第3話 武将、騎士というものを知る

 鳥居元忠憑依から3日目――――。


 魔術師による現場検証が行われることとなった。


「はじめまして、要請を受けてまいりました。宮廷魔術師団第六師団所属レーベンと申します。」


 と、レーベンなる者が軽く会釈し挨拶してきたので、元忠も


「某……いや、妾はアデラインである。レーベン殿、お初にお目にかかる。」


 と、挨拶を返すと。


「…………しっかりなさったお嬢様で。」


 と、なにやら物申し気な顔で言うので。


「それが……あ、いや失敬。妾の無作法が気になると言うなれば、先に謝っておこう。すまぬ。」


 レーベンは思った。

 まるで、2周り上の老紳士と話しているようだと。


「あ、あぁ……お気になさらず。早速検証を始めますので……。」


 と、持ってきた箱をぱかっと開くと、なにやら数々の液体が入った硝子の小瓶やら、揺れ動く針のついた小箱やら、刷毛やら……。


 元忠は物珍しくて、まじまじとレーベンの様子を見つめた。


 レーベンは先ず小瓶の一つを取り出し、中身を小皿に開けた。そして、


「デゥバック嬢、お指を液に浸してください。」


「こうか?」


 元忠は人差し指をちょんっと液に浸した。

 すると、


「おぉ……!」


 黄緑と臙脂色の斑模様に液が変色した。


 これにはレーベンも驚いた。


「これはっ……! 魔力が2種類混じっている! バイ·エレメンツは実に珍しい! 事前に頂いた出生検査では、プランツ·マニピゥレイターだったはず! 後天的に属性が変わることもあるが……以前の属性を残しながら新たな属性を得るなど……。詳しくは鑑定する必要があるが、恐らくウォリアー! 

 これはっ……開国の功臣に匹敵する騎士になれる可能性が!」


「お……おう?」


 レーベンの熱の入れように、元忠は凄いことであることはなんとなく判ったが……。


 ばい何とかやら、ぷらんつ??……

 最後の“きし”とは何であろう???


「その……すまぬが、“きし”とは何であろうか?」


「え……?」


 レーベンが狐につままれた様な顔になった。


 レーベンは、アデラインから哲学的な問かけをされたのかと勘違いし、こう答えた。


「あの……えーと……、

 主に忠義を捧げる強者つわものですかねぇ?」


 主に忠義を捧げるつわもの


 それは……、儂の人生をかけた標榜であった。


 ここでも、なれるというのか?


 前回は、儂が非力なばかりに最後まで主について行けなかった! 

 ここでは……最後まで……。


 女の人生では叶うまじと断念しておったが……。


 出来るのか!?


「儂は……武士として、いや、ここでは“きし”か。儂は……、なれるのか!?」


「えぇ。まぁ、努力次第で……。」


 そう聞くと、元忠の中でくすぶっていた情熱がこみ上げてきた。


 “再び主に仕え、武士として生きられる。”


 逸る気持ちを抑え、元忠は魔力検証の続きを受ける。


 途中、デゥバック伯爵も書類仕事に区切りをつけ参加し……。


「こちら、御令嬢の魔力反応色です。そして、こちらは研究室に残っていた“願いの短剣”のサンプルです。」


 と、レーベンは先ほど指を浸した液と、小指の大きさほどの瓶に、わずかに入った黒い粉を提示した。

 そして事が起こった部屋に入ると、刷毛で新たに箱から出してきた瓶の中身を塗っていく。

 すると、刷毛で塗られた部分が、黄緑色とわずかに臙脂色が入り、なにやら青っぽい銀色の線がいくつか浮き出ている。

 すると、小指ほどの瓶が……


「おぉ……美しい。」


 元忠は思わず感嘆しつぶやいた。


 青っぽい銀色に輝き、瞬いているではないか!

 空に浮かぶ星を間近で見ているようじゃ……。


 その横で、デゥバック伯爵は


「“願いの短剣”を使ったのですね。あの子は……。」


 と、しずかにつぶやいた。


「ハルツ殿……。」


 元忠はデゥバック伯爵労しく思い、先ほど身勝手にも、前世からの想いを果たさんとしていた事を恥じた。

 そして、アデラインのことを恨めしく思った。


 かように父を悲しませて、一体何を願ったのか?

 どのよなな形であっても命あってのものだねと言うに!!


 レーベンは、このどこか老成した令嬢と、伯爵の様子を見て、なんとなく事態を把握した。


 今いるデゥバック嬢は

 恐らく、願いの短剣を使い自身の魂を生贄にのだ。


「あの……伯爵。このことは……。」


 レーベンは伯爵にお伺いを立てると。


「あぁ。他言無用で頼む。」


 と、告げた。


 元忠としても居た堪れないが、


 せめて、“娘”として、恥じぬように生きねばっ。


 と、胸に固く誓った。


 再び主に仕え、武士として義と忠に生き、今度こそは……最後まで主と共に有りたいという願いに、そっと蓋を閉めて。



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