第10話 外の世界へ②
――自分にとって、文字通り世界が変わってしまった日から三日間が経過した。その間は特に大きく動くことはなく、私は『悪魔城』の警備の見直しと、
初めて『テレポート』を使おうとした際に、何の違和感もなく魔力の存在を知覚し行使することができた。
どうやら『モンスター・ハウス』内で作り上げ、ステータスをカンストさせるまで強化した
それがこの三日間で判明した。はっきり言って、私一人の力だけでも世界征服が可能と思える程に、この肉体が扱える力は非現実的なものだ。
ただの軍隊では、力任せに制圧することは訳ないだろう。と言っても、世界の方にも尋常ではない変化が起きている。
それが完全に判明するまでは、大きなリアクションは取れない。そもそも私は死にたくないだけで、恐怖の大魔王になりたい訳ではないのだ。
一方で『悪魔城』の外では、多少の変化があった。『悪魔城』の半径二キロメートルを境に、先日の侵入者達のような格好をした大勢の人間達によって包囲網が形成されていた。
直接目視した訳ではなく、『遠見の水晶』で覗き見していたのだが、ある時を境にして見られる映像が乱れるようになった。
そして、その現象には見覚えがあった。
「……妨害されている」
小声でそう呟く。
玉座の間でアメリアが用意してくれた食事の最中に『遠見の水晶』で外の景色を見るのが日課になっていた。
はい、そこ。行儀が悪いと言わない。
『悪魔城』にはテレビや漫画にインターネットといった娯楽の類はないので、ついつい空いた時間で『遠見の水晶』で外の景色を眺めるのが暇潰しになる。というかそれぐらいしか娯楽の代わりになるものがないのだ。
しかしそれも難しくなった。
『遠見の水晶』で見られる外の景色が、『悪魔城』の包囲網内に限定されるようになり、その範囲内も満足に見ることができず砂嵐状態である。
お陰で唯一の娯楽が潰されてしまった。こめかみがピクリとしたのは、仕方ないだろう。
それは置いておいて、ゲームの時にこのような現象が起きるのは決まって第三者によって、何かしらの妨害を受けているからだ。
もちろん『モンスター・ハウス』は一人用のゲームである為、敵はCPUなのだが攻略していないダンジョンや敵対勢力の街と都市を遠隔で覗こうとすると、妨害を受けることがある。
その手段は専ら魔法だ。
今回妨害をしているのは外部の勢力で間違いないだろう。その手段が自分が知っている魔法か、また別の何かであるかは不明。
『レッサー・デーモン』の件以来、直接乗り込んでくる様子は見られなかったが、あちらはあちらで対応を進めているらしい。
こっちも早めに動いた方が良さそうだ。
しかし監視の目もあるし、どうやるべきか。下手に動けば、強行突入してくる可能性がある。周囲への被害を考えれば、それは避けたい。
そんなことを考えている内に、食事は終わりアメリアは食器を第六階層の異空間まで片付けにいった。
余談ではあるが第六階層にあたる異空間の『門番』はコックをモチーフにした外見をしていて、当然異空間自体も厨房やレストランを彷彿とさせるデザインになっている。
侵入者がいない平時は、『悪魔城』の食堂として稼働している。
今自分が食べている食事も第六階層から、アメリアに運んできてもらってきたものだ。
美少女メイドに給仕してもらいながらの食事というものは、格別ですね。数日前までの自分では、想像できない待遇である。善き哉、善き哉。
「……だけど、どうなっているんだろう? 外の世界。それこそ別ゲーのようにファンタジーな装備している人間が当然のように大勢いるなんて。
母さんや父さんに美由紀も無事かな……」
アメリアも不在な玉座の間にて、独り言を呟く私。
ちなみに美由紀というのは、彼女ではなく妹の名前である。今は高校生だったか。実家を離れて、しばらく顔を会わせていない。
これだけ異常な光景が当たり前のようになっている世界で、家族は安全に過ごしているだろうか。
自分の安全を確保することも急務であるが、家族の様子も確認したい。その次いでに、外の世界の情報を集めるとしよう。
具体的には、謎の武装集団についてだ。
「……よし。少し強引な方法になるけど、あの魔法を使ってみるか」
戻ってきたアメリアを伴い、『テレポート』で第一階層『堕落のエントランスホール』に転移した。
■
転移が完了した私はアメリアと第一階層の『門番』であるセフィロトには少しだけ離れてもらい、外で『悪魔城』の監視をする人員の目を誤魔化す為の魔法を発動する。
「――『地獄の門・開門』」
――後書き――
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