第9話 工房
「良かったのか?お金無いんじゃないのか?」俺はシーパに聞く。
「あっ、ごめん。ラップ君。あのお金ほとんど、ラップ君の成果だった。勝手に渡しちゃった。」
「それはいいんだ。俺は、一人で買い物も出来ないからな。」
「そっか。商品になりに来たんだと思われちゃうね。」
「化け物が来たって思われて退治されちゃうんだよ!」
「そっか。ラップ君は変だもんね。」
「町でも俺みたいなのはいないのか?」
「いないよ。いない、いない。見たこともないし、聞いたこともない。」
「そうかー。何なんだろうな俺…」
「自分でも何なのか分からないの?ラップ君。」
「うん。気づいたらこの体で、あの場所にいてさ…」
「そうなんだ。じゃあ、工房のおっちゃんの所行って聞いてみよう。僕、何ですかー?って」
「大丈夫か?何か変な物だなって捨てられたりしない?」
「大丈夫。大丈夫。工房のおっちゃん優しいし。捨てたりしないって。今日の分は稼いだし。工房、行こ。」
「分かった。信頼できるんだな。」
シーパの腕に抱えられ、町を闊歩する。町の人はやはりどこか、シーパを避けている感じがする。それはまあその通りで、町の人の服は俺の知っている現代の服とは違い、決して派手ではないが、落ち着いた色合いのワンピースやシャツのようなものだが、シーパはかろうじて身を包んでいる麻の布と俺がせめてばかりにシーパの胸の辺りに巻いたラップだけだ。そんな恰好の少女が町中で歩いていたら、当然目に付くし、避けてしまうこともあるだろう。
そんな周りの様子に気づく様子もなく、シーパは工房の入口に到着する。
工房と呼ばれた建物の上には分からない文字で書いてある看板が吊り下げられている。
「おっちゃん入るよー。」そう言ってシーパは工房の扉を開ける。
「あー駄目だー。もー駄目だーーー。あー燃やすしかない。燃やすしかない。俺の3日間」
派手な色の布のパッチワークの服を着た、アフロヘアの男が部屋の端の机で頭を抱えていた。
「おーい。おっちゃん。あのさー」
「ちょっと待て。ちょっと待て。ほんとに優しいんだよな。」
「優しいよ。おっちゃんは、この剣も貰ったし…」
「めっちゃ燃やしてるけど。俺、燃やされないよな。」
窯の中に机の上の図面のようなものが描かれた書類を次々と入れる工房のおっちゃん。窯の中は火が轟轟と燃え盛っている。
「大丈夫だって、優しいから。おーい。」
「人には優しくても、物には厳しいかも知れないだろ。俺なんかすぐ炭だよ。炭。」
窯の中から大きく火が上がる。
急にくるりとこちらを向き、シーパの方に近づいてくる。
「おや、来ていたのか?シーパちゃん。それは、なんだ。燃えるものか?燃えているものか?」
「おっちゃん。これなんだけど。」シーパは俺を差し出そうとする。
「やめろ。やめろ。シーパ。これ、やばい人だ。多分、人にも優しくはない。やばい人だ。逃げよう。」小声でシーパに必死に撤退するように言う。
「おやおや、それは。また、珍しいものを持って来たものだねー。シーパちゃん。」
「うん。でも、ラップ君が嫌がってるから、帰るね。」
「ちょっと待て。少しでいいから見せてくれないか?ひどいことはしないからさ。」
「でも…」
「どうかな?ラップ君?」
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