シェイプシフター②

 5メートルくらいの間を空けて、敵はいる。


 テケリリが声を出した。


「30枚カラ、15枚エラベ」


 テケリリは目の1つから光線を出してスクリーンが浮び、カードが30枚映し出される。


 横にずらっとカードが並ぶ。


 パッと見て、全て見おぼえのあるカードだった。


「対戦の直前ってのは、おかしくないか?予め配っておけばいいだろ?」


 今さらどうにもならないが、俺はテケリリに文句を言う。


「ソノ条件ハ、シェイプシフターモ、変ワラナイカラ、フェア。実力デ、勝テ」


 こんな理不尽なゲームで、何がフェアだ。


「10分ヤルカラ、ジックリ選ベ」


 ふざけるなよ。


 俺の感覚で、10分はデッキ編成するには、じっくりという時間ではない。


 編成は、もっと時間をかけて、期待を込めて楽しんでやるものだったはずだ。


「テケリリ、選ぶ時間が10分ってことか?」


「ソウダ。ソノアト10分、考エル時間ヲ、ヤル」


 戦略を練る時間は与えられたが、たったの十分か。


 悩んでいる時間はないので、どのカードを使うか、右から見ていく。


 1枚目

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 『ジェラルダイン』

 『SR』

 『霊』 


 攻撃力 23880

 防御力 16639

 魔法力 32997

 精神  27552


 戦術スキル

 闇属性魔法『エナジードレイン』

 ★★★

 ×5回


 儀式スキル

 『言葉による支配』

 闇属性

 4ターン後、霊種パラメーターアップ★★★

 ×3回


 特性 

 AP軽減 ★★★

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 カードには、黒いローブを着た魔女のようなイラストが描かれている。


 ソウルマスターは、召喚士のアバターが、神とか、精霊とか、悪魔とか霊的なものを呼び出して使役する設定のゲームだ。


 もっとも、継続するうちに、いろいろなものを混ぜ合わさって、カオスな世界観に変わっていったのだが。


 カードの各項目を見ていく。


『レアリティ』


 高いレアリティでも、ダメなものはダメだし、低いものでもいいものはいい。


 最低のN、その上のRに関しては、デッキはすぐにSRで埋まるから、よほどの初期でないなら、まず候補にならない。


 ただ、今がそのよほどの初期なのだが。 


『属性』


 属性はよくある火とか氷とか、水と雷ではなくて、シンプルに2つしかない。


 『光』と『闇』


 カードそのものではなく、スキルに割り振られている。


 このゲームに弱点属性とか有利な属性とかはない。


 属性はソウルマスターの独特のシステム、バイオリズムと関係がある。


 次に、『種』の項目。


 ここは、3つ、『神』、『霊』、『魔』


 種が、カードの『特性』の発動のトリガーになるものが多い。

 


『パラメーター』 


 パラメーターは一見大事な要素に思えるが、はっきり言って無視する。


 レアリティで一段ほど上下はするが、スキルの方が遥かに重要だ。


 それに、パラメーターは、ゲーム初期からさほど手を加えられなかったから、どのカードでもそれほど差異はない。


 さすがにレベル1の初期値ならまずいだろうが、テケリリの言う通りレベルマックスなら誤差の範疇だ。


 重課金者が、高レアリティを積んで、よくアホみたいに高いパラメーターを表示させていることがあったが、別に俺は半分以下のパラメーターでも余裕で勝っていた。


 もっとも、バランスがおかしくなる前のことだが。


 俺にとってパラメーターは飾りでしかない。


 編成がピーキーになってくれば、影響が出てくるようになってくるが、まだ全然そんな段階じゃない。


 さらにその次。


『戦術』スキル

 闇属性魔法『エナジードレイン』

 ★★★


 ここで、攻撃力が決定する。


 カードごとにスキル名がつけられている。


 攻撃スキルに反映されるパラメーターは、15枚全てのパラメーターが加算された、総パラメーターで計算される。


 攻撃は攻撃パラメーターを使い、魔法は魔法パラメーターを使う。


 ★の数は威力を表す。


 だが、これも無視。


 普通のゲームなら、強い攻撃スキルが決定打となりそうだが、このゲームは違う。


 確かに条件が同じなら、強いスキルの方がダメージが出せる。


 しかし、儀式スキルと特性でいくらでもダメージ値が変わるから優先順位が低くなる。


 50が100になっても200にな っても、別にいい。


 カード編成が進んでくれば、気を使わなければならなくなるが、それは特性と儀式が揃ってからだ。


 後回しにする。


 俺は儀式スキルと特性スキルを凝視する。


 勝敗はこの2つで決まると言っていい。



 儀式スキル

 『言葉による支配』

 闇属性

 4ターン後、霊種パラメーターアップ★★★



 特性 

 AP軽減 ★★★


 

 一見して何のことを言っているか分からないと思うので、ここについては説明は今は省かせてもらう。

 

 だが、俺の判断としては、これはかなりいい。


 この『ジェラルダイン』は使える良カードだ。


 1枚目にしてはいいのが出てきた。


 編成の候補にする。


「試シニ、使エルゾ」


 テケリリが言い、スクリーンの下にある、トレーニングのタブがチカチカ光った。

 俺は、試しにそのタブをタッチした。


 俺と敵の召喚士のアバターが、向き合う。


 かつて俺がやっていた時の画面表示だ。


 ひょっとして、今いる世界は、ゲームの世界観を元にしているのか。


 カオス状態になっていたソウルマスターの世界観は、なぜか荒廃した世界が舞台になることもあった。


 タブの表示は主に4つ。


『戦術』

『儀式』

『戦術スキル』

『儀式スキル』

『回復アイテム』


『戦術』と『儀式』は、ノーマルの攻撃だ。


 威力は低いが、制限回数なく使うことができる。


『戦術スキル』と『儀式スキル』は、カードに組まれているスキルになる。


『回復アイテム』は、「AP」を回復するポーションが、1回の対戦で固定で5つ使えるとさっきテケリリから聞いた。


 下側の表示を見る。


『AP 100/100』


 行動回数を決める数値。


 全てのスキルはこれを消費して使う。


『戦術』『儀式』は固定で10AP。


 スキルでの消費量はカードごとに設定される。


 消費して回復アイテムのポーションを買わせるシステムだったが、今は補充できないので別にいい。


『累計ダメージ』

YOU『0PT』 vs ENEMY 『0PT』


 呼んで字のごとく。


 そして、左上。


 青い円形の丸に、棒グラフみたいなのがある。


 黒い棒に、白い棒が重なる。


『バイオリズム時計』


 このゲームの特徴的なシステム。


 スキルの効果に影響する。


 ゲームは30分に30ターンあり、1分で1ターン経過する。


 その度に棒グラフが右から左に1つずつずれる。



 俺のスクリーンに映っているものは、だいたいそれくらいだ。


「スキルヲ1回、試セル」


 たったの1回か。


 一番知りたいのはスキルとバイオリズムとの相関なのに、これでは試せない。


 この試用期間はこれでは意味がない。


 俺は、画面を閉じた。


 カードを選ぶ作業に戻る。


 2枚目

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『コッペリア』

『SR』

『霊』


 攻撃力 36697

 防御力 16979

 魔法力 26065

 精神  41760


 戦術スキル

 光属性攻撃『舞踏』

 ★★★

 ×5


 儀式スキル

 光属性魔法「からくり人形』

 ★★★

 ×5


 特性

 毎ターン精神パラメーターアップ★★★★

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 バレエダンサーのような格好の女の子のイラストがある。


 『コッペリア』か。


 懐かしいカードが出てきた。


 第2回スキルランキングの限定報酬だ。


 上位50人にだけ配られ、1位だった俺は、報酬の最大の5枚を持っている。


 だが除外。


 スキルが微妙だったので、一度もデッキに入れたことはない。


 このゲームにはイベント報酬が、次のイベントでの特攻効果とか、有利になる要素はない。


 手に入れてから、ずっと倉庫に入れていた。 


 コレクション用のカードだ。


 こんなものまであるのか。



 3枚目 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 『使い魔』

 『R』

 『魔』


 攻撃力 12797

 防御力 16979

 魔法力 14570

 精神  12789


 戦術スキル

 闇属性攻撃『弱パンチ』

 ★★

 ×5


 儀式スキル

 闇属性『契約』

 5ターン後、魔種のバイオリズム被効果★★

 ×3


 特性

 闇属性のスキル効果★★

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 デフォルメされた、1つ目で翼のある、悪魔のカード。


 微妙。 


 使い方と編成による。


 SRに比べてどうしても見劣りする。


 保留。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『ホルス神』

『SSR』

『神』


 攻撃力 57993

 防御力 39554

 魔法力 59643

 精神  34553


 戦術スキル

 光属性『太陽と月』

 ★★★★★

 ×2


 儀式スキル

 光属性『ウィジャト眼』使用したターンの間、自身の攻撃パラメーターアップ★★★★



 特性 

 攻撃パラメーターアップ★★★★★

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ここで始めてSSRが出てきた。


 しかし、外れカードだ。


 さすがにパラメーターはSRより高いし、儀式スキルはいいのだが、特性が使い続けられるものじゃない。


 先を見すえれば、すぐ使いものにならなくなる。


 使い勝手はさっきのR以下だ。


 除外。

 

 同じように、残りのカードも見ていった。


           ◇


 そうして、俺は30枚全てのカードを見終えた。


 使うカードをタッチして、編成していく。


 このゲームに、編成の順番とか位置は関係ない。


 結局、SSRは3枚あったが、使えなかったので全て外した。


 現状、最高レアリティのURは、1枚もない。


 SRとRのデッキを編成する。


 結局、さっきのRの『使い魔』も、手札が少なすぎてデッキに入れた。


 

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