融合①

            ◇


 2回目の対戦が終わった。


 『YOU WIN!』


 スクリーンに表示される。


 勝った。


 倒した。


 俺は死の際から逃れたようで、ほっとする。


 シェイプシフターは確実にさっきのより強かったが、まだ余裕が持てる範疇ではある。


 しかし、この感じで負けた人のカードを奪って強くなるなら、やがて手に負えなくなるかもしれない。


 シェイプシフターは、さっきみたく崩れ落ちて、女性の骨だけが地面に残った。


 バトルフィールドも消える。


 金髪の女は、まったく知らない人だが、せめて仇を取ったとは思いたい。


 俺は、その辺を見渡して、目に入った何かの幕だったらしき布を被せた。


 こんなボロ切れで申し訳ないが、この世界ではこれぐらいしかなさそうだ。


 手前に、女性のキャリーバッグが落ちている。


 そこで、自分のキャリーバッグの缶詰が足りるのか疑問に思った。


 10日もちそうにない気がする。


「おい、テケリリ。食料は補充されるのか?」


「シナイ。欲シケレバ、死ンダ奴ノヲ、モッテケ」


 俺は、ため息をついた。


 そうするしかないか。


 俺は、女の骨に手を合わせた。


 女のキャリーバッグの缶とペットボトルを俺の方にで移し替える。


 そして、チャックを閉めた。


 バッグは丈夫なのか、バトルフィールドの膜にドカドカぶつけたのに、何ともなってない。


 彼女の成り行きは、俺が危惧したシナリオそのままだった。


 普通はレアリティの高いカード、パラメーターの高いカード、高い威力のスキルを選ぶだろう。


 俺だって最初はそうだった。


 しかも、編成中でのカードの試用期間が、それに拍車をかけている。


 試用期間で単発でスキルを使って、目先の威力で判断したら余計そうなる。


 バイオリズムでスキルの威力はまったく変わるのだが、1回しか試せないので、知りようがない。


 俺の捨てたSSRも、あの試用期間で使ったら、一番強いと勘違いする。


 どれもが、ミスリードを誘うものだった。


「ひでえことしやがる」


 初心者が敗北を回避するには、ルール説明を読み込むしかなさそうだ。


 俺は、新しく増えたカードを確認する。


 倒した敵は金髪の女性のものを含めて、30枚カードを持っていたので、その数が増える。


 SSRが4枚ある。


 特筆すべきはそのうちの2枚。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 『風神』

 『SSR』

 『神』


 攻撃力 50285

 防御力 49635

 魔法力 62074

 精神  46097


 戦術スキル

 光属性『豪風』

 ★★★

 ×5


 儀式スキル

 光属性『風袋』

 1ターン後に魔法パラメーターアップ★★★★

 ×3


 特性  

 儀式スキル効果★★★★

――――――――――――――――――――――

 『雷神』

 『SSR』

 『神』


 攻撃力 53642

 防御力 45853

 魔法力 64832

 精神  47432


戦術スキル

『雷撃』

 ★★★

 ×5


 儀式スキル

『雷太鼓』

1ターン後に魔法パラメーターアップ★★★★

 ×3


 特性 

 儀式スキル効果★★★★


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 対戦前、敵が『風神』『雷神』を持っているのを見て、俺は冷や汗をかいた。


 この2枚はいい。


 特性が2枚とも、属性と種の制限を受けない。


 抜群の使い勝手だ。


 振り返ると、この『風神』、『雷神』は、一度新カードで出た後、中々ガチャの選定にされなかった。


 良カードはそういうふうになる傾向がある。


 それでも、絶対的に使えるわけではない。


 今は2枚組み合わせてデッキに入れられるが、この先、さらにデッキの強化が進めば、どちらかは外すことになる。


 光と闇で属性が違うのがその要因だ。


 使い勝手のいい、『風神』『雷神』に比べて、逆に、他のSRは、偏っていて組み合わせられないものが多い。


 これらを無理やり組むくらいなら、いっそのことRを使った方がいいかもしれない。


 なのに、Rは一枚もなかった。


 そこが、シェイプシフターが俺に負けた分岐点だろう。


 この2枚は、初期に手に入れるには上等のカードと言える。


 編成のタブからメイン画面に戻ると、新しい項目があった。


『カード交換』とある。


「テケリリ、このカード交換って、他のプレイヤーと交換できるのか?」


「ソウダ。全テノ、プレイヤーデ、交換デキル。オ前のカードガ、十五枚ヲ越エタカラ、解放サレタ」


 誰かと組めれば、互いにデッキを向上させられるかもしれない。


 だが、それは……


「おい、それもまさか、シェイプシフターも出来るのか?」


「シェイプシフターハ、シナイ」


「そうか」


 俺は、安堵する。


 しかし……それはすぐに解かれた。


「シェイプシフターハ、融合スルカラ、交換スル必要ガナイ」


「は?

 何だ、その融合ってのは?」


「勝ッタシェイプシフターガ、他ノシェイプシフタート、融合スル。1ツニマトマッテ、モット強イ、デッキ二、スル」


「何だよ、それ」


 それを聞いて、俺は愕然とした。


 つまりそれって、一人犠牲になれば、そのカードが取られて、さらにどこかのシェイプシフターと融合して、より編成が強化されることになる。


 交換よりまずい。


 カードを30枚持った敵2体より、60枚持った敵一体と戦う方が危険だ。


 その上、強制的に戦わさせられる。


 なんてことだ!


 ほっとけば、すごい早さで敵は強くなる。


 さっきの金髪の女性みたいな犠牲者はもっと増えて、やがて俺も……


 確か、もう1体、敵と予約できる奴がいたはずだ。


「おい、テケリリ。対戦できるやつがもう1体いただろう?」


「イナイ」


「何でだ?どこかに行ったのか?」


「違ウ。今、融合シテルカラ、シェイプシフターハ、別ノモノ二ナル。終ワッタラ予約デキル」


「最悪だ……」


 さっそく融合とやらが起こっている。


「チナミニ、シェイプシフターノ、近ク二誰カイルカラ、バトルフィールドガ、閉ジレバ、自動的二ソイツト対戦スル」


 さっきの女の人と同じ状況になる寸前ということか。


「バトルフィールドガ、閉ジルノガ先カ、予約ガ先カ、微妙。確実二、先二、戦イタイナラ、融合ガ、終ワル前二、シェイプシフターノ、トコロ二、直接行ケ」


 考えてる暇はない。


 手遅れになる前に急ぐか。


「融合するまで、いくらかかる?」


「ダイタイ、20分ダ」


 まだ間に合うかもしれない。


「おい、テケリリ、俺との対戦を予約して、そこに連れてけ」 


「分カッタ」


 テケリリが動き出す。


 俺は、走り出した。

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