第77話 蛇は虎獅子を探す

 結局モンスターの種類や数に悩みつつの配置、ハイライガー姉妹に相談されつつ居住区の整備、正体不明の見た目動物たちの移動などをしている間に、祭りは7日目に突入していた。

 一応合間合間に屋台巡りはしていたし、その合間にまた正体不明が増えていたりするが、それでも公式含むイベントはノータッチだ。


「やぁ、我らが姫。時間は大丈夫かい?」


 そんな感じだったので、イベントエリアの簡易拠点に居るのは休憩という意味が強かったユーラリング。そこにひらひらと手を振りながら話しかけてきたのは、ジェモだった。サタニスは現在、観戦の為の専用席に移動していて、いつもの場所にはいない。

 ハイライガー姉妹も居住区でいろいろしているので、割と久しぶりだった一人の時間。そこを狙って話しかけてきたのだろうジェモの用事は、考えるまでもなく思い当たった。


「見つかったか?」

「流石に目立つね。実に簡単だったよ」

「……まぁ、姉妹の方から考えて、だろうな、としか言えんが」


 という会話の通り、ハイライガー姉妹の「師匠」の行方を探して貰っていたのだ。1日目のイベントの時に保留にした情報料を消化した形である。

 ジェモが手に入れた情報だと、「師匠」は現在人間の領域をあちこち移動しているのだそうだ。『独立軍』の砦に迷い込んで捕まった姉妹を探しているとみていいだろう。

 もちろん魔物側はノータッチなうえ、どうも近寄ってくるものを斬り捨てる方針に切り替えたらしい。そのせいで、多少派手な情報でも耳には入りづらい状況のようだ。


「我らが姫が「欲しい」というなら、代金の残りで連れてくるけど、どうする?」

「バカ言え。ライガー種の指南役だぞ。力づくだと単体で地形が変わるだろうが」

「ははは。まぁ否定はできない」


 この場合の連れてくるとは即ち力づくでの拉致である。それを分かっているので、即答で却下するユーラリング。それにいつも通りの笑いを返すジェモも、分の悪い賭けだと分かっているのだろう。特段食い下がりはしなかった。

 とはいえ、野放し、もとい放置しておくつもりはないユーラリング。普通に危険物であるし、ハイライガー姉妹と再会させたい気持ちもある。あわよくばそのまま第11層の戦力、そしてボス担当の一人になって欲しい。


「……適材適所だな。助かった、ジェモ」

「何、お安い御用さ。また何かあれば頼ってくれたまえ、我らが姫」


 ふふふ、と含み笑いをして去っていくジェモを適当に見送り、ユーラリングはメールを書き始めた。宛先はシズノメだ。

 内容は、先日繋ぎを作った原石竜の屋台の店主、自称情報屋の実質何でも屋への依頼だ。内容は、とある人物と接触して、ある場所に誘導してほしいというもの。もちろんとある人物とはハイライガー姉妹の「師匠」で、ある場所とは『ミスルミナ』だ。

 あと報酬の相談も含めた。ユーラリングは情報の相場とかよく分からないので。ジェモの場合は、情報を扱う事についてはプライドを持っている上に、向こうから適切な対価である情報を提示してくるから、楽というかお任せで十分だったのだ。


『分かりました。こちらで連絡を取って依頼しておきます。報酬についてですが、前払いで金貨で5万、後払いで、そうですな。以前のオークションで、10万相当ぐらいの小さなアクセサリを5個ぐらいでえぇんやないでしょうか。金欠みたいやったですし』


 数分もなく返ってきた内容に、そんなもんかと納得するユーラリング。10万相当ぐらい、というと、特殊効果は下位が1個、宝石も小指の爪程度で、本体は通常の貴金属か。と当たりを付けた。

 普通はそれでも十分な財産であり、非常時の換金用として持ち歩くには最適な財宝なのだが、感覚が大分麻痺しているユーラリングにとってはその程度でいいのか、としかならない。

 そして実際、まぁいいかと納得した後その場でささっと作り上げてしまう程度の物だった。暇つぶしにすらなっていない。そしてそれを相談の返事に書いてあって実際すぐに来た『聚宝竹』の受け取り人に渡し、渡した確認兼お礼のメールを書く。


『報酬を受け取りました。ほな向こうが来次第依頼しときます』


 受け取り人間を見送って、さして時間を置かず返ってきたメールに、これで良し、と1つ頷くユーラリング。さてあとはどうするか、と少し悩んだ後、再び「屋台エリア」に足を向けることにしたようだ。

 もちろんその一番の目玉(?)は正体不明のアイテムなり生き物なのだが、もう今日は既にみた後だ。まさかこんなすぐに次が来たりしないだろう。と思うユーラリング。

 本人はフラグを立てたつもりが無かったのだが、ここまでと同じくユーラリングに巻き付く形で同行しているヒュドラは、この時点でフラグ成立の気配を感じ取っていたという。

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