第6話 スライムが現れた


 僕はゲーム世界『ラスト・パラダイス』の、最初の村から外に出た。


 

 ブイロ村は周囲を柵で囲っている。

 モンスターの侵入を阻止する、防壁の役割を果たしているようだ。

 

 

 ……。


 この柵で防げるのかと、ちょっと疑問に感じたが──

 まあ、ゲーム世界だからなと思い、流した。




 村の出入り口の門には、男が二人立っていて見張りをしている。


 僕が外に出ても、何も言われなかった。


 出るときに『スライムの森は、どこにありますか?』と尋ねると、『北西』とだけ答えてくれた。



 スライムの森────


 このブイロ村の周辺に出現したダンジョンであり、プレイヤーが攻略すべき対象だ。


 魔王が出現させたダンジョン『スライムの森』からスライムが溢れ出して、ブイロ村の治安を悪化させている。


 スライムの森のボススライムを倒すと、迷宮を攻略したことになる。



 プレイヤーである僕の短期目標は、ボススライムを討伐できるだけの力を付けて、ボスを倒すことだ。





 僕はさっそく、北西に歩を進めスライムを探す。


 ────魔物と戦闘して勝利し、レベルを上げる。


 これが出来なければ、話にならない。




 僕は学校で行った秘密特訓で、攻撃手段を手に入れている。


 だが、この力が魔物相手に、どの程度通用するのか分からない。


 通常は五人パーティで、挑むことが推奨されているゲームだ。

 戦闘の難易度は、高めに設定されているだろう。



 一度戦ってみて無理そうなら、諦めてログアウトしよう。

 冷泉と連絡を取り、セーブデータをリセットして最初からやり直す方法を聞くしかない。



 ……。


 ……でもそれは、なるべくしたくないと思っている。

 それは僕がコミュ障だから、話しかけるのが苦手だという理由だけではない。


 僕は……。

 彼女の期待を、裏切りたくないと思っている。


 柄にもなく、格好を付けたくなったのだ。







 ブイロ村の周囲は、荒れた草原が広がっている。


 草の背は高くない。

 所々、地面が剥き出しになっている。


 少しだけ起伏のある丘や、木もまばらに生えている。


 


 北西に向かって。一筋の道が伸びている。

 舗装されていない剝き出しの地面が走っているだけだが、道は道だ。


 僕は道を伝って、北西へと移動した。


 

 道を進むと、木の割合が増えてくる。

 木の周囲の草むらも濃くなっていく。


 がさっ────



 木の周辺に生えている、草むらが揺れた。


 風ではない。

 そこには魔物がいた。

 


 ────スライムだ。


 僕は魔導士の指輪に魔力を集めて、魔法の弾丸を作る。


 初めての実戦だ。

 心臓が激しく脈打っている。


 僕は左手を銃の形にして、スライムに狙いを付ける。




 僕に気付いたスライムは、ピョンピョンと飛び跳ねながらこっちに向かってくる。


 ────意外と早い!!


 動揺した僕の手が震え、狙いがブレそうになる。

 震える左腕を、右手で支えて固定する。


 スライムは、もう目の前だ。



 ドヒュッ────!!


 顔を目掛けて、スライムが飛びかかってきた。


 


 ────ドウッ!!!!


 僕の放ったダークショットが、スライムを貫通する。



 ビシャッ!


 魔法の弾で撃ち抜いたスライムは、四散して地面に飛び散った。


 どうやらスライムは一定以上のダメージを与えると、その形を維持できなくなるらしい。



 ────僕はスライムを倒した。


「はぁはぁ、はぁはぁ……」




 初めての戦闘で勝利出来た……。


 ダークショットのおかげだ。



 一撃で倒せたのが大きい────



 ……行ける!



 これで何とか、一人でもゲームを進めることが出来るだろう。


 僕は先に、進むことにした。

 





 ガサ、ガサ────


 スライムを発見。

 今度は、二匹いる。



 二匹か……。

 どうしよう?



 戦うか逃げるかの判断する前に、向こうに気付かれる。

 

 僕はダークショットの準備に入る。

 迫りくる二匹のスライム。



 ────ドウッ!!


 一匹はダークショットで仕留めることが出来た。




 もう一匹は────



 僕に向かって、飛びかかって来た。


 ガッ!!


 体当たりしてきたスライムの攻撃を、右腕に装備している冒険者の盾で防ぐ。



「うっ……」


 ────どさっ!


 敵の攻撃に押されて、尻もちを搗く。


 



 スライムの身体は、結構大きい──

 直径が一メートルほどある液体生物だ。

 

 重さもある。



 それだけの水の塊が、スピードに乗ってぶつかって来る。

 ────衝撃が全身を襲い、重さに耐えられなかった。



 無様に倒れ込んでしまった。



 ────だが、僕は慌てない。


 頭は、冷静だった。

 精神力をボーナスポイントで100上昇させた効果だと思う。


 後ろに倒れながらも、左手に黒い弾丸を作り出す。



 倒れた僕に、スライムが圧し掛かろうとしてくる。


 ────ドウッ!!!



 ダークショットが、スライムを粉砕した。


 


「ふぅ……」


 一息ついて起き上がると、スライムを倒した辺りが光っていた。


 そこには液体の入った、瓶が置かれている。



 ドロップアイテム、かな────


 僕がそれを拾おうと思った瞬間に、瓶が消えた。


 アイテムボックスに収納されたようだ。

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