第3話 ラップとゴブリン

 その時だった。

 後ろの方から、ダダダダッと何かが走る音が近づいている。体を動かせないので、その振動を感じるしかない。怖くなって慌てて出していたラップを仕舞う。ダダダダッと走る音がすぐそこまで聞こえる。よく聞くと複数人の集団の足音だと分かる。見えない何かが近づいてくる恐怖が増幅してくる。


「うわっ」

 パンッっと言う音とともに体が宙に舞う。蹴られた?視点が一回転し、近づいて来た足音の正体が見える。黒髪の少女とその後ろには数体の緑の小人?黒髪の少女は湖を背にそれと対峙するように剣を構える。対峙する2者の間に着地する形になった俺は両者をじっくり見る。

 緑色の肌。小さな体。それに不相応な大きな頭と特徴的な耳。その手には木の棒や石が携えられている。数えて3体いるそれは、まぎれもなくファンタジー作品で見るゴブリンそのものだった。


 ゴブリンたちに対峙する少女はそのゴブリンから逃げ、湖を背に逃げ場がない状況のようだった。体には様々な外傷が見え、服も原型をとどめていないほどにボロボロだ。剣を構えてはいるが、その姿は彼女の絶望を感じさせるようなものだった。

 待ちに待った来訪者ではあったが、こんな修羅場とは思わなかった。どちらも俺に気づいている様子はない。


「何なんだこれは」

 フィクションでしか見たこともない光景に呆気に取られる。実際に剣を持っている少女も見たことないし、そんなことよりゴブリンだ。状況、そしてその姿が俺に緊迫感と非現実感を与える。

 すると、ゴブリンの1体が少女に木の棒で襲いかかる。彼女はその木の棒を剣で振り払い、襲ってきたゴブリンにその剣を振り下ろす。


「危ない!」

 反射的に体が動いた。俺から出たラップで彼女に石を投げようとするゴブリンの足をひっかける。


「えっ」彼女の驚く声が聞こえる。

 思いがけず、手を出してしまった。こうなったら彼女を救おうと、転んだゴブリンをラップで巻き、無力化する。ラップでくるまれた仲間の姿を見て、俺の存在に気づいたゴブリンたちはラップをたどって俺の方に近づいてくる。


 標的にされ、驚いた俺はとらえたゴブリンを投げ飛ばし攻撃しようとする。しかし、体重差によって俺の体の方が吹き飛んでしまう。

「うわー!」

 俺の体が宙に舞い、近づいてくるゴブリンの頭にぶつかった。当たったゴブリンは当たりどころが悪かったのか、倒れている。

 着地し、少女と相対するような形になった。彼女は剣を下ろし、怪訝な表情で不思議そうに俺を見つめている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る