第79話 蛇は不死者を紹介する
祭り8日目。
流石のユーラリングも今日は『ミスルミナ』に引きこもることをせず、アイテムボックス内に何をしたいのかちょっとよく分からない程あれこれを準備して、仮設拠点で公式イベントの闘技大会、そのベスト8からの試合を観戦していた。
ちなみに、護衛の不死者はエフラバールが追加された。唯一まだ護衛になってないバラバドが荒れてるんじゃないかな……とヒュドラは思っていたが、当然ユーラリングが気にするわけもない。
「あらリングちゃん、新しいひとね?」
「『配下』の一席だな。今日の夜が本番だろう。念のためだ。……そちらこそ、気配が増えているような気がするが?」
「うふふ、気が合うわね♡」
エフラバールはヒーイヴィッツと同じく前衛で、見た目は結い上げた薄灰色の髪に目を閉じている人間の女性だ。普段は豪奢なドレスを身に纏っているところ、本日はユーラリングの護衛という事でメイド服を着用している。……もちろんユーラリング製の、服という名のぶっ飛び性能な布製鎧なのだが。
なおガイコツだったヘルルナスや顔どころか頭が丸ごと隠れているイーヒヴィッツに比べ、表情が分かる。今はにこにこと見た目は穏やかに微笑みながら、ユーラリングの後ろに控えていた。
「今日も仲が良いな、汝ら」
「あら、マルちゃん」
「ちゃん付けをするでない。マールである」
メニューから見れるライブ映像でベスト8決定戦を見つつ、サタニスがエフラバールに話しかけるのをスルーしたり通訳したりしていたユーラリング。そこに、黒い鳥の頭と翼をもつ鳥人がやってきた。
黒い大刀使いの“魔王”マール。自身が先頭を切って戦う他、指揮にも大きな適性を持つ最強の一角だ。同じ同盟の所属であるが、戦いを好むマールと戦いを避けたいユーラリング、あまり話は合わないので、それだけ話をする機会も少なかった。
「ところで、少々良いか」
「なぁに?」
「何か」
「否、大した用ではないのだ。単に、出禁にされていても戦いの気配はする故、少し高ぶってきてな。護衛をお借りして手合わせしたい」
「もう、本番は今日の夜にあるじゃない」
「練習用の得物はあるのか?」
「うむ。準備運動でもあるし、流石に黒薙は用いぬ。単なる鉄の武器で、武器狙い、壊れたら終わりである」
「戦闘狂なんだから~。まぁいいけど。エイル、お付き合いしてあげて」
「ならば良い。どちらかなら好きな方を選んで交渉してくれ」
模擬戦の頼みに、サタニスは今の自分の護衛の中で一番の近接火力を指定、ユーラリングは受けるかどうかの判断は護衛自身に丸投げと、それぞれらしい答えを返した。
ふむ、と少し考え、ヒーイヴィッツとエフラバール、フルプレートアーマーの推定男とメイド服の女性(見た目)を見比べるマール。
「ではそちらの御仁、よろしいか」
「……」
さほどなく声を掛けたのはヒーイヴィッツの方だった。こくり、と頷き、ユーラリングに敬礼を残してマールの後についていくヒーイヴィッツ。エフラバールはひらひらと手を振って見送った。
『……まぁ実のところ、闘いがいがあるのはむしろエフラの方じゃないですかね』
「さてな。あちらが欲しい戦いによるとしか言えん」
「あらなぁにその話。どういう事?」
「エフラ」
マールの姿が見えなくなり、仮設拠点の裏手あたりから剣戟の音が聞こえだしてからヒュドラがぼそっと呟いた。お茶を飲みつつ観戦しているユーラリングは適当に返す。
そこにサタニスが食いつくと、ユーラリングはテーブルの陰で指を三本立てて声をかけた。こくり、と頷いて、テーブルから少し距離をとるエフラバール。
わくわく、と期待に顔を輝かせるサタニスの前で、エフラバールはまずエプロンのポケットに手を入れて、金属の靴ベラを取り出した。それを最初は指、次いで手、最後に腕全体を使って回転させ、ごん、と自分の横に立てて見せる。
「まぁ! 靴ベラが巨大なバールのようなものに!」
手品を見た子供の用に歓声を上げるサタニスに優雅に一礼して、エフラバールは取り出したバールのようなものを、今度はそのままエプロンのポケットにしまった。
絶対入る訳が無い大きさがきれいに収まり、次にエフラバールは自分の腰の後ろに手をやって、そこからリレーに使うバトンぐらいの金属棒を取り出した。
両手で端と端を握りしめ、思い切り引っ張ると、ジャキジャキジャキン! という音と共に棒が伸びた。その状態で真ん中を持ってガチッと音がするまでひねると、先端から鋭い槍の穂先が飛び出す。
「仕込み槍ね! 何で棒が細くなったりしてないのかしら!」
再び優雅に一礼して、エフラバールは仕込み槍の真ん中をひねった。すると穂先がしまわれて、両端をもって押し込むと、ガチガチガチ、という音と共に同じ長さに戻る。
それを腰の後ろに戻して、エフラバールは優雅にひざを折った。そのまま流れるようにスカートの中に手を入れ、取り出したものをぶおんと一振り。左肩の前で両手持ちの柄を逆手に構え、刃先を右足の辺りに向けてポーズ。
「なんてこと! これは素晴らしい大鉈だわ!」
きゃー! とテンションが上がってぱちぱちと拍手するサタニスに、エフラバールは大鉈をスカートの中に仕舞い、最後に深めに一礼した。そしてユーラリングの斜め後ろに控える位置へ戻る。
はふー。と堪能した、という顔のサタニスは満足げにお茶を飲み、にっこりと満面の笑みだ。
「武装メイドとは、流石リングちゃんね! 全部自分と変わらない大きさの得物っていうのもグッドよ!」
「本人の要望だぞ、あれ」
「なるほど。自分の魅せ方を分かってるわ!」
なお侵入者を迎え撃つときの恰好は豪奢なドレスなので、武装貴婦人である。サタニスが血の貴婦人(魅了)だとすれば、血の貴婦人(物理)と言ったところだろうか。
そして見た目はともかく上位に位置する不死者なので、殴られても切られてもまず死なない。腕が取れた程度では平然と動いて、なんなら片腕で戦いながら腕をくっつけるぐらいはやるだろう。首を落としたところで、片腕でキャッチして乗せ直しつつお返しに首を落とされるのがオチだ。
掠るか掠らないかギリギリで回避しつつ連撃を叩き込むのがイーヒヴィッツ、いくら攻撃を喰らっても怯みすらせず近づいて特大の一撃を叩き込むのがエフラバールとなる。はっきり言って、敵対する相手からすればどちらも悪夢だ。あの規模の墓所洞窟(カタコンベ)を統括するだけの実力者、ということである。
「あら、ベスト4が決まったわね」
「前評判通りだな」
まぁ此処にいる2人はその辺り、一切気にしないので話はそれ以上広がらなかったのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます