10
その頃、教室の外では尊と純花が廊下を行き交う人々の視線を一身に浴びながら、ぎこちなく向き合っていた。
先に口を開いたのは純花の方で、尊の脳味噌は未だに事態を把握できずにいた。
「ゴメンね、急に声を掛けて…もうすぐ授業が始まるのに…。」
その申し訳なさそうな表情と可憐な声音に、尊がブンブンと激しく首を横に振る。
「志藤君、この間、電話番号を書いた紙を渡してくれたでしょ?驚いたけど、あれ以来、志藤君のことが気になっちゃって…。」
「………。」
その時、尊はようやく理解した。
ここが夢の世界だということに。
そうか、それなら昨日から自分の周りで立て続けに発生している異常現象にも説明がつく。
純花はもじもじしながら言葉を続けた。
「そ、それでね、志藤君が良ければなんだけど…今日、学校が終わった後、どこか遊びに行かない?」
しかし、例えここが夢の中だとしても、志藤尊が女子への耐性皆無のチェリーボーイであることに変わりはなく。
尊は激しい動悸に見舞われながら、何とか言葉を絞り出した。
「ももも、もちろん!そそそ、そうだ、俺の友達も一緒に…。」
「出来たら、志藤君と2人がいいな。」
「!!!!」
純花の恥じらいの表情に、尊は昇天しそうになりー…次の瞬間、教室の中から下品な馬鹿笑いが聞こえてきて、尊の意識は一気に現実へと引き戻された。
すぐに振り返って、ドアの隙間から騒音の元凶を確認する。
教室の中では、壱が腹を抱えて笑い転げていた。
…嫌な予感がする。
尊の表情が一転して険しくなったのを見て、純花が不安そうに言った。
「あ…もしかして、今日は都合が悪かったかな?」
「いや、大丈夫。じゃあ、授業が終わったら中庭のベンチで待ち合わせにしようか。」
教室内の不吉な光景のおかげで我に返り、自分でも驚くほど冷静な声が出た。
純花の表情がパッと華やぐ。
「ありがとう。…私のことは純花でいいよ。私も尊君って呼んでもいいかな?」
「う、うん、もちろん。」
「じゃあ、また後でね。」
純花はそう言って微笑むと、甘い余韻を残して去っていった。
まるで、恋愛ドラマのワンシーンのような一時だった。
…背後から今なお聞こえてくる、不快な笑い声がBGMでさえなければ。
尊は純花の背中が小さくなるまで見送ると、ありったけの殺意を込めて、憎たらしい笑い声の発生源を睨みつけた。
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