第11話 地獄の門・開門
――特別警戒『ダンジョン』の一つ、『古城』。先日、日本の某県某都市の住宅街に出現した『ダンジョン』。
『ダンジョン』発生から数時間で政府と『ギルド』が主導となり、周辺住民の避難誘導や手の空いた中堅探索者達の招集が行われた。
そして集められた探索者達で結成されたパーティーにより、その『ダンジョン』の攻略作戦が開始された。
回数が少ないとはいえ、未知の『ダンジョン』が発生した初期対応としては及第点である。実際その時に集められた探索者達の総合的な力を考慮すれば、十分に制圧可能な戦力であったはずだ。
しかし、それは従来の常識に当てはめた考えでしかなかった。
いざ突入しようとした際に開け放たれた鉄門。その隙間から飛び出してきた未確認のモンスターの集団と交戦し、半分以上の探索者が死亡した末の撤退。
未確認のモンスター達は臨時の包囲網を簡単に突破し、一般人を巻き込みながら被害は拡大していった。
政府は緊急事態を発令して、『ギルド』と連携しそれぞれの所属の高位の探索者を派遣して速やかに討伐作戦を実行、多少の負傷者が出つつも討伐作戦は成功した。
その後は不気味な程に静寂を保つ『古城』と呼ばれるようになった例の『ダンジョン』は、特別警戒『ダンジョン』の一つに指定され、政府と『ギルド』が協力して周辺一帯を隔離、監視体制を敷いた。
またそれだけではなく、『ギルド』所属の高位探索者の一人、『聖女』の二つ名を持つ少女によって目に見えない手段による目視や内部から魔法による転移を妨害する結界が張られている。
これだけの監視体制を敷けば、『古城』に何らかの異変があったとしても迅速に対応ができる。
さらには討伐された新種のモンスターの死体は、研究者達によって解剖、解析が進めらていて、『古城』に潜むだろう同種のモンスター相手の対策が練られていた。
時間はかかるかもしれないが、何れは危険な『ダンジョン』は攻略される。誰もがそう信じて疑わなかった。
それが覆されたのは、包囲網が完成されてから三日目。それまで全くと言っていいほどにリアクションを見せなかった『古城』が、動きを見せる。
「――『地獄の門・開門』」
常に空気が張り詰めていた『古城』を監視する面々の耳に、良く通る幼い少女の声が届く。場違いに思えるような少女の声が何故するのか、その言葉の内容を理解する暇もなく、異変は顕現する。
『古城』から少し離れた位置の地面に、マンホールの蓋のような物体が出現する。しかし大きさは巨大で、細部に施された装飾のせいで美術品にも、恐ろしい怪物の口にも、ここではないどこかに通ずる『扉』のようにも見えた。何重にも鎖で雁字搦めにされている『扉』らしきそれは、激しい音を立てて弾け飛んだ。
その音は周りの人間にはやけに大きく聞こえ、思考を更に麻痺させる。
だが前の突入時とは違い、現在『古城』の周囲に敷かれた監視体制を構成している面々は、少しの油断が命取りになるという探索者としての基本的な心構えが嫌になる程刻み込まれている。
「……総員に通達。パターンBとしての対応を開始せよ。それと並行し、政府と『ギルド』に連絡を。最悪の場合、このまま攻略作戦をする羽目になる可能性もあるな。気を引き締めろ!」
「了解!」
この場の総指揮を任せられている『ギルド』所属の高位探索者の男性は、すぐ傍にいた探索者に声をかけ次に起こるであろう異変に備えようとした。
男性の声により何とか正気を取り戻した探索者は、受けた命令を全体に知らすべく行動に移した。
総指揮官の男性は己の腰に愛用の剣があることを確認すると、再度視線を謎の『扉』に向けた。鎖が砕け散って以降、『扉』には何の異変も見られない。
虚仮威しか。そう結論づけて安堵したかったが、目の前の異常見て見ぬ振りをする愚者から死んでいく。
一切の注意を逸らすことなく、『扉』を見据える。
総指揮の男性の指示がようやく全体に伝わったのか、事前に決めていた取り決めの一つの通りに、探索者達は動いていた。『古城』に何らかの異常が見られた場合、それに対応できるように何パターンも策は用意されていた。
「……万が一の時は覚悟を決めるしかないか」
総指揮の男性は、誰にも聞かれない程度に小声で呟く。
未だに『古城』にも、『扉』にも反応はない。
まるで右往左往している人間を嘲笑っているかのように。或いは余計な被害が出ることをできるだけ回避したいが為に、人間側の準備が整うのが待っているかのように。
一分、五分、十分。
永遠に近い程の時間が経過しても、何も起こらない。
故意か偶然か。悪意か善意か。潤沢に時間は与えられて、包囲網は縮められる。その場にいるある探索者は自分の武器を持ち、ある探索者は支援魔法を前衛職の者達にかけてサポート体制に入る。
準備は万端。誰もがそう思っていた時に、遂に『扉』は開かれた。
視力の良い探索者達の目に映ったのは、一寸先の闇。奈落の穴そのものを連想させた。
そこから飛び出してきたのは、初日に接敵した新種のモンスター達の集団。またそれだけではなく、猟犬にも似たモンスターや小悪魔のような異形のモンスターの姿があった。
何れも未確認のモンスターである。
いつの間にか『扉』は閉められていて、大多数が認識する前にその姿は掻き消えていた。
モンスター達が吠え、探索者達に向かって突撃を始めた。それに探索者達は迎撃の構えに入った。
人類とモンスター達の決戦が始まる中、誰にも気づかれることなく『古城』から一匹の鴉が飛び立った。
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