第8話 『門番』集結

「まだ……慣れそうにないかな」



 独り言がぽつりと溢れる。転移魔法『テレポート』の使用は二度目になるが、前触れもなく目の前の景色がいきなり変わるというのは、多少の酔いを招く。

 それでも足元が全くふらつかないのは、『大悪魔』としての肉体故だろうか。後数回もしない内に慣れてしまうだろう。

 単純に長距離以外にも、戦闘中に相手の死角に回り込む為に『テレポート』を使用することがあるので、転移特有の酔いがなくなるのは有り難い。



 転移したのは当然玉座の間であるが、細かい位置までは指定いなかった。さっきまで立っていたはずの私の体は、不釣り合いな程に巨大で手の凝った装飾が施された椅子――玉座に腰をかけていた。

 座り心地は文句なし。『人を駄目にする』系の家具を百倍にしたような代物だ。

 肝心の座る人間――悪魔が相応しくない気がするが、この際は関係ないだろう。



 一度深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。気分を落ち着かせた後、玉座の間に集った自分以外の人物――『門番』達に視線を向ける。



 そこには傅く姿勢をとった異形の集団があった。その数は十一。今この場にはいないアメリアとセフィロトを除いた『門番』である。



 異形の集団は、容姿から性別にかけて様々である。人間に近しい者もいれば、明らかに人間とはかけ離れた者もいた。

 妖怪図鑑の一頁と言われても、否定できない光景ではあった。けれどその一人一人は自分が拠点の防衛の為に、手塩にかけて作成した大切な存在。

 こうして実体だけではなく、自我まで宿すような事態になるとは昨日まで思いもしなかった。

 多分ではあるが、この場にいる彼らも自分を主と仰ぎ、確かな忠義を向けてくれるのだろう。

 この夢みたいな現実がいつまで続くかは分からないが、彼らの主として相応しくなれるよう『大悪魔』リリスの仮面を被るとしよう。

 まだまだ死にたくないので、配下に裏切られるような危険性はなるべく排除したい。



 そんなことを考えていると、アメリアとセフィロトが姿を現した。二人とも手を繋いでいる所をみると、セフィロトが『テレポート』を使ってアメリアがそれに同伴した。という感じだろう。

 彼女達は私の視線に気づくと、慌てて他の『門番』達に倣い傅く姿勢に移行した。



「――では、これで『門番』は全員揃ったようだ。今回は私の我儘で集まってもらってすまないな」



 玉座の上で、できる限り偉そうにふんぞり返る。先ほどから、こういう話し方を実践しているが、支配者としてはこれは正しいのだろうか。



「いえ、滅相もありません。リリス様。我ら『門番』を含め、この『悪魔城』にいる者全ては貴女様に仕える下僕です。リリス様の命令であれば、どんな場所にいても馳せ参じるのが配下として当然のことです」



 アメリアが代表して、傅いた姿勢のまま発言する。視線だけを動かして他の『門番』達の反応を見てみるが、特段変わった様子は見られない。どうやら正解か若しくは及第点はもらえたようだ。



「うむ」



 アメリアの言葉に、これまた仰々しく頷き話の続きに入った。



「それでは本題に入るとしよう。『門番』達よ。お前達は、今『悪魔城』が置かれている状況を理解しているか?」

「はい。昨晩リリス様が遠征から帰還された後、一晩にして『悪魔城』は全く未知の土地に転移してしまいました」

「そうだな」



 ゲームの時、この『悪魔城』の周辺は何もない荒野であった。実際には規模は小さな村から大きな都市まで様々だったが、人間やエルフなどの亜人種族の生活圏内に囲まれていた。

 『悪魔城』を強化、増築を行っていく過程で衝突し、その全ては荒地になり資材は拠点の糧になったが。



「お前達はどのように対処すべきだと思う? アメリアとセフィロトは既に知っているが、先ほど外部の人間達と戦闘行為に発展した。

 と言っても、『レッサー・デーモン』が十数体程度に苦戦する集団だがな。警戒は最低限で構わないだろう」

「では失礼ながら、現状の把握の為に隠密行動に優れた者を調査に出すのがよろしいかと」

「その通りだな。アメリア。外部への警戒は怠らず、調査チームの選別は後ほど――っ!?」

「どうされましたか!? リリス様!?」



 私の急な態度の変化に、アメリアを始めとして全ての『門番』が驚愕の声を上げる。緊迫した空気が玉座の間に流れる。

 そんな雰囲気の中、私の言葉が小さく響く。



「――外に出ていた『レッサー・デビル』達の生体反応が途切れた。しかも全個体が一撃だ。総員、『悪魔城』の警備レベルを最大限まで引き上げろ」

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