6教導

「こんにちはぁーっ!!お困りかぁーい!!?」


ゆるキャラゴブリンたちと一緒に他々人もビクリとしながら声がしたほうに振り向いた、そこにいたのは、明朗快活という言葉をそのまま形に現わしたような笑顔だった。短く顎にかからないまでにカットされたふわりと弾む明るい茶髪、服装は暖かそうなセーターに動きやすそうなパンツスタイル、素晴らしく凹凸の目立つ女性的なシルエット、けれど四方八方に撒き散らされる元気さがそれを目立たせない。


「こ、こんにちは」


少しどもりながら返す、人間不信と言うほどでもないが、まだ前の職場でのブラックな人間模様が脳裏に焼き付いて久しい。

当たり前と呼べるようなコミュニケーション能力が復活するにはもう少しかかるだろう。


「お困りのようだね、私は種畑つくし、[ロール]はクラッカーで、[ジョブ]はバッター![デバイス]はそのまんまバット![階梯レベル]は4で[階位]はノービス!公社からの依頼で現地でビギナーの教導をしてる探索者の一人だよ!」


「あ、はじめまして、宇白他々人、です。ハッカーで傀儡師、[階梯レベル]1、[デバイス]はこの指輪で、ビギナー、です」


「それで…教導、ですか…?」


「そう、教導、コーチ、家庭教師のキレイなおねえさん?」


「俺に聞かれても…」


「たはー」


人怖じをかけらも感じさせない距離で詰めてくるつくしに、少し後ずさる。初めて接するタイプの人だ、と他々人は思った。


「それじゃあこれから授業を始めまーす!わーわーわー、拍手ー!」


「は、はい」「「「ぎっぶい!」」」


こちらの応答の可否を無視して教導が開始される。何故かゴブリンたちもわらわらと集まってきてつくしの正面に体育座りし始めた。少々どころじゃなく強引で、わけのわからない状況だけれど、丁度どうすれば良いかわからなくなってたところなのでむしろ助かった。


「えーと、まず最初に、クラッカーとハッカー、[ロール]そのものから解説します」


「私たち探索者は、適正因子とかいうわけのわからないものがあったおかげでこの職にありつけたわけだけどー」


「その適正因子から、大きく分かれて2つの方向性の力が発現しました、それを[ロール]と呼びますー」


伸び伸びになった語尾よろしく本人も右に左に体を伸ばす、まるでこれから軽く運動をしますというように。


「そのロールのうち一つが[クラッカー]、私の属してるロールです!」


「[クラッカー]の役割は簡単に言えば壊し屋!前に塞がるものをドッカドッカンと壊すことこそが[クラッカー]の本懐です」


「対モンスターにおいてはぶった斬ったりぶん殴ったり吹っ飛ばしたり燃やしたり冷やしたり直接ダメージを与えるのがしごと!フィールドにおいてはハッカーが〈はっく〉出来ない障害物をぶち壊してルートを開発したり隠し部屋につづく脆い壁を壊すことも役割の一つだよ!」


右構えにいつの間にか取り出したバットを構え、ぶんぶんと素振りをして、まるでバッターボックスに入る前の準備万端な打者だ。


「だからー…一番わかりやすく[クラッカー]を紹介するにはこれが一番!勝負!!!」


そう叫んでバットの先を突きつけた、その先に居たのは


「………ゴブ!?」


横寝をして右手を枕にしながらこちらを鑑賞していたゴブリンだった。

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