第21話 危ない橋


 ゲームにログインした僕は、ボーナスポイントでステータスの強化を行う。


 強化するのは今回も『俊敏』だ。

 ────10ポイント全てを割り振った。


 

 前回はポイントを使うのか、温存するのか、随分と悩んだが……。

 僕にしては珍しく、今回は即決だった。


 それだけ僕にとって、『俊敏』の価値は高い。


 特技『スロウ』を最大に活かすには、この数値を上げるのが最適だろう。



 欲を言えば『凌力』や『体力』、それに『命中』や『魔力』も上げたい。


 50ポイント溜めて、『魔法』を覚えるのも良いだろう。



 ────だが、ポイントは有限だ。


 優先順位が最も高いのは、『俊敏』だと判断した。







 ボーナスポイントを割り振った僕は、スライムのドロップアイテムを売却する為、村の道具屋に向かう。



 僕が現在所持しているスライムの液体は、それぞれ、ブルー12個、レッド4個、イエロー5個、グリーン6個、グレー2個になる。


 アイテムボックスから取り出して、道具屋に持って行く。


 販売金額は、合計で金貨52枚になった。




 ────かなりの大金を手に入れた。


 僕は道具屋に来たその足で、冒険者ギルドへと向かう。

 途中でプレイヤーらしき人と出会いそうになったので、隠れてやり過ごし、ギルドの中に入る。


 僕が入ると、中にいたNPC達が一斉にこちらを見る。

 彼らは何も言ってこないが、何か言いたそうにこちらを見ている。



 恐らくは、スズヨウさん関連の事だろう。


 彼は僕とパーティを組み、ダンジョン攻略に出かけて、戻ってこない。

 聞きたいことはあるけれど、聞くに聞けない────


 そんな所だろう。


 僕は視線に気づかない振りで、受付に向かう。








 僕が雇い、共に迷宮に挑んだ冒険者のスズヨウさんが死んだ……。



 この事をギルドは、どこまで詳細に把握しているのか────?

 そして、その事をどう捉え、僕の事をどう評価しているのか────?


 その辺りを探っておきたい。






 まずは、当たり障りのない話題から入ろう。

 


「あっ、あの……すみません。僕はその、『スライムの森』を攻略した者ですけど────その……」


「────ああ! 勇者『タナカジロウ』様、ですね。ワールドニュースで見て存じております。迷宮攻略おめでとうございます。────こちら、攻略者様にお送りする、近隣の地図になります。お受け取り下さい」


 僕は渡された地図を受け取る。




 …………。


 ……。


 どうやらNPCにも、ワールドニュースの情報は伝えられ、共有されるようだ。

 受付の人は、僕に対して好意的だった。

 

 この調子で、探りを入れてみよう。


「あの、それでですね。────こちらで雇った、冒険者のスズヨウさんなんですが、……戦闘中に、逃げ出してしまったんです。スライム・キングに怯えて、────怖気付いたんでしょう。ボスの出現と同時に、森の中に消えてしまって────この場合、どうすれば……」


「ああ、それは御気の毒でしたね。────ですが、そういった事も含めて、『冒険』であり、そういった危険性を孕んだ仕事が『モンスター討伐』です。────ギルドが仲介した冒険者の不手際とはいえ、保証は出来かねます。ご理解ください」



 ……。


 僕は嘘はつかず、自分が非難されない形で情報を開示した。

 相手の反応を見たかったのだが、どうやら、保証金を狙ったクレーマーと思われたようだ。

 


「わかりました。……あの、それとですね。────逃げ出したスズヨウさんなんですけど、単独でスライムを倒すことの出来ない人でしたので、もう殺されてしまった可能性が高いと思うんですけど……。この場合、パーティのリーダーだった僕が、なにか、────仲間を死なせてしまったことに対する、責任と言いますか、罰やペナルティを科せられることはありますか────?」



 念のため────


 僕はもう少し深く、探りを入れてみた。

 スズヨウさんはもう死んでいるが、そこはぼかして話す。


「先ほども申し上げましたが、『そういうことも含めて』冒険です。冒険者は皆、危険な仕事と理解したうえで、自ら志願して参加しています。仲間の死は残念ですが、雇用主が責任を問われることはありません。────ですが、『正当防衛』の場合を除き、故意に仲間を殺害した場合は、ワールドニュースでアナウンスされ、ペナルティを科せられることになりますので、注意してください」



 ……。


 …………。


 受付の人の説明を聞き、肝を冷やした。


 僕は『故意に』スズヨウさんを殺害した。

 自ら手を下してはいないが、死ぬように仕向けたのは確かだ。

 

 だが僕の犯行は、ワールドニュースになっていない。

 あれは『正当防衛』だったと、ゲームの管理者が判断したからだろう。


 そうでなければ────

 僕が人を殺したことが、ニュースになっていたのだ。


 ゲーム世界の全てのプレイヤーとNPCに、周知されるところだった。


 





 正当防衛か否かを判断する、明確な基準は分からない。

 

 ゲームの管理者が、アウト判定していれば『犯罪者』になっていた。

 僕の名前がワールドニュースで、『殺人犯』として流れたことになる。


 …………。


 ……。



 僕はかなり危ない橋を、渡っていたようだ。





 さて────


 聞きたいことは聞けたし、知りたい情報は手に入った。


 僕は宿屋の部屋に移動し、ベットに寝転がる。

 

 

 戦闘はしていないが、どっと疲れた。

 今日はもうログアウトしたいが、最後にこれだけ確認しておこう。




 僕は冒険者ギルドで貰った、地図を広げる。

 地図には『ブイロ村』と『スライムの森』が描いてある。


 そして────

 その南東と北東にそれぞれ一つずつ、村とダンジョンの位置が記されていた。


 

 *************************


 名前    タナカ ジロウ           

 

 職業      冒険者Lv20 魔法使いLv16                       

 戦闘タイプ     特質系 時空間能力者

 魔力属性        闇  

 


 最大HP      130/140

 最大MP      360/670


 膂力         28

 体力        130

 魔力        830

 俊敏         62

 命中         55


 精神力       125

 運          70

 魅力        115       



 装備

 旅人の服 旅人の靴 旅人のマント 冒険者の鎧 冒険者の兜 冒険者の盾 魔導士の指輪 勇者のネックレス


 スキル

 魔力操作 魔力属性変化 魔力具現化 魔力放出


 魔法

 なし


 特技

 ダークショット スロウ ワープ


 所持金

 金貨52枚 


 ボーナスポイント

       0 


 *************************

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