第5話 白い少女
◆白い少女
「それ、何なの?」
少女は俺が手にしていた携帯を指した。少女の腕は抜けるように白かった。全く日焼けをしていない。この夏、ずっと屋内で暮らしているのか?
俺は「普通の携帯だ」と応え、
「携帯とか、まだ持っていないのか?」と訊いた。
年齢的にまだ持っていないのかもしれない。だが、少なくとも見たことはあるだろう。
「だって、そんなの見るの、初めてだわ。何かのお守りなの?」
お守り?
「これは電話の代わりだ」と携帯電話について簡単に説明すると、少女は「ふーん」と無関心を装うような声で、
「お電話なら、お家にあるし、人とお話しするのは、お手紙が一番よ」と言った。
少女は上品な口調で、携帯の一切を否定した後、
「私、お手紙を書くのが上手なのよ。母も褒めてくれるわ」と言った。
ああ、この少女は、かなり上流階級のお嬢さんなのだろう。現代の通信機器とは無縁の世界にいる。そう判断した。
俺は、少女に話を合わせ、
「そんな手紙なら、俺も見てみたいな」と言った。すると、
「見てみたい、じゃなくて、読んでみたいでしょ」と俺の言葉を修正した。
その言葉に、教育もしっかり施されているのが分かる。
少なくとも俺の子供の頃とは全く違う。
「まるで、どこかの国の王女様みたいだな」俺が茶化すように言うと、
「ええ、そうよ。王女とは呼ばないけれど、そうみたいなものね」と微笑んだ。
笑顔が可愛らしかった。透き通るような笑顔だった。
王女様と言った冗談が、本当になったかのようだった。
少女は世間も知らず、ずっと豪邸の中に・・
もしかすると、少女は、このヘルマン邸のような屋敷に住んでいるのかもしれない。西洋の少女のような風貌に、上品な言葉づかい。そうであったとしてもおかしくはない。
だが、そんな少女がどうしてここにいるのだ?
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