第9話 外の世界へ①
玉座の間にて集結した『門番』達が全員自我を持って独立した存在であること、程度の差はあれ自分に忠誠心を抱いてくれていることは確認できた。
それらの確認で大方の要件は済み、最後に今後の方針を告げようと瞬間。配下の大体の位置と状態を把握できる能力に、変化があった。
『悪魔城』の外に出てしまっていた悪魔系モンスター『レッサー・デーモン』の群れが、一瞬の内にその生体反応が消失した。
つまり、それが意味するのは『レッサー・デーモン』の群れを相手取っても難なく勝利できる存在がいるということだ。
「……まさか、『レッサー・デーモン』達が全滅するとは」
確かに『レッサー・デーモン』は、『モンスター・ハウス』内に登場するモンスターの中でも、強さは下から数えた方が早い。
と言っても、腐っても上位種族である悪魔系統のモンスターである為、初期のダンジョンでは中ボス的な立ち位置を務めることがある。
本当に序盤のダンジョンだが。
『悪魔城』に突入しようとしてきた武装集団について思い返す。
彼らの年齢に性別は様々で、武装も剣や槍、中には弓らしき物を持っている人物もいた。素人目には鍛えていて、多少の修羅場はくぐってきたようにも見えた。
だが直接戦闘シーンを見ていないので断定はできないけれど、扉越しに聞こえてきた悲鳴。お世辞にも善戦したとは言えない。
『レッサー・デーモン』の一体すら満足に倒すことができないのであれば、必要以上に外部の勢力と敵対するつもりはないので、最低限自分や世界に起きた異変の正体を把握するまでは無視するつもりだった。
しかし『レッサー・デーモン』という消耗が気にならない戦力とはいえ、複数体をまとめて倒す存在がいるのは気がかりだ。
『レッサー・デーモン』の消滅を受けて、方針の転換を『門番』達に通達。
『悪魔城』の警備レベルを最大限にまで上げて、外部の情勢を探る。その旨を全『門番』達と共有した。
その後『門番』達は各々の持ち場に戻っていき、玉座の間に残されたのは自分とアメリアだけになる。
アメリアは玉座の間における『門番』である為、別におかしくはない。
「……それでリリス様。先ほどは他の『門番』達に『悪魔城』の警戒体制を引き上げろと仰っていましたが、そこまでの必要性を感じません。
もちろんリリス様の懸念はもっともですが、『レッサー・デーモン』如きが倒された程度で、この慎重さは違和感です。もしも脅威に思うような事象があれば、我ら一同で全力で排除させて頂きます」
真剣な表情と声色で言ってくるアメリアに、私は理由を説明する。
「そうだな、アメリア。確かに『レッサー・デーモン』は換えの利く消耗品に近い戦力だ。それを倒された所で、過剰に警戒する必要はない。その主張は理解できるし、正論だろう。
やろうと思えば、私と『門番』達の力で実力行使も不可能ではないはずだ。しかし万が一私達に匹敵するような者がいたらどうする?」
「……でしたら、数で挑めばよろしいかと」
「だが、同格の相手が同数以上いたらどう対処する?」
「そ、それは……」
「半分事故のようなものであれ、結果的にはこちらの方から手を出してしまった。どれだけの犠牲者が出たかは分からないが、相手がいつ報復に来てもおかしくはない。
その時に敵の実力も内情について知らずに挑めば、敗北する可能性がある。
当たり前だけど私はまだ死にたくないし、アメリア達にも死んでほしくはない。だから、まずは受け身に回りつつ相手の出方を伺いながらも、気づかれないように懐に入り込み情報だけを抜き取る。
それが最適解なんだ」
「……承知しました」
アメリアに語った説明はほぼ本心である。ゲームの時でもそうであるが、情報が不明瞭なダンジョンに初見で突っ込むことはないし、それが本物の命のやり取りを伴うのであれば慎重にならざるを得ない。
それに加えて、住んでいた家こそ『悪魔城』に変貌してしまい、いきなり武装集団に押し入られようとしたが、周囲の風景は間違いなく日本そのもの。昨日まで、日常を過ごしていた街のものだ。
無理に実力行使に出れば、見知っているご近所さんや行きつけのお店の店員さんまで犠牲になってしまうかもしれない。
体こそ悪魔になったかもしれないが、心までは人外になりたくはない。
既に出てしまった犠牲者達には、心の中でそっと手を合わせておく。一応正当防衛に入るかな? ……過剰防衛?
とにかく外の世界がどうなっているかは、直接見てみたい。その旨をアメリアに伝えたら、とても渋い表情をされてしまった。
その後、他の『門番』達を巻き込んで説得に時間がかかったが、それはまた別の話である。
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