第8話 思ってたのと違う!?

「では先ず、どの程度出来るのか見せてもらいましょう。」


 ドレイン夫人は元忠にお茶会の経験があるというので、どの程度出来るのかみてみることにした。


「はっ! あ、いや。わかりましたわっ!」


「そんな力いっぱい返事しないの! もっと優雅に!!」


「わっ! わかりましたわっ……。」


 元忠のたどたどしさにドレイン夫人はうーんと頭を抱えた。


 そして……。


「え? 何これ?」


 暖炉に鍋がかけれられており、ティセット一式が何故か暖炉のそばに置かれている。

 そしてなにより


「ねぇ、ちょっとどうして春も終わりなのに暖炉が赤々と燃えてるの?」


「? 火をつけねば茶は点てられますまい?」


「…………は?」


 元忠はティーポットに茶葉を入れ、暖炉にかけられていた鍋の湯をレードルで入れた。


 ドレイン夫人は卒倒しそうだった。

 普通、お茶を入れたり給仕をするのはメイドの役目であって、男爵ならともかく、公爵家の者が行うなど、王族に対してのみである。

 それでも、王族のプライベート空間への出入りを許された者だけの特異なことだが。


 元忠は何食わぬ顔でカップにお茶を注いでいく。夫人は思わず


「違う違う違う!! そうじゃなーーーーーーーーーーーいっ!!」


 と、叫んだ。


「むっ! やはり作法が……。」


「違う!! そうじゃない!! 作法云々どころではないわっ!!!」


 はぁーっはぁーっと、夫人は息を切らして続ける。


「先ず……。給仕を行うのは、メイドの仕事であって! 我々がしてはいけないのっ!!


 それに、この季節に暖炉に火を入れるのも非常識だけれど! 片田舎の農家じゃあるまいにっ、暖炉で沸かした湯をお客様の前で入れるだなんてっ!!! 


 あり得ないわぁっ!!!!!!!!」


 夫人の叫びは屋敷中に響き渡った。


 なっ―――!?


 このことに元忠も大変驚いた。


 では、茶会で一体何をせよと!?


 ドレイン夫人は咳払いをし、説明を始めた。


「お、お茶会では、我々が主催者となる場合、お客様を選び、招待状の準備、お客様の好みに合わせて種々のお菓子を料理長と相談、それに合わせたお茶を選び、メイド達とテーブルセットの準備と指示。楽団の手配、楽器が演奏できる場合はご披露したり、お茶会開催中ではホストとしてお客様方にご挨拶、歓談をしながら情報収集――――。


 それが……! お茶会よぉ!!」


 な、なんと………!


 こ、ここでは……客人に茶を振る舞うのが茶会ではないのか!?!?!?


 こうして、夫人の徹底的な指導の元、お茶会について学ぶことと相成ったのであった。


 夫人の指導が終わったあと、日はすっかり陰り夕刻となっていた。


 ドレイン夫人はヘトヘトになって自宅へ帰っていった。


 しかし、元忠は、自発的に貴族が記した回顧録などを読みふけり、話し方等を自習、そして、今日夫人から教わったお茶会の開き方や、招待された時のマナーを書き留めた。

 気付けばもう夕餉の時間、元忠は集中するあまり、メイドの声がけにも気付かず机にかじりついた。


 使用人達はこの励みように驚き、そして、敬意を感じずにはいられなかった。


 夫人にあれだけしごかれていながら、まだまだ学ぼうとする姿勢………。


 執事長アーノルドは特に………。

 正直、元忠を恨めしく思う気持ちもあったが、誠心誠意取り組むその姿に、涙すら浮かべた。


「お嬢様。お茶をどうぞ。」


 アーノルドは元忠に蜂蜜入りのロイヤルミルクティーを置いた。

 好みは分からなかったが、甘いものは嫌いでは無さそうだったので………。


「おぉ……。これはっ! 美味でござる!」


 元忠はごくごくと飲み干した。


「それは……良うございました。

 お嬢様、我々も微力ながらお支え申し上げます。ですので、どうぞ、我々のこともお頼り下さい。」


「うむ。かたじけない。」


 元忠はティーカップを両手に包み、噛み締めるように目を閉じ、しみじみと言った。


 アーノルドは、


“お嬢様自身が、きっとこのお方を選び、お招きしたに違いない――――。

 お嬢様を守れなかった分も……我々でお支えせねば。”


 と、穏やかに微笑みながら誓った。


 その頃――――――――。


 王城では、デゥバック嬢がバイエレメンツに目覚めた事を、国王、グスタフが知り、思案していた。


「うーむ……。」


 デゥバック家は皇太子派の中でも大きな家であった。

 しかし……、現当主が夫人を無くしてからすっかり鳴りを潜めていた。


 元々、デゥバック当主は、前に出る性格ではなかったしな……。


 しかし……。


 デゥバック嬢も、父親ににて、たおやかな大人しい少女だった――――。


 それがいきなり……、


「バイエレメンツになった――。

 それも、新たに得た要素がウォリアーとは……。」


 ウォリアー。


 恩寵を受けるのは圧倒的に男に多く、その恩寵を受けるものは、“強くなりたい!“ あるいは、“我こそが最強なり!” と、自我の強い者が多いように見受けられる。


 グスタフは侍従に招待状の指示を出した。


「会ってみようではないか。

 デゥバック嬢―――――。」


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