第4話 そのゴブリンのお味は?
「あっ!」
じっと俺を見つめている彼女の後ろから襲いかかる新たなゴブリンの姿が見える。
「届け!!!」
必死にラップを伸ばしゴブリンに体当たりを試みるが、包んだゴブリンのせいで長さが足りない。
「あと…ちょっと!」
その瞬間、パチッと音が鳴り、今までにない浮遊感が訪れる。たなびくラップが見える。ラップと体が分離したのだ。完全に空中に浮いた俺は少女を狙うゴブリンを補足する。
ガリッ
俺はゴブリンに噛みついた。正確にはラップの刃の部分でその緑の肌に斬りかかった。一瞬ひるんだゴブリンに少女は即座に斬りかかる。
血しぶきを被り、地面に落ちた俺はまた湖の方しか見られなくなってしまった。後ろで倒れたゴブリンにとどめをさす音が聞こえる。
俺は、上がった興奮を抑えるのに必死だった。あんな血しぶきを見るのは初めてだったし、人に近い生き物を間接的とはいえ殺したんだ。ここがどこで何が起こっていたか。人間だからと言って少女を助けた判断は正解だったのか?相手はゴブリンで少なくともここは地球ではない。一体何なのだろう。
その時だった。すっと体が上がるような感覚がして、
「なに?君は?」と言う声が背後からする。
おそらくさっきの少女だろう。日本語なのに驚きながらも、どう答えればいいか考える。
「ラップだ。」と返答してみる。
「えっ?君話せるの?」
「話せると思ったから話しかけたんじゃないのか?」
「物に話しかけることだってあるでしょ。」
「俺は物じゃない!」と声をあげると
「物だよ。どう見ても。ラップ君。」と冷静な意見が返ってくる。
「どこから話してるんだろうなー」と少女が俺をつまんで観察する。
「逆だ。逆!」と声をあげると、
「噛まないよね?」と少女が聞いてくる。
「噛まないよ!」と叫び、少女と対面する。
黒髪のショートボブの女の子がこちらを不思議そうに見ている。中学生くらいの少女だ。そんな女の子が先ほどの死闘を経験し、今ではけろっとしている。そんな感覚に大きな違和感を抱く。しかし、
「ひどい怪我だな。」彼女の体には先ほどまでゴブリンによってできたであろう傷が手足や肩、わき腹などにできており、血が垂れている。
「あー、結構ゴブリンにやられちゃったからなー。ラップ君がいなかったら死んでたかも。」
そのことを当たり前のように言う彼女に何とも言えない気持ち悪さを感じる。
「大丈夫なのか?」
「あー、薬草でも塗れば、どうにかなるよ。どこか生えてるかなー」そう他人事のように言って彼女は湖の方に向かい、草を探しているようだった。
そんな『これくらい唾つけとけば大丈夫』みたいに…
「あったあった。」そう言って彼女は傷口を湖の水で洗い、ちぎった草を傷口にあてる。
「痛くないのか?」
「あー全然平気、いつものことだから」
「あとこれのねー」そう言って彼女はその場に生えている、アロエのような多肉植物を折り、そこから出てくるドロっとした液体を傷口に塗る。
「こうしとけば、すぐ直るから大丈夫だよ。」笑顔で言いながら、慣れた手つきで体の様々な傷を処置する彼女の顔を見て、恐怖を感じる。
常識が違う。この子はこの世界に生きているんだ。日本いや、地球から違った世界に来たとは思っていたが、体がラップになっていることよりもゴブリンを見た時よりも、この子の常識に触れた時に一番世界の違いを感じた。
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