第33話 NPC疑惑


 以前、ノーマルコボルトと『冒険者のナイフ』で戦った時は、倒しきるまでに七撃前後の攻撃を加える必要があった。


 それが『膂力』を5上昇させて、装備を『戦士の短剣』にグレードアップさせたことで、二度の攻撃で倒すことが出来た。



 ────これは、かなりの進歩と言える。




 ただ今回の戦闘は、敵が単独だった。


 複数の敵を相手取って戦った場合、こう上手く行くとは限らない。

 


 僕の近接戦闘能力は、村周辺の敵相手に通用するレベルではある。

 だが、敵が強くなり、戦闘の難易度が上がるダンジョン付近に近づくのは無謀だろう。


 近接戦闘の練習と経験値稼ぎは、この辺りで行うか……。





 ────僕は次の獲物を探して、引き続き村の周囲を徘徊する。


「なんだか、不審者みたいだよなぁ」


 そんなことを呟きながら歩いていると、背後から敵の接近する気配が近付いてきた。


 ────僅かに足音が聞こえる。




 僕は振り返り、コボルトを視界に収める。



 そして、『スロウ』を使用した。


 停止した世界で、僕は左腕を上げてみる。


 今日は左腕に盾を装備しているので、いつもより重い……。


 ────だが、動かせる。




 『膂力』を上昇させた結果、動かしやすくなった様に思う。


 ────やっぱり、『俊敏』だけではなく『膂力』も上げた方が、この停止世界での動きも速くなるな。


 


 僕はそれを確かめながら、スロウを解除する。


 ────ガッ!!



 構えた盾でコボルトの攻撃を防ぎ、カウンターで敵を攻撃した。


 グサッ!!



 僕の短剣が、コボルトの身体を突き刺す。


 けれど、深入りはしない。 



 敵の身体に刺さった剣を引き抜き、慎重に盾を構えて、敵の攻撃を待つ。


 腹に深手を負ったコボルトは、それでも構わずに、僕に爪を振るって来た。



 ────ガッ!


 その攻撃も危なげなく盾で防いでから、敵の腕を短剣で斬りつける。



 ザシュッ!!


 続けて、弱った敵の首を斬りつけ、コボルトを倒した。



「……ふぅ」






 戦士の短剣は値段が高いだけあって、攻撃力が飛躍的に上昇したし、ステータスの『膂力』を5上げれば、実感できるくらいには強くなっていた。


 短剣の試し切りと、膂力を上げた効果……。


 確かめておきたかったことは確認できた。



 ────これで、検証は終了だ。








 

 まだ体力も魔力も余裕があったので、村の周囲でモンスター狩りを行い、村に帰還する。



 ドロップアイテムを売却してから、宿屋に戻る。


 ────金貨5枚の収入だった。



 ログアウトし、現実世界へと戻る。


 明日からコボルトの谷の、攻略を開始しよう。



 




 翌日、ゲームにログインした僕は、装備を整えてから、道具屋へと向かう。


 テントとロープを金貨6枚で購入して、コボルトの谷へと向かう。


 

 村から出る前に、以前遭遇したプレイヤーと鉢合わせになった。


 彼らは丁度、村に帰還したところの様だ。




「あっ! 君は前に会った。えっと……名前は聞いてなかったな。────とにかく、無事だったんだね! 良かったよ」


「あっ、はい……」


 出会い頭に、話しかけられた。



「心配していたんだ。────コボルトの谷を見に行ったんだろ? その様子だと、モンスターには出会わなかったんだ。────運が良かったね!」


「あっ、はい……」


 心配してくれていたらしい。


 ────やっぱりいい人だ。




「えっと、その……君は仲間は居るのかな? 冒険者ギルドで募集すれば、仲間を雇えるよ。何人かは応募してくるから、その中から選ぶといい」


「あっ、はい……」



 僕は事情があって、ギルドで募集しても仲間は集まらないのだが……。


 その辺りの込み入った事情を、説明するだけのコミュニケーション能力が、僕にはない……。


 だからこうして、無難な受け答えに終始している。


 そんな感じで僕たちが喋っていると、彼の仲間のプレイヤーが割って入る。




「…………なぁ、こいつ……本当にプレイヤーか? なんかNPCのさ、バグかなんかじゃねーの? ────ちょっと、攻撃してみよーぜ」


 いきなり何を言い出すんだ、コイツは────?



「いや、待て!! NPCを殺害してしまえば、指名手配されるだろ! 取り返しのつかないことになるぞ。────もっと慎重に行動してくれ」


「────あっ、ああ! そうだな。────悪い悪い、つい、な」



 『良い人』の仲間の『迂闊な男』は、プレイヤーがNPCを殺害して指名手配されたニュースを忘れていたようだ。


 ────馬鹿な奴め。


「気を付けてくれよ。ほんと────あっ、えっと、ごめんね。仲間が変なこと言って……」


「あっ、はい……」



 馬鹿から馬鹿にされるのは、しょっちゅうだ。


 いちいち怒っていては、身が持たない。



 それに、怒るほどの悪口でもない。




「……本当にNPC、なのか? いや、それにしては……う~ん。ま、まあ、その、邪魔して悪かったね。────僕たちは、もう行かなきゃ。それじゃあ、またね」


 『良い人』はそう言うと、冒険者ギルドの方へと歩いて行った。



「あっ、はい……」


 僕はちゃんと返事をしてから、村の外に出た。


 





 ────思わぬアクシデントがあった。


 いつもは他のプレイヤーと鉢合わせしない様に、細心の注意を払い行動しているのだが、今日は運悪く、出合い頭に遭遇してしまったのだ。



 あの曲がり角……。

 あそこはデッドゾーンだな。


 

 今度からは、もっと気を付けよう。


 プレイヤーとの会話は、気疲れするからな。




 ……。

 

 だが、見知らぬ他人と、それなりに会話のキャッチボールが出来た。


 冷泉とも、かなり話せるようになっている。



 ────友達作りの秘訣の一つ。

 共通の趣味があれば、仲良くなりやすいというのは本当だな。



 このゲームをプレイしたおかげで、僕の対人スキルもかなり上昇している気がするぞ────


 ゲームをしたことで得ることが出来た、思わぬ副産物だ。


 僕はちょっとした成長を実感しながら、コボルトの谷へと向かった。





 *************************


 名前    タナカ ジロウ           

 

 職業      冒険者Lv30 魔法使いLv25                       

 戦闘タイプ     特質系 時空間能力者

 魔力属性        闇  

 


 最大HP      140/140

 最大MP      670/670


 膂力         33

 体力        130

 魔力        830

 俊敏         76

 命中         55


 精神力       125

 運          70

 魅力        115       



 装備

 旅人の服 旅人の靴 旅人のマント 冒険者の鎧 冒険者の兜 戦士の盾 魔導士の指輪 勇者のネックレス 戦士の短剣


 スキル

 魔力操作 魔力属性変化 魔力具現化 魔力放出


 魔法

 なし


 特技

 ダークショット スロウ ワープ 回復力上昇


 所持金

 金貨22枚 


 ボーナスポイント

        0  


 *************************


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