9洞窟

それからつくしには、ダンジョン探索の始めから最期までを一通り教えてもらい、教導を終了した。


ダンジョン探索前の事前調査のやり方や、罠の解除、宝箱の開け方、マップの使用方法に障害物の排除の仕方、そして肝心なダンジョンの攻略目標、様々なことを教えてもらい、最後のエリアへついた。

[草原]は保護されているから攻略不可だが見えない壁に遮られた向こう側にどデカいゴブリンが昼寝しているのが見え、そこで教導が終わりとなった。



そしてすんなりと別れた。



つくしはまだまだ依頼完了まで教えまくるんだと息巻いていたし、他々人も今度は[草原]以外のダンジョンを始めから攻略してみたいと思ったからだ。


『これ、わたしのアドレスね!他々人くんと攻略帯が合うようになったら今度は仲間として一緒に頑張ろうねー、ほいじゃまたねー!ばいばーい!』


本当にお世話になった。

今度会うときにはこちらが力になれるようになっていたい、と他々人は思った。



そして数日後



事前調査を完了し、他々人は再びダンジョン攻略を開始することにした。


今度のダンジョンは[洞窟]

正式名称は[灰で煤けた洞窟]


脅威度は前回と同じく1、出現モンスターは吸血コウモリや大なめくじ。

特記事項には特に苦戦することはないが、名前通り灰に塗れていることと、出現モンスターが若干気持ち悪いのであまり挑戦する人は少ないとのことだった。


今回のダンジョンは前回の草原と同じく事前にある程度の調査がされているから情報があったが、上の脅威度になってくると誰の手も入ってない未調査ダンジョンに挑戦することが大半になってくるらしい。

5%のダンジョンは難易度に応じて逆三角形のような分布で発生しているらしく、難しいところほど数が多い。


だからこそロールとしての[ハッカー]が事前にダンジョンに〈hack〉して情報を解析することが大事になる、という。

他々人は今回、調査済のダンジョンではあるがそこから始めてみようと思っていた。


「〈code〉gain:num=5〈ring〉」

「〈code〉hack:num=5〈scan〉」


開いておいたゲートに向かいワイヤーを放ち[調査]の符号を唱えた。


ゲートの外側からワイヤーを放出してダンジョン自体の外殻に接続することにより、ダンジョンそのものの情報をある程度知ることが出来るらしい。

もちろんそれを行うハッカーのレベルや腕前、ダンジョン自体の難度や性質により取得出来る情報量は変わるらしいが、これを怠る探索者はいない、と聞いた。


まだ慣れない感覚を操りながらダンジョンについてを調べていく、外側から接続してみるとこんなにも大きく感じるのかと少し驚いた。


「名称…[灰で煤けた洞窟]………脅威度1………洞窟だけど、脅威度が低いからか視界の明度には問題なし、と…見えるモンスターは……コウモリ、デカいナメクジ………あ、ゴブリンもいるのか……確かに外観は見える限り足元が灰だらけだな」


接続した外殻から何故か定められている名称と脅威度の情報を抜き取り、内部にワイヤーを潜入させて偵察をさせた。



「〈code〉accessout」


現実へと還り、落差で少しくらりと目眩がしてふらつく。


「やっぱり…事前に調査済のダンジョンでも、自分で〈scan〉はするべきだな」

「たぶん探索時にゴブリンが偶然見つからなかったとかそんなところで情報から欠けてたんだろう、人気がないらしいしな」


自分で〈scan〉することの重要性が確認できたな、と他々人は思った。


「〈scan〉、よし」

「動作確認、よし」

「ドローン、よし」

「心の準備………よし」


儀式のように一つ一つ確認をした。

そして少し逸る鼓動を深く息を吐いて落ち着かせ


「それじゃあ、行ってきます」


だれにともなく出発を宣言し、足を踏み出した。



ばふん、と灰を踏む感触が足に伝わってきた。

確かに名前のとおりそこら中に灰が塗れている、こころなしか呼吸も少しし辛い気がした。


「やっぱり…用意してきて良かったな、マスク」


準備をしてきた腰のポーチからマスクを取り出して装着する、電網世界では粉塵による疾患に限らずリセット人体の原点回帰で治らない病はないが、それもダンジョン外に出なければリセット出来ない、ダンジョンの中ではジャミングでもされているのか電網世界で基本とされている様々な機能が制限されているらしい。

だから事前にマスクを取り寄せてポーチに入れて持ち込んでいた。


「〈code〉hack:num=5〈scan〉」


ゲートの周辺だからか、周囲には敵も、罠もなかった、ハッカーは基本スキャンで視界を調べつつ探索するのが常道だという、まだ眼が慣れていないがこれからのためにも他々人はスキャンしながら前進することにした。


「あ、その前に…〈code〉access:num=1〈call〉」


ワイヤーの先端から光が溢れそれが徐々に2頭身の丸っこいぬいぐるみのような形に象られていく、そして次第にゴブリンとして判別できるようになり、弾けた。


「ぎぎぎぎっゔいー!」


ぶるぶると犬が水を震わせるように、ゴブリンが光を弾かせながら顕れた。


「よし、問題なく呼びだせたな」


「これからこのダンジョンを攻略していく、よろしくな、Vヴィー


数日の間に付けておいた名前でゴブリンを呼ぶ。


「ゔい!」


まんざらでもなさそうに頷きながらVヴィーは片手に棍棒を構えて周囲の警戒を始めた、とても優秀な相棒だな、と他々人は思った。



この数日でこのゴブリンと幾度も交流を交し[傀儡]の練習を重ねたが、他々人は何度も感心させられることになった。


あの草原でのゆるゆるとした生態からしては意外なことに、Vヴィーはきっちりと相方としての役目を率先して果たそうと努力してきた。


今のように斥候役として欠かさず行動する警戒心、他々人がつたないながら教えこんだ武器を今では片手で気軽に振るえる器用さ、

難しい指示でもどうにか工夫して果たそうとする知恵。


たしかに初心者向けダンジョンのモンスターだからあまり力はないけれど一緒に強くなっていきたいと思える相棒が出来て、正直に言えば大分心強いと思えた。



「よし、今度こそ」

「行こう、Vヴィー


改めて気持ちを入れなおし一歩を踏み出した。


後を追うドローンの旋回音が静かに静かに洞窟の壁に反響した。





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