第10話 ラップ箱君

「どうかな?ラップ君?」

「ラップ君は嫌だって…」

「声を出せるのは分かっているんだ。君自身の答えが知りたいな。ラップ君。」

「…」

「僕は、君のことを君より分かっているかもしれないよ。」

「燃やさない?」

「燃やさない。僕は心を燃やす生き物は燃やさないんだ。果たして君は生き物なのかな?」

「生き物だ。きっと…多分…おそらく…」

「まあ、話しができる時点で生き物なのだろうね。僕だって、断末魔を聞くような趣味はないんだ。燃やすことはないよ。」

「それでラップ君はなんなの?おっちゃん。」

「おっちゃんっていうほどの歳ではないのだけれどね。ブランズ。僕の名前。ここもブランズ工房だしね。」

「で、おっちゃん俺は一体なんなんだ?」

「ブランズ。おっちゃんじゃなくて、ブランズね。まだ、31だから。僕のミステリアスな雰囲気が台無しだ。そうだな、そのことについては3つの謎がある。」

「3つの謎って?何?おっちゃん?」

「まず、なぜ物が意識を持っているのか?次に、物がどうやって話せているのか?筋肉がないからね。そして、最後に…」そう言っておっちゃんは俺の方に顔を近づける。

「なにこれ?箱?」

「箱じゃないもん。ラップだもん。」シーパが反論する。

「ラップ?なんだいそれは?」

「このシーパの腕に巻いている透明な紙のことだ。今は包帯代わりに使っている。」

「あーこれか、すごいなこの透明な紙…薄いし、透明だ。ガラスとも違う。どんな材料を使っているんだ?気になるところだ。で、このラップがこの箱となんの関係が?」

「俺はこのラップを自由に出せるんだ。」そう言ってラップを出して見せる。

「あー君はそういった物なんだね。でも、ラップはその紙の名前だろ。ラップを出せる箱の君はなんて名前なんだい?」

「ラップだ。」シーパの時と同じように言う。

「ラップを出せるからと言って、ラップという名前にならないだろ。水を入れた桶は桶であって水ではないし、宝石が入った箱は宝石箱だろ。」

「じゃあラップ君はラップ箱君ってこと?」

「ラップ箱…」

「ラップ箱君、君はラップを出す以外に何ができるんだね。」

「ラップ箱…」

「ラップ箱君はラップ箱君のラップを切ることができるよ。」

「ラップ箱君のラップ…」

「これか、この刃で自分のラップを切ることができるのか。すごいなラップ箱。」

「ラップ箱…」

「いつまでラップ箱にショックを受けてるのラップ箱君!」シーパが俺に強く言う。

「ラップ箱って…ラップ箱って語感が悪いだろ。あと、箱だし…モノ感強いだろ…」

「ラップ箱…素晴らしい。人間の心を燃やした美しい機構だ。是非、燃やしてみたいんだが、いいだろうか。ラップ箱君。」おっちゃんが目をキラキラさせながら俺に語りかける。

「モノ感が強まったからって燃やしていいってわけじゃない!あと、どさくさにまぎれてミステリアスな雰囲気を取り戻すな!」

「それで、ラップ箱君はラップ箱だけど、なんで話せたりできるの?」

「ラップ君って呼んで。ラップ君って。結構名前に愛着出てきてたからさ。失って分かる大切さっていうの?ちょっとの時間だったんだけど、大切な物だって気づいたんだよね。」

「ラップ箱君はおそらくモノに魂が宿ったパターンだね。」

「ねえ、聞いてた?ラップ君って呼んで。」

「ごめん、ラップ箱君、今大事なところだから。」シーパが集中した目つきでこちらを睨む。

「確かに大事なところだ。詳しく聞きたい。だからこそ、ラップ君って呼んで。」

「でも、ラップはこの紙のことだし。ラップ箱がラップを名乗るのは傲慢なんじゃないか?」おっちゃんが謎の問題提起をしてくる。

「ラップとラップ箱に上下はないだろ!対等な関係だろ!」

「分かったよ。ラップ君。ラップ君って呼ぶよ。ラップ君って変なこだわりあるよね。」

「それで、なんなのだ?俺は?」あらためておっちゃんに聞く。

「愛着をもって使った物は自ら動くことがある。それがモノに魂が宿るというものだ。使用者の強い魔力によってモノ自身に意志が生まれるらしい。」椅子に座り真面目な顔でおっちゃんが話す。

「物が勝手に動くっていうことか?」

「驚いたみたいに言ってるけどラップ君のことだからね。」

「まあ、僕も実際には見たことがないから、半信半疑なんだけどね。ほとんど、伝説みたいなものだし。強い魔力を持つ者、とても強い騎士の剣とかに魂が宿っているらしいんだけど、どうせ体が勝手に動いたとか、とっさに剣が出たとかの伝承が転じたんじゃないかと思ってたんだけどね。実際に話しているモノを見ちゃったら信じるしかないよね。」

「ちょっと待て、魔力ってなんだ?」魔力という言葉に引っかかる。

「魔力を知らないのかい?君の持ち主は魔力を使っていなかったのかい?」

「持ち主なんていないし、気づいたら町の外の湖の近くにいた。」

「そうか、まあモノに魂が宿るのにはいろいろな条件があるのだろう。魔力というのはすべての人間が持っているエネルギーで魔法として使うことができる。人によって大小はあるけどね。」

「魔法?魔法ってあの魔法か?」

「君の言う、あの魔法が何を指すのか分からないが、こういったものだ。『ファイアボール』」おっちゃんが手をかざし、詠唱を完了すると手から火球が飛び出し、窯の中へ収まる。

「すげぇ」ここがファンタジー世界なんだと思い知らされる。

「ねえ、おっちゃんが魔法で火を出せるんだったら窯にいろいろ入れて燃やす必要ないじゃん。なんで燃やすの?」シーパが疑問に思う。

「僕は人が心を燃やしてつくった物を燃やして、人の創作物に対する熱量を感じ、私もまた作品をつくるのだ。魔法なんてただの熱源でしかない。」

「すげぇ!すげぇよ!おっちゃん!」俺は、魔法が存在したことに感激した。男の子だったら1度は夢見る魔法。それがあるこの世界に来て初めて良かったと感じた。

「そんな褒めてくれてうれしいな。君だって使えるんだよ。ラップ箱君。」

「まじで!どうやるんだ?」俺は嬉々として聞く。

「今も使っているじゃないか。『声を出す魔法』。」

「えっこれが?魔法…?」

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