第11話 『声を出す魔法』
「今も使っているじゃないか。『声を出す魔法』。」
「えっこれが?魔法…?」
「そうだ。だって声帯もないのに、箱がどうやって声を出しているんだ?魔法で出しているとしか考えられないだろう。」
思い描いていた魔法とは、全く違うものに落胆する。
「すごいよ。ラップ君。『声を出す魔法』」シーパが意地悪っぽく声をかけてくる。
「バカにしてるだろ。俺だってファイアボールとか使いたいよ。」
「それは無理だよ。ラップ箱君。人によって使える魔法の系統は決まってるんだ。『ファイアボール』と『アイスボール』が両立できないように、系統が違う魔法は使えない。僕の系統の魔法に『声を出す魔法』がないから、ラップ箱君も『ファイアボール』を使えない。」
「そんなー」
「でも、ラップ箱君の『声を出す魔法』だけじゃないと思うよ。」
「どういうことだ?」
「ラップを出したりできるだろ?」
「ああ、ラップを自分の意志で自由に動かせる。」
「それも、魔法だね。『ラップを自由に動かせる魔法』だね。」
「あと、ラップ君っていっぱいラップ出せるじゃん。あれも魔法かな?」
「一度ラップを出し切ったあと、いつの間にか自然にラップをまた出せるようになったんだけど…」
「それも、魔法だね。『魔力をラップに変換する魔法』だね。」
「私も、おいしそうなものを見ると涎が止まらないんだけど…これって魔法かな?」
「それは、唾液だね。『食べるときに消化を助ける唾液』だね。」
「えー魔法じゃないんだー。」
「魔法じゃないね。ただの唾液腺の働きだね。」
「要するに、俺はモノに魂が宿った存在で魔法を使って動いているって考えていいのか?」
「そうだね。魂が宿る物がたまたまラップ箱という変な物だったけどね。」
「おっちゃんこれはー?目をつぶっても歩ける。」そう言ってシーパは俺を机に置き、目を瞑り、両手を前にして歩く。
「それは、頑張って目を瞑って歩いているだけだね。その状態で周りが見えてるだけなら魔法だけど。」
目を瞑った状態のまま、よたよたと工房内をシーパは歩く。
「魔法は、魔力を使って使うんだろ。その魔力っていうのはどうやって補充するんだ?」
「魔力は普通にしていれば回復するよ。運動した後の疲労と同じように。睡眠や椅子に座るだけでも自然と回復できる。まあ、君の魔法は魔力の消費は少なそうだけどね。ショボいし…」
「ショボいっていうな!」
「はははwww」
俺はこの体で生きる上での不都合を魔法で解決しているようだった。自分で動けない不便なこの体で最低限の動きができるのは、うれしく思うべきなのだろうが、人間だった時とできることの違いに落胆する。
「危ない!」
急におっちゃんが叫ぶ。
バンッ!
シーパが壁にぶつかり、壁に掛けていた剣がシーパに向かって落ちてくる。
俺は反射的にラップを伸ばし、シーパの体を掴み、こちらに引き寄せる。
「きゃ!!」
ドンッ!!!
シーパに当たるぎりぎりのところで剣が落ちる。
「危なかったー。」尻もちをついたシーパは、危機感のない声で言う。
「危ないよ。いろんな武器掛けてんだから。あまり、ふざけるんじゃない。」
「目をつぶったまま歩けたら、魔法使えるかなって。」
「そんなわけないだろ。怪我でもしたらどうすんだ。」
「怪我ならしてるよ。いっぱい。」そう言ってシーパは腕を広げる。その
「シーパちゃん。僕は、君が思ってるより君を心配しているよ。君は身寄りもないし、ただ毎日を生きていければいいと思っているかも知れないが、偶然でも出会った君が傷ついていく姿は見たくないんだ。」おっちゃんは淡々と言う。
「ごめんなさい。」
「簡単だが。服を作ったから、奥の部屋で着替えなさい。」そう言っておっちゃんはシーパに服を渡す。
「分かった。おっちゃん。」それを受け取ったシーパは奥の部屋へと進む。
部屋の中には俺とおっちゃんだけになった。
おっちゃんはまた椅子に腰掛ける。
「武器屋なんだなここは。」
「そうだね。服とかいろいろやってるけど、本業は鍛冶だね。服とかを作るときのイメージを燃やして武器をつくってるんだ。」
「シーパはなんなんだ?」
「あの子は孤児で…おそらく元奴隷だ。まあ、本人には聞いてないけどね。本人も言わないからさ。僕がシーパと出会ったのは、数十日前たまたま商人から買った箱に入ってたんだ。逃げてきたんだろうね。どこからか。」
「そうか。」シーパを取り巻く重い現実に言葉が詰まる。
「この町はまだ裕福だからね。奴隷はいないんだけど。まだ奴隷制が存在するところもあるからね。シーパのような子も出てくるよね。」
「なんで、冒険者に…?」
「それしか働く先がないんだよ。15歳の身元も分からない子供はね。知っているかい。僕と始めてあった時はシーパという名前はなかったんだ。」
「ギルドで名前を考えたとか言ってたな。」
「そうだ。ギルドはなんでも受け入れてくれる。名前さえ分からなくても…まあ、ギルドが無かったら野垂れ死ぬしかないんだろうけどね。日々いつ命を落とすか分からない危険なクエストに行って、その日暮らしの小銭を得る。それしかないから、それをやる。」
「だったら!」
「どうしろというんだ?僕がお金を払って養うか?僕にそんな余裕はないよ。ただ、ああいう子には一次的なお金を渡すより、お金を稼ぐ手段を渡した方がいいと思って、剣と服を渡したよ。これしかできない。これしかできないんだ僕は。」
そう自分に言い聞かすようにおっちゃんは言う。
「…」
「ラップ箱君。君がシーパの近くにいてシーパに寄り添ってくれないか?さっきみたいにシーパを危険から守って欲しいんだ。シーパと対等な立場で…」
「…分かった。シーパを守ろう。…ただ、一つ聞かせて欲しい。シーパは、どうして痛みを感じてないんだ?」
「ああ、そのことか。それは、僕もあまり分かっていないが、先天的か後天的か分からないが何かしらの疾患である可能性が高い。」
「魔法である可能性はないのか?シーパは魔法が使えないって…」
「痛みを感じないというのはメリットでもあるが、もちろんデメリットでもある。生存するために必要なものだからね。基本、魔法はメリットしか与えない。だから、魔法である可能性は限りなく低い。」
「じゃあ、シーパの魔法は?」
「分からない。魔法というのは、声を出そうとか火を出そうとかいう意志と自分の魔法の系統が同じだった時に発現するんだ。だから、彼女は色々な状況で思いつく限りの魔法を出そうとしているんだ。一応、魔法鑑定士という人がいてその人に聞くと自分の系統が分かるんだけど…お金がね。」
「あーそれで。目を瞑って…」
「正直こういったもののせいでお金のない、冒険者になるしかない子供たちが命を落としていってるんだと感じるよ。」
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