第8話 校舎裏の密会
僕は現実世界で目を覚ます。
「……うっ」
────体中が痛い。
ゲーム世界での身体の痛みが、現実世界にも引き継がれている。
スライムから攻撃を受けた箇所が、ズキズキと痛む。
……。
…………。
ゲームで負ったダメージが、現実にも反映されている……。
ほんと、なんなんだ。
このゲーム────?
ゲーム世界に入れて、リアルな体験が出来る。
そこまではいい。
だが、ゲーム世界で受けた痛みをリアルに持ち越すとか、そこまでの事をユーザーは望んでいないと思うのだが……?
でもまあ、実際にこのゲームはあるのだから、需要はあるのだろう。
僕はベットから起き上がる。
身体は痛むが、動けない程ではない。
僕は朝食を食べて、身支度を整えてから学校へ向かった。
昨日は大変だった。
────ゲーム世界での話である。
レッドスライムに苦戦したものの、なんとか倒した僕は、ブイロ村に帰還することにした。
これ以上、無理をするのは危険だ。
そう判断した。
帰り道を進むと、ノーマルスライムに出くわす。
ダークショット一発で、仕留める。
戦いを重ねて経験を積み、弾丸の生成から射出までを、かなりスムーズに出来るようになった。
敵がこちらに向かって来る前に、先制攻撃で倒せた。
今のところダークショットを躱せるのは、レッドスライムだけだ。
────二種類のスライムとしか戦っていないので、サンプルは少ないが、恐らくスピード特化型の敵以外は、ダークショットを避けられないと思う。
魔物を倒し村へと続く道を進む────
村の入り口が見えてきた。
ちょうどその村の入り口から、四人組の男が出てくるのが見える。
……。
僕は急いで道を外れ、木の陰に隠れた。
人が来たから隠れたのだ。
彼らの目的地は、スライムの森だろう。
あのまま道を進めば、あの人達と鉢合わせになってしまう。
森までは一本道だ。
気付かない振りは出来ない。
道で行き会えば、挨拶をするものなのだろうか?
それとも、無視しても良いのか────?
…………。
僕は友達のいない、コミュ障だ。
その辺りの塩梅が、よくわからない。
さらに──
初日に話しかけた男に、胸ぐらを掴まれたのがトラウマになっている。
ここは隠れて、やり過ごすしかない。
四人組が、道を通り過ぎる。
僕と同じくらいの年の男が二人に、大人が二人……。
同い年の男二人がプレイヤーで、大人二人がNPCだろう。
きっと、冒険者ギルドで仲間にしたんだ。
子供二人が剣と槍を装備していて、大人がそれぞれ盾と弓を装備している。
────バランスの取れた編成だ。
思わず僕は、『うらやましい』と思った。
彼らに話しかけて情報交換でもすればいいのだが、僕の対人スキルではそれは難易度が高すぎて無理だ。
暫く木の陰に隠れてから、宿屋に戻る。
戦闘でダメージを受けていて、疲れていた。
すぐにベットに横になり、眠りに就く……。
…………。
僕は授業の間の休憩時間に、予習と復習をする振りをしながら、昨日のことを思い返していた。
そして、疑問を抱く────
冷泉はゲーム世界のどこにいるんだ?
このゲームに誘ったのは彼女で、手伝って欲しいと言っていた。
彼女はゲームをプレイしている、プレイヤーのはずだ。
冷泉はもう、誰かとパーティを組んでいるのか?
だとしたら、彼女が期待する、僕の役割はなんだ────?
分からないことが増えた。
分からなければ、本人に尋ねればいいのだが……。
それが出来れば、僕はボッチになっていない。
ゲームを進めれば、いずれ会えるだろう。
そう考えて、僕は勉強に集中した。
その日の、昼休み────
「ねえ、田中……ちょっと来て────」
給食を食べ終えた僕は、冷泉に腕を掴まれて教室から連れ出される。
────教室がちょっと、ざわついていた。
あー、やだなー。
と思いながら、僕は冷泉に付いて行く。
僕が秘密特訓をしていた、人気のない校舎裏に連れて来られる。
冷泉と二人きりになった。
「────ごめんね、いきなり呼び出して」
「い、いや、別に……構わない」
ちょうど僕も、聞きたいことがあったんだ。
「あのゲームの事なんだけど、肝心なこと言うの忘れてて……」
肝心な事────?
「あのゲームね。まだ販売されてないんだ。────『テストプレイ』段階なんだって、だから、ゲームの事は、知らない人に喋っちゃダメなのよ。田中も気を付けて、……ひっとして、誰かに喋っちゃった?」
どうやらゲームの事を、プレイヤー以外には話してはいけないらしい。
それで、こんな人気のない所に、連れて来られたのか……。
まあ、彼女の心配は杞憂なのだが……。
僕が誰かに、ゲームの事を話す心配はいらない。
「────い、いや、誰にも言ってない。安心してくれ」
話す友達がいないからな。
────親にも言ってない。
僕ももう、中学二年生だ。
何でも親に話す年齢ではない。
「そっか、良かった。────それとね、ゲームのテストプレイヤーには、お金が振り込まれるのよ。成果報酬で、銀行振り込みなんだよ」
……。
……お金が、貰えるのか。
────それは正直、かなり助かる。
僕の家は母子家庭で、母と僕の二人暮らしだ。
お小遣いを自分で稼げると分かると、モチベーションも違ってくる。
「へぇ、そうなんだ。────それで、その……冷泉はゲームをプレイしているのか? どの辺に居るんだ? パーティは……?」
聞きたいことを、一気に聞いた。
僕にしては上出来だ。
「えっと、私はパーティは組んでなくて、ゲームを進めないと会えないとこにいるのよ」
どうやら冷泉は、すでにゲームを進めているらしい。
予想通りだが、少しがっかりだ。
彼女が近くに居れば、パーティを組めると思ったんだが──
そうもいかないらしい。
この後、僕らは連絡先を交換して解散した。
今日の一番の収穫は、これだったかもしれない。
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