シェイプシフター①



 ルール説明を読み終えた後も、俺はしばらくその場にとどまって、テケリリに目からスクリーンを出させ続けた。


 ルール説明にレアリティが載っている。

 

 UR SSR SR R N


 

 5つある。


 ゲームバランスを壊したⅩR以降のレアリティはなかった。


 ルール説明にカード図鑑のタブがあったので、それを開く。


 だいたいカードは1000種ほどある。


 現役のときは、ほぼスキルは覚えていたはずだが、かなりたって忘れている。


 ざっと見て、記憶の糸を辿る。


 図鑑で確認すると、やはり、レアリティは5つだ。


「XRってレアリティがソウルマスターにあったが、ここではないのか?」


「持ッテイルダケデ、勝テルカードハ、要ラナイ。デナイト、フェア二、ナラナイ」

 これは、助かったと思った。


 UR以下のカードなら、戦い方に融通が聞くから一方的に決着になることはない。


 後期の廃課金カードは、例え、こっちが持っていたところで、それ以上のカードとどこがで当たればそこでおしまいだ。


 俺はトップ画面に戻って、編成を始めようとした。


 カードの編成が、もっとも大事な要素になる。


 しかし、編成に空きがあるだけで、何のカードも入れられない。


 編成画面の下に、倉庫のタブがある。


 編成されていないカードはそこに入る仕様だったはず。


 倉庫をタップするが、1枚もカードがない。


「カードがないぞ。どうやって手に入れるんだ?」


「最初ノ対戦ノ前二、オ前タチ二、30枚ノ、カードヲ、見セル。ソノ中カラ、15枚選ベ。残リハ、捨テル」


 ソウルマスターの編成は、俺がやっていた時でも15枚、これはそのままだ。


「カードを選べって、好きに選べるってことか?」


「ソウダ」


「それじゃ、最初の30枚は運次第じゃないか」


「最初ハ、シェイプシフタート、似タヨウナ、カードヲ割リ振ル。ダカラ、フェア」


 それが本当なら、そのカードの取捨選択も含めて実力次第か。


 これは俺としては希望が持てるところだ。


 他の人は分からないが。


「カードはずっと同じままなのか」


「カードハ、倒シタ相手ノモノガ、追加サレル」


 つまり、実力でカードを手に入れろということか。


 自力で選んで、勝ち取る方式で、ガチャ要素はほぼなくなっている。


 加えて、初戦に割り振るカードを、プレイヤーと敵で、同じにしない理由はここで分かる。


 編成では同じスキルは重複しない


 どんな強いカードでも、同じのを2つ以上組むのは全くのムダだ。


 勝利後の編成に幅を利かせるのに、同じカードは使わないのだろう。


 1戦目の後、編成に幅を利かせる意図だと勘ぐる。


 1戦目の後……


 そこで、俺はハッとした。


「じゃあ、シェイプシフターが他の人を倒したら、そのカードが取られるってことか?」


「ソウダ」


 なんてことだ。


 ほっとくとシェイプシフターはどんどん強くなっていくかもしれない。


 最初はまぐれ当たりで勝っても、日が経つごとに実力で勝たなければならなくなる。


 なら、先制した方がこのゲームは優位になる。


 逆に、後手に回れば相当不利になる……


 どのみち、1日の最後に強制的に対戦させられる。


 それまでに敵が、他の人のカードで強化されていたらまずい。


 逆に、その前に敵を倒せれば、カードは強化されずに被害は減るはずだ。


「シェイプシフターは、どこで、どういうふうに現れるんだ?」


「シェイプシフターハ、オ前タチヲ探シテ、動キ回ッテイル」


「逆に、こっちから近づくことは出来るのか?」


「500メートル以内二、イレバ、対戦ヲ、予約、デキル。逆二、逃ルツモリナラ、絶対二、教エナイ」


 これは生き残れるチャンスだ。


 その予約とやらをやった方がいい。


 相手は、どれほどの強さかも分からない。


 だが、出遅れた場合、手遅れになる。


 まだ、始まったばかりだから敵は弱いかもしれない。


 一か八かだ。


 戦いに行こう。


 俺は、戦う前に他の最低限のことを聞いておく。 


「カードの育成はどうなってる?」


「育成ハ、レベルモ、限界突破モ、全テマックスニナッテイル。オマエタチト、シェイプシフターハ、フェア」


 ということは、育成要素は完全になくなっている。


「回復のポーションは?」


「全テノ対戦ハ、5個デ、固定。フェア」


 ゲームはポーションを買わせて、行動する仕様だったが、これも消えている。 



 俺は続けて、覚えている限りのことをテケリリから聞いた。


 ソウルマスターには称号とか、もっと対戦に影響する、いろいろな要素があったが、横並びになっているようだ。


 テケリリはやたら、フェアという言葉を出す。


 こんな理不尽な状況で、フェアもクソもないだろうに。


 聞くべきことは聞いたと思う。


 俺は意を決した。


「テケリリ、この近くで1番近いやつとの対戦を予約出来るか?」


 言ってしまった。


「分カッタ」


 もう後戻りできない。


 返事を聞いて、俺は冷や汗が出てきて、緊張で喉がつまり唾を飲み込んだ。


「今、一番近イ、シェイプシフター、呼ビ出シタ」


 俺は、なるべく気を落ち着かせるように深呼吸して、この場にとどまった。


           ◇


 数分すると、廃ビルの陰から、変なものがこっちに向かってくる。


 緑色で半透明の、ナメクジ状のゼリーの大きな塊みたいなのが、地面の上でうねっていた。


 両手で抱えるような大きさがある。


 テケリリとは違う。


 ゼリーの塊は俺の数歩先で止まった。


「あれがシェイプシフターか?」


「ソウダ」


 このゼリーみたいなのが俺の相手か。 


 ブンッ 


 急に、SFのビームの効果音のようなものが聞こえた。


 目の前に、半透明な空色の膜が宙に張られている。


 首を回すとドーム状に、俺とゼリーのいる空間と外界とをバリアのように隔てた。


「何だ、これは?」


「コレハ、バトルフィールド。対戦ガ始マッタラ、閉ジラレル。オワッタラ消エル」


 閉じ込められたのか。


 俺は試しに、キャリーバッグの空き缶を2、3個バリアに向かって投げた。


 缶はゴトンと音を立てて、地面に落ちて転がった。


 ダメだ。


 びくともしない。


 今は俺の意思で戦うわけだが、追い回されて一度閉じられたら、どうしてもやるしかないのか。


 俺は振り向いて、ゼリーの化け物、シェイプシフターと対峙した。


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