『カーテン』

 子どもの頃から境界が怖かった。


 当時は田舎の木造家屋に暮らしていたため、夏は窓や家中のドアを開放して扇風機だけで涼をとっていた。


 夕食の時間にもなると常に電気がついているのはリビングくらいなもので、続く廊下や座敷には暗闇が広がっていた。

 開けたドアの位置には暖簾を取り付け目隠しをしていたがそれがかえって内側と外側を意識させ、見えない向こう側に何かを感じていた。

 

 他にも座敷のすりガラスの向こうに見える影、少しだけ開いた押入れの戸や隙間風に揺れるドア。

 認識できそうでできない、そんなありふれた境界に想像力を掻き立てては恐怖した。



 仕事を終えワンルーマンションに帰宅する。


 一人暮らしだから迎えてくれる人などいるはずもなく、電気をつけながらリビングに入る。

 正面に見える掃き出し窓には朝と変わらずレース生地だけが掛かっていた。


 外からまる見えじゃないか。そう思い、荷物を置いてカーテンを閉めた。


 境界の外側に何かがいる気がする。それが怖いのだ。


2024/10/11

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る