第1話 刺激的な出会い

辛いもの好きの健太にとって、麻婆豆腐は中華料理の定番中の定番。しかし、最近ふと思ったのだ。「本当の麻婆豆腐の奥深さを知らないんじゃないか?」。そこで、健太は一計を案じ、3軒の中華屋を梯子して、麻婆豆腐を食べ歩くことを決意する。最初の店は、街で有名な四川料理専門の中華屋「火龍」。本場の四川料理を提供するこの店は、激辛好きたちの聖地とも呼ばれていた。


夕方、健太は「火龍」の赤い提灯を目にし、暖簾をくぐる。店内には唐辛子と山椒の香りが充満しており、鼻腔をくすぐる。周囲の客たちも麻婆豆腐を楽しんでいるようで、汗を拭きながら笑い声を上げている。


「麻婆豆腐、ください」


健太が注文を告げると、店員は慣れた手つきでオーダーをキッチンに伝えた。程なくして、真っ赤な麻婆豆腐が熱々の土鍋に盛られて運ばれてきた。見るからに辛そうな真紅のタレに、豆腐が浮かび、山椒の粒がキラリと光っている。健太は箸を持ち、期待に胸を膨らませながら一口すくい上げた。


その瞬間、舌が痺れ、火を噴いたような刺激が口の中を駆け巡る。「これが本場の辛さか…」健太は瞬時に理解した。唐辛子の辛味と、花椒の痺れる感覚が一体となり、舌に強烈な刺激を与える。しかし、その辛さの奥には、肉の旨味と発酵した豆板醤の深いコクがしっかりと感じられる。辛さの向こう側に、濃厚で複雑な味わいが隠れていることに気づき、健太は箸を止められなくなった。


汗が滝のように流れ、口からは「はぁ…」という熱い吐息が漏れる。それでも不思議と、もう一口、もう一口と、箸が進む。辛さの中に潜む旨味を次々と引き出しながら、健太は初めての店での麻婆豆腐に圧倒されていた。


完食した健太は、水を飲み干し、少しだけ落ち着いた。舌はまだ少し痺れているが、心地よい刺激が脳内に余韻を残している。


「これはすごい…でも、次はどうだろう?」


次の店へ向かう前に、健太はもう一度振り返り、火龍の赤い提灯を見つめた。「麻婆豆腐って、こんなに深いんだな…」そう呟いて、次の挑戦へと足を踏み出した。


次回、第2話は、健太が訪れる老舗中華屋の麻婆豆腐が描かれます。

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