第20話 ワールドニュース



「ふぁ……」

 

 僕は目立たない様に、欠伸を噛み殺す。



 初級ダンジョンを攻略した次の日、僕は学校で授業を受けている。


 ────ゲーム内の宿屋に辿り着いた時、HPの減りは半分ほどだったが、MPは底を突きかけた状態だった。


 その為、今日は朝から凄い眠気に襲われている。







 ゲーム世界で魔物から逃げ出した僕は、少し離れた場所に隠れて、スズヨウさんの死を見届けた。


 それからブイロ村に戻り、すぐにログアウトした。



 やっておいた方が良い事は沢山あった。


 ドロップアイテムの売却をしたり、冒険者ギルドへ行って初級ダンジョンの攻略報告や、仲間の死亡報告────


 そんなことが頭をよぎったが、疲れ切っていたので、すぐに眠った。

 体力的にも、魔力的にも、精神的にも疲れ切っていた。


 ────細々とした用事は、後で良いだろう。



 そう思って、ログアウトした。









 午前の授業が終わり、給食を取りながらゲームの事を考える。


 今日は回復を優先させて、ログインは止めておくか……。

 でも、アイテムの販売だけなら……。


 そんなことを思案する。



 

 給食を食べ終えた後は、どこかで目立たない様に寝たかった。

 疲労は回復してきたが、少しでも眠っておきたい────



 でも、保健室で仮眠をとるとかは、僕にはハードルが高いんだよな。 

 …………。


 親に連絡が行って心配かけるのも嫌なので、図書室で目立たない様に眠ろう。


 そう思い、教室を出る。


 

「あっ! 田中! ────ちょっと来て!!」

 

 教室を出たところで、冷泉玲理が僕の腕を掴んで引っ張る。


 僕はまた、彼女に校舎裏に連れ込まれた。








 校舎裏に到着した冷泉は、周囲に誰もいないことを確認してから話し出す。


「田中、凄いじゃない!! もうダンジョンを一つ攻略するなんて────攻略サイトでも話題になってたよ」


 ……?

 

 ……攻略サイト?


 ああ、このゲームのプレイヤーが集まって、情報交換しているというサイトか……。


 そこで、話題になってる────?

 僕がダンジョンを攻略したことを……?

 

 何で知ってるんだ??

 


 聞いてみよう。


「えっと、その……実は昨日、攻略した後、疲れてすぐに眠ったんだ。────ああ、えっと、ログアウトして、攻略サイトとか、見る暇なくて────」


「ふーん、そうなんだ。────攻略サイトの書き込みだと、『早すぎる!』、とか──『チート野郎に違いない!』、とか──『きっと、運営のサクラだろう!』、とか──いろいろ言われてたよ!!」


 ……全然、褒められていないじゃないか。





 プレイヤー同士の、情報交換サイトか……。


 まだろくに見てなかったな。

 


 有意義な情報があるかもしれないから、チェックしたいとは思っていたのだが────


 見るのは止めておこう。


 

 ピンポイントで僕の悪口とかが書き込まれていたら、メンタルが持たない。




 ……。


 それにしても、やはり僕の攻略スピードは、異常に速かったらしい。


 プレイしてみて分ったが、このゲームはじっくり少しずつ進めていかないと、すぐに手詰まりになって、死んでしまう仕様だ。


 装備を整え、仲間を雇い、モンスターを倒し、金を稼ぎ、レベルを上げる。

 ────仲間の雇用と宿代は、継続的に必要になる。

 


 『スライムの森』に入るまで、かなりの時間を要するだろう。


 さらに、一度入ると出られないという情報を知らずに、森に入ってしまえば、大抵のプレイヤーはそこで『詰み』となる。


 緊急離脱を使わざるを得ないし、再チャレンジするにも手間と時間がかかる。



 ……。


 こうして振り返ってみると、よく短期間で攻略出来たなと思う。


 自分のことながら、感心する。



 ────運も良かったのだろう。

 









「やっぱり田中って、ゲーム得意なんだね。────田中を誘って良かったよ!!」


 冷泉はそう言って、僕の手を取り両手で握った。


 ……ッ!!


 ────僕の心臓が、跳ね上がる。


「この調子で、初級ダンジョンをあと二つ、攻略して────そうすれば、私が居る町に行けるはずだから……」



「…………あっ、ぅ」


 咄嗟に言葉が出なかった。


 何か返事をしなければいけないが、声が出ないのでコクコクと頷く。




「────じゃあ、ゲーム、頑張ってね!!」


 冷泉はそう言うと、先に教室に戻った。



 僕は暫らく、校舎裏でボーとしていた。


 赤くなった顔を冷ましてからでないと、教室に帰れない。








 学校が終わり、帰宅した。


 僕はいつものように宿題をして、ご飯を食べて、風呂に入り、布団に入る。

 


 そして、ゲーム世界『ラスト・パラダイス』に入る。

 ゲームにログインした僕は、ステータスのチェックから始める。



 ……。


「……ん?」


 ステータス画面を開くと、一緒に『ワールドニュース』という画面が現れる。


 『新着のお知らせ』という項目を開くと、プレイヤー『タナカ ジロウ』が、スライムの森攻略に成功、という記事が表示された。



 僕の活躍が、ニュースになっている。


 どうやらこのニュースは、すべてのプレイヤーに届けられているらしい。

 ────それで、皆が知っていたわけだ。


 

 ニュースの最後に追加情報として、『スライムの森は勇者の活躍で消えたが、魔王が瘴気を放ち、再びダンジョンは復活するだろう。』と予言めいたことが書かれていた。


 ニュースによると、攻略したダンジョンの復活は二日後だそうだ。

 ────せっかく苦労して攻略したのに、また現れるらしい。

 


 まあ、そうしないと、他のプレイヤーが困るからな……。


 こればかりは、仕方ないだろう。




 

 僕はステータスのチェックに入る。


 冒険者のレベルが20となり、魔法使いがレベル16まで上がっていた。

 特技に『ワープ』という能力が追加されている。


 そしてボーナスポイントが、レベル上昇分と同じだけ付与されていた。 


 この10ポイントで、任意のステータスを強化できる。




 *************************


 名前    タナカ ジロウ           

 

 職業      冒険者Lv20 魔法使いLv16                       

 戦闘タイプ     特質系 時空間能力者

 魔力属性        闇  

 


 最大HP      130/140

 最大MP      360/670


 膂力         28

 体力        130

 魔力        830

 俊敏         52

 命中         55


 精神力       125

 運          70

 魅力        115       



 装備

 旅人の服 旅人の靴 旅人のマント 冒険者の鎧 冒険者の兜 冒険者の盾 魔導士の指輪 勇者のネックレス


 スキル

 魔力操作 魔力属性変化 魔力具現化 魔力放出


 魔法

 なし


 特技

 ダークショット スロウ ワープ


 所持金

 金貨0枚 


 ボーナスポイント

       10 


 *************************

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