第2話 徒人の思うまま

「この星恵せいえんは善か悪か」

一対の赤色のリボンで結んだ薄い藤色の髪をなびかせ、少し幼げのある

少女は笑った。

歳はレイラ以上か、レイラと同じくらいだろう。

「どっちだと思う?新しい【霊瓏れいろう】は。」

そして、嘲笑あざわらうように薄く微笑む彼女を、味方するように、風がふわりと少女を撫でる。

「___ヒントをあげる。」

そして、ニヤリと笑い。

「その星恵せいえんは感情によって増幅つよくなる」

「いつか使ってみるといい」

あぐら座りの体制から立ち上がり。

窓際に座る銀を帯びた淡い空色の髪をした少女を指差し。

「レイラ・オーガスティン」

________________________________


視界にチラつく自分の髪を時々手ではらいながら、レイラは、集中して授業を受ける。

丁度今は星恵せいえんの話だ。

初代星王しょだいせいおうドリーム・ウォント様の写真はテキストの21ページにあり__…」

先生のいうとおりに、テキストという名の紙の塊をペラペラとめくる。

すると。

レイラの視界に印象を残したのは、ある一枚の写真だった。

藤色の髪にコバルトブルーの瞳をした、不思議な雰囲気の男性だった。

____これが星王せいおう

「現在、ムスト・ウォント様が星王せいおうに位置しており、また___……」

次のページをめくろうとした瞬間。


ゴーン    ゴーン


いつもと違う、不思議な音。

綺麗な鈴のではない、大きく恐ろしい鐘のおと

恐怖をふつふつとわきだたせる怖麗ふれいな音が、教室に響き渡る。

すると。

ごうっ、と。

風が吼える。

目も開けられないほどの突風が教室に流れてくる。

一瞬のうちに、レイラは目を開けた。

すると、そこにはピンクのオーラが漂った神風かみかぜが吹き荒れていた。

「……やぁ、皆々さん。こんにちは。」

天使のような片翼。

悪魔のような片翼。

そのどちらもを持った少女。

白髪にも見えるその髪には、青のグラデーションがかかっていた。

「お二人様をお迎えにあがりました」

________________________________

僕の一族にはある使命がある。

その一つに、『子命神しめいしん封神ふうしんする』というものがある。

よくわからないし、誰だろうって思う。

でも僕は、その使命おきてを一度だけ破ってしまったことがある。

その時に、僕の目の前に現れたのは、黒い髪に青のインナーカラーをつけ、鮮血せんけつのような赤い目をした少年だった。

たぶん、今の僕ぐらいだと思う。

僕はそんな物思いにふけっていた。

また会いたいな、とかそんなこと。

僕は身につけている大事な鈴をチリンと鳴らしてみた。

そしたら、なんとなく、レイラさんを見てしまった。

したら。


ゴーン    ゴーン


怖い音が鳴り響いた。

怖い、怖い怖い音。

なのに、この声だけははっきりと聞こえた。

すっきりと、芯の通った声。なのに、優しい温かさを感じる声。

そんな声が。

耳元で囁かれた。

「__大丈夫だよ。僕が、君の鈴を通して絶対に守ってあげるから。」

そしてまぶたを開ける。

すると、僕の大事な鈴が青色の光をほうっていた。

「ノエル君?!」

レイラさんの慌てる声が聞こえる。

前を見ると、白い髪に、青色のグラデーションをした、翼を生やした女性が立っていた。

「ノエル・アリアリウムくん…いや、##ノエルくん。そして##レイラさん……あぁ、懐かしい。もう何千年前何でしょう……」

突風に目の前を覆われ、目を開けることができない。

「っ…目が開け…なッ…」


____静寂しじま神風かみかぜ


少女と思われる人外は、白い翼を動かしたと思うと、突風が逆巻いていた教室が鎮まった。

僕は、怒涛どとうの出来事に、驚きを隠せないまま、立ち尽くしていた。

「【いばら】の星恵せいえんよ、こたえろ」


____いばら 薔薇のばらは朧気に


視界の端に、深緑色の薔薇の茎が映る。

__同じく深緑色の棘が。

「……ッ、サリアン先生?!」

サリアン・ガーリアル。

いばら】の星恵せいえんを持った、女性教師。

星恵せいえんを体に宿しているものには、その証として、

星図せいず』が浮き出る。

レイラさんは、右手の甲に。

僕は、首に。

サリアン先生は、耳に。

もちろん、形も場所と同じようにバラバラだ。

レイラさんには、星が。

僕には、音符と五線譜が。

サリアン先生には、薔薇が。

サリアン先生が、星恵せいえんを発動するたび、星図がチカチカと点滅する。


____悪 しんに座位する者


闇が溢れた。

限界まで注がれたバケツがひっくり返されたように。

「【守】の星恵せいえんよ!防げ!」

おそらく生徒だろう。

そう思えるのは、声に幼げがあるからだ。

僕たちの目の前にバリアが張られたと思うと。

__パリンッ、と綺麗な音を立てて割れた。

「なッ……?!」

そして、人外がわらった。

「あはは、怖がっちゃぁ嫌ですよ?まだまだ楽しみましょ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星の導く絶対霊域には 夢時間 @nekokurage0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る