魔力は何倍も多い。でも私達には遠く及ばない……。どういう種があるんだろう? まあ、それは後で本人にゆっくりと聞こうかな?)



 観察する為に、高度を下げる。

 じっとシスター服姿の少女を見つめる。本人容姿は良く、服装も相まって清楚な雰囲気が漂い、非常に眼福である。

 この体になってから方が、見目の良い女性との出会いが多い気がする。『門番』のアメリアやセフィロトが良い例だ。

 異変が起きる前なんて、身近な女性といったら精々妹の美由紀ぐらいしかいなかった。

 そもそも妹は可愛いと思うことがあっても、そういう対象として見るのは根本的に人としての道を外れている。



 目から美少女からしか接種できない栄養素を補充していると、シスター服姿の少女が大きく声を上げ、それに追従するように他の人間達が私を取り囲むように移動を始めた。

 しかし、今彼女は何と言っただろうか。この私を倒す為に協力してくれと。



 結界の出来から少女が魔法を得意としていることは伝わってくるが、目の前の相手の力量を把握するのは苦手らしい。

 せっかくだ。魔法の練習を実践で試すついでに、この少女に教えて上げよう。

 世の中には、決して手を出してはいけない相手がいるということを。



 今回の戦闘では、私は鴉の体のままで戦う。この人型から動物に変化する能力。隠密行動をする分には便利なのだが、変化している間はステータスが大幅に弱体化してしまう。

 つまりこの状態での戦闘行動は基本的に死を意味するのだが、今この場にいる程度の相手であれば問題ない。

 むしろハンデとしても足りないぐらいだ。



 睨み合う私と人間達の集団。開戦の合図は、後ろの方から迫る凶刃であった。



(今日は奇襲ばっかりだな……)



 そう内心思いながら、口を開き魔法を発動させる。



「――『眷属招来・地獄防人』」



 私と奇襲を仕掛けてきた人間の間に、一体のモンスターが現れる。その名前を中級悪魔の『地獄の防人』。

 その外見は端的に現すと、日本が古来より恐れを抱くイメージの地獄の鬼。屈強な肉体に、頭部に生えた太く鋭い二本の角。人間一人よりも太い、巨大な棍棒。その顔には、怒りの感情が張り付いていた。



 『地獄の防人』は己の武器である棍棒を振るい、空中で防御の取れない人間を吹っ飛ばした。一応手加減するようには伝えているが、あれは大丈夫だろうか。

 あくまでも殺しは避けたいのだが。

 後で隙を見て、回復魔法をかけに行こう。



 一方のシスター服姿の少女を始めとして、人間達の集団は恐れでその足が止まっていた。



(……つまらないな。適当にこの状態で魔法の試し撃ちをしたら、あのシスターに結界を解除させるか。露払いは『地獄の防人』に任せるとしよう)



 翼をはためかせ、『地獄の防人』の広い肩に乗り、命令を下す。



「――蹂躙を開始しろ」

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