第6話 魔法とはなんぞや

「魔法とは―――――。


 主神ガイアスを始めとした、幾柱もの神々から人間に与えられる奇跡であり、その恩寵は神々からの使命を帯びたものである。


 故に、魔法要素マジックエレメンツを与えられた者は聖者セイント呼ばれ、


 例え女であっても男と同様の権利を認められますわ。


 アデラインもそのセイントの一人。


 植物操作者プランツ·マニピゥレイター

 豊穣の女神グローナの恩寵を賜り、植物を操る事が出来たわ………。」


「な、なんと………。」


 摩訶不思議な! 神々と人の距離が近しいのだな………。


 元忠が感嘆と驚いていると、ドレイン夫人はジッと元忠を見つめた。


「そう言えば………貴女、アデラインではなかったのよね。………。」


 すると今度は顔を青ざめさせた。


「ま、まさか……魔法要素マジック·エレメンツも消え……。」


 まじっくえれめんつ……。

 元忠は、ふと魔術検証の時のことを思い出した。

 そう言えば、あの時にばいえれめんつとか言われたの。


「夫人。妾はばいえれめんつだとか、宮廷まほうつかいなる者に言われましてございますが?」


 そう言うと、夫人は一瞬ぴたと呼吸もろとも動きを止めた。

 そして、


「何でそれを早く言わないの!?!?!?」


「さぁ行くわよ!! 今すぐ!!!」


 夫人はむずんと元忠の腕をつかんで部屋を出た。


「ど、どこへでござるか!?!?」


「首都の中央大神殿よっ!!!」


 元忠は、ドレイン夫人の監修の元召し替えをし、念入りにめかしこんでから、首都の中央大神殿へと向かった。


 元忠は馬車の車内から初めてこの国の街並みを見た。


 背の高い壁の、三角屋根が立ち並び、漆喰か石等で建物が作られていた。


 そう言えば、世話になってるデゥバック家も木があまり使われていなかった。


 そうした街をしばらく走っていると、開けた場所に出た。

 すると、正面に天高くそびえる峰のような大きな建物が現れた。これが、中央大神殿だ。


 扉をくぐると、貴賤問わず様々な人が出入りするそこは、真っ白な石で作られた神々の像が安置され、像の前には種々の供え物が並べられていて、寺社仏閣とはまた違った趣のある荘厳さであった。

 元忠は、ほうっとそれらを眺めながら夫人について行った。


 やがて奥まで行くと、豪華な装飾を施された柵に仕切られた場所があり、夫人に伴われそこに入る。


 すると、

 片眼鏡の、京の公家を思わせる雰囲気をまとった。なよっとした男が我らの相手をした。


「お久しぶりです。夫人。ご機嫌麗しゅう。」


「えぇ。お久しぶりね。早速だけど、魔法要素マジック·エレメンツ鑑定を受けにきましたの。首席神官をお呼びしてくださる?」


「おや? 異なことを。私も首席神官ではありませんか。」


「まぁ、貴方はマジックエレメンツをお持ちでらっしゃったかしら? 次のお茶会でシェリル様にお伺いしても?」


「おや、ご存知ありませんでしたか? 殿下の格別なるお計らいで任されたのですよ?」


「まぁ、ご主人様への忠誠心が強いようで、かのロックを思い起こさせるわ。」


 これを聞くと、片眼鏡の男はグッと拳を握った。

 明らかに怒っている。

 何故かは解らないが……。


 そうして夫人と男が睨み合っていると。


「神聖なる神の御前で争いごとなど……。信心が足りないようですね?」


 と、威厳たっぷりにこちらに歩み寄り、艶めいた総白髪の、見た目には若そうな男が叱責すると。


「これはテレンス枢機卿。お恥ずかしいところを。」


 ドレイン夫人は恭しく腰を折った。


「申し訳ございません。枢機卿。急にマジックエレメンツの鑑定を受けたいと夫人が申すものですから、お日にちを改めていただこうかと……。」


 薄笑みで片眼鏡が言う。

 それを受け、テレンスすうききょうなる男が、ふむと少し考え込む素振りを見せると、ドレイン夫人がすかさず、


「我が従姪のアデライン·デゥバックはバイエレメンツである可能性があるのです!」


 と言った。


「な……なんと!」


 片眼鏡はさっきまでずっとすまし顔だったのに、これを聞くと口元を歪めた。


 テレンスすうききょうは直ぐ様別室に我々を案内し、鑑定式を行うことと相成った。


 鮮やかな玉をはめられた備え付けの水盤に、すうききょうが水を満たす。


「これより、鑑定式を始めます。まずは主神ガイアスに祈りを捧げましょう。」


 しばし目を閉じ黙祷す。


「結構です。」


 すうききょうがそう言うと、一同目を開ける。


「ガイアス様の御前にて、神々の使命を図り申す。迷える我らに導きを賜りくださらんこと切に願う。」


 と、すうききょうは祈りの文言を唱え


「デゥバック嬢、御手を。」


 と手を出すように促し、それに従い手を出すと


「神の恩寵あらんことを。」


 と、軽く唇を手の甲に当てた。

 元忠は少しギョッとしたが、そこは我慢を貫き、導かれるままに水盤に手を浸した。


 すると、


 ギラッと。

 水盤についていた緑の玉と赤茶の玉が輝きを放った。


「おぉ……! まさしくバイエレメンツ! 

 女神グローナの恩寵と戦神サニウスの恩寵を賜っておられる! 建国の功臣以来の僥倖。

 おめでとうございます!!」


 すうききょうはその場に膝を折り頭を下げた。


 その横でドレイン夫人は得意満面。片眼鏡は親の敵のように睨んでくる。


 うむ……。

 なにやら、面倒な気配がしよるわい……。


 元忠は元が武将で、享年62歳の老翁であったため、周りから持ち上げられても、素直に喜べるほど純粋無垢ではなかった。


 帰ったら……父上に相談申し上げよう。


 元忠は一人難しい顔をした。






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