第4話 異変は次から次へと
立て続けの異常事態による情報の嵐。それらを短時間で処理しようとした結果。私の思考は止まってしまった。
転移したのがゲームの世界ではなく、現代日本。正確には転移したと言えるのか、この状況? 体はゲームのキャラクターの物に変わり、しかも家がダンジョンになっている。驚き。
幸い親も遠くの実家に住んでいて、自分がいた家は小さな借家だ。同居人はおらず、この異変に巻き込まれた云々の心配の必要はない。
しかし大家さんについてどう説明すれば良いんだ?
「どういたしましょうか?」
「あ、ああ……そうだな」
アメリアの声で、意識が現実に戻される。この状況を現実だと認めたくはないが、その可能性を第一にして行動すべきだろう。
『遠見の水晶』に映し出された風景は、先ほど記述した日本の住宅街のど真ん中に世界観をガン無視した魔王城如き見た目の我が拠点である古城――『悪魔城』が鎮座しているものであった。
空の色具合から判断するに、時刻は大体午前六時ぐらいだろうか。真夜中ならまだしも、この時間帯になってくるとジョギングやら犬の散歩等で出歩く人がちらほら出てくる。
つまり、異常な建築物が人目に晒されることを意味する。その後の展開も予想することしかできないが、これがフィクションであれば警察や自衛隊が突入してくるのがお決まりではないのか。その後人類の敵認定される展開も含めて。
まあ、どれだけ武装した所で、ただの人間如きに、この『悪魔城』が陥落するはずはない。
――ただし、それも自分やアメリアを初めとしたNPCに、『悪魔城』がゲームの時と同様のスペックを発揮した場合に限るが。
――『悪魔城』。そう名付けた我が拠点の見た目は、禍々しさが天元突破した古い造りの古城。内部は見た目相応な造り――と思わせて、入り口から通った瞬間に来訪者は異空間に飛ばされる。
そう『悪魔城』は外観こそ洋風の古城ではあるが、内部は魔法の効果(ゲームシステム)により、全十三個の異空間で構成されている。
各異空間にはアメリアのように、『改造』及び『調整』を施したNPCが一体ずつ配置されている。
ちなみに今いる玉座の間は、『悪魔城』の最深部――要するに一番最後の十三番目の異空間にあたる。ここだけは拠点の外観に合わせているのは、ご愛嬌だ。
補足として、玉座の間の所謂『ボスモンスター』に該当するのは、アメリアとリリス《私》である。
匠も驚きの建築物が一夜にして出現したことにより、発生するだろう混乱に対処しなければならない。
まずはNPCの状態を把握しないと。目の前のアメリアこそ自分に忠誠を誓ってくれているが、他のNPCがどう反応してくるか全く分からない。
アメリアのみが特別で、他のNPCはゲーム時代と変わらない簡単な命令に従うだけの人形の可能性がある。
それならまだマシな方で、最悪反骨心の塊ばかりであったら、『悪魔城』を放棄してアメリアと一緒に逃げ出すことも厭わない。容姿は完全に日本人離れしてしまったが、まだ人間と言い訳できる範囲なはず。
それにゲーム通りのスペックを発揮できれば、社会に紛れ込むのも容易だろう。
そんなことを考えていると、アメリアの消え入るような声が聞こえてくる。
ふと視線をアメリアの方に向けてみると、彼女はこちらから少し視線を逸らし、その綺麗な顔を若干赤らめていた。
「……あの、申し訳ありません。リリス様。そのようにじっと見つめられると、流石に恥ずかしいです……」
「えっと……ごめん? そんなつもりはないよ」
意識をしていないが、気づかない内にアメリアを凝視してしまったようだ。
アメリアは知らないはずだが、外見こそ少女のものではあるものの、体感数時間前まで肉体は男であった。自分ではそんな気は微塵もなかったが、女性は男の視線に敏感らしいので誤解させてしまったらしい。
誠意を込めて、謝罪をしておく。
現状アメリアは唯一判明している味方なのだ。こんなことで叛意を抱かれたら、たまったものではない。
「……別に問題ありません。むしろこの身はリリス様に助けて頂いたもの。好きに為さりたいのであれば、いつでもおっしゃってください」
美少女でメイドの格好をしているアメリアがそういう発言をすると、こっちが誤解してしまう。
しかし私がアメリアを助けた? 一体いつ、どのことを指しているのか。つい尋ねたいと思ってしまったが、アメリアを通して他のNPC達の様子を確認しなければ。
そう気を取り直し、アメリアに声をかける。
「――アメリア。緊急事態につき、他のNPC達……『門番』達を至急この玉座の間に呼び出してほしい」
「もちろんですとも。私を含め『悪魔城』いる者はリリス様に仕える忠実な下僕。貴女様の命令であれば、すぐさま御身の前に馳せ参じるでしょう」
立ち上がりスカートの裾を掴み、恭しく言うアメリア。彼女は体を霧状に変化させ――吸血鬼としての種族特性――玉座の間から退出していった。
そして、その場に残されたのは自分とアメリアが置いていった『遠見の水晶』だけだ。完全な静寂に満ちた、だだっ広い空間で何をすべきかと焦燥感に駆られる。
しかしアメリアが他の『門番』――各階層にあたる異空間を守護する『ボスモンスター』に相当するNPCのこと――を呼んでくるまで、できることは皆無に等しい。
暇潰しに『遠見の水晶』に見ていると、それまで特大の違和感を除いて閑静な住宅街を映していた光景に変化が現れた。
『悪魔城』の周辺を取り囲むように、大勢の人間が規制テープにより境界線を引き始めていた。
そして入り口にあたる場所には、十数人程の人間がこれまた世界観ガン無視な剣や鎧を装備した状態で集まっていた。
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