第一章

第2話

ちまりside



灰崎ちまり、それが私の名前だ。



名字は灰崎養護施設の灰崎からもらった。


名前は園長先生が。


全身赤くて自分の身を守るように丸まっていた私を初めて見て



『小さな鞠みたいだった』らしく……



小さいの“ち”に、鞠で



“ちまり”



と。



変わった名前で私は気に入っている。


園長先生には感謝だ。



そして、生きれていることにも。


公園にぞんざいに捨てられていたことから、母親が私を要らなかったのは確かで。


それは今もとても悲しいけれど……。



堕ろさないでいてくれた。


公園という多くの人が立ち寄りそうな場所に捨ててくれた。



もしかしたら拾ってもらえることを期待してのことかも……


生きていてほしいと思ってくれたのかも……



なんて思うのはいくらなんでもプラス思考すぎか。



養護施設は18歳になったら


もう自分の力で生きていけると見倣され出ていくことになっている。



けれど私は、職員扱いとして残れることになった。



施設や先生達のお手伝い、下の子達の面倒を見るのを仕事として。



『第一は大学を優先に』と皆は言ってくれる。



でもそれに甘える訳にはいかない。



私は役に立つために人より倍は頑張らないと。




「ちまりー、いってきまーすっ」



「いってきまーすっ」



「……す」



「気をつけてね!!いってらっしゃい!!」




小学生組、中学生組を見送る。



高校生組はもう少し遅いからテレビを見たり、自室で寛いだり。



さてさて、私もそろそろ行かないとな。




「ちまり、もう行くの?」



「うん、今日はバイトも入ってるから」



「本当にあなたは頑張り屋さんね」




そう言って、頭を撫でられる。



この人は甲斐弓恵さん。



園長の姪御さんで養護施設のスタッフさんだ。



私にとって、母のような姉のような存在。




「じゃあ、いってきます」



「気をつけて」



「あの子達……」



「大丈夫よ。蹴飛ばしてでも学校に行かせるから」




高校生組の心配をすると、そう笑って言う弓恵さんに見送られて私は大学へ向かった。

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