ヒイラギ

 聖女がかどわかされたという報せがあった。

 聖騎士は力強く、股間のたぎりのままに歩みを進めた。

 

 聖女の首の皮膚を思うと、腹の奥からじわりと快感が染み出てくる。

 薄い皮膚だった。儀式の日に絞めた首は両手にきれいに収まって、それはつまり、そうしてくれと聖女の身体が言外に訴えているのだと思えた。

 鬱血した小ぶりな顔。食いしばった白い歯。喉を押されて声が出せない苦悶の表情。頬を打ってやったら垣間見えた、怯え。

 聖女の衣を剥ぎ取り、その下の、ただの娘の部分を物理的に露わにしてやった時、嗜虐欲と征服欲が満たされ、溢れ出るのを感じた。

 聖騎士は街道を外れ、木立の影に入り込んだ。

 一物イチモツをしごかずにはいられない。


 つい最近まで小作人として畑を耕していた男で、三十二歳になる。

 生来の残虐な嗜好を隠す頭は無かった。それゆえに村八分となり、童貞であった。

 頑強な体を持ち、かつ童貞であったために聖騎士候補として選ばれ、食事と給金と、それから聖女を抱けるというので応じた。

 今、その聖女を見つけて連れ戻せと命を受けている。

 儀式を受けたのはつい先日のことだった。そう遠くにはいっていないように思う。街道の周りを探していればそのうち見つかるだろうと思った。

 もし見つけたら、とりあえず生きて館に送り届ければ、他の事は気にしなくて良いはずだ。儀式の時の怯えた様子や、その後なんのお咎めもなかった事を考えるに、今回もちょっと脅せば大丈夫だろう。

 であれば送り届けるまえに、こんどは木にくくりつけるのはどうだろう。幹を抱きかかえるような姿勢で両手を縛り合わせ、後ろから責めながら小指を折ったら。

 それか、もらったばかりの剣を喉元に添えたまま、自ら腰を振るよう強要したら。その間にあの肌に一本の筋を引いてやったら、どんな声が聞けるだろう。

 儀式のときは初めてで戸惑いもあったが、次はもっとうまくやれる。今度は聖女の衣を心理的にも剥ぎ取って、ただの娘に過ぎないのだと思い知らせることができたなら。

 泣き声をあげさせたい。弱々しく震えてくれるとなお良い。怯えた顔に涙を浮かばせたい。その涙を舐め取ってやりたい。そのまま奥へと一物を押し込んでやって、それを何度か繰り返して――。

 聖騎士は絶頂した。

 日陰の雪を精で濁らせ、男は熱い鼻息を吹いた。

 その濁った雪の上に、足跡があるのに気が付いた。足跡は木立の間を奥へ入っていく。

 一物をしまいながら観察すると、その足跡の周りが妙にと感じた。枯れ枝や落ち葉の類が少ない。薪拾いをした跡に似ていた。

 近隣の集落からはだいぶ離れている。こんなところまで薪拾いにくるなど、よほど頭が悪いのだろうか。

 訝しんでいると「そこのお前、何をしている!」と声が飛んできた。慌てて振り返ると、馬に乗った聖騎士がいた。

 白地にヒイラギをかたどった紋章が上着サーコートに大きく刺繍されている。男と同じ上着だった。

「貴様も聖騎士か?」

 と問われ、男は頷いて「足跡があるんでさ」と伝えた。

 伝えてしまってから、聖女を独り占めするためにはこの騎士は邪魔になるんじゃなかろうか、と後悔した。

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