第60話 蛇は宝の価値を見る
オークションはまず司会からの簡単な説明から入り、著しく周囲の迷惑や進行の妨害になると判断された場合は、強制排除もあり得る、との注意喚起、あるいは最終警告が行われてから始まった。
そこから、まずはレアモンスターの素材や珍しいアイテムから入札がスタート。その次はボスモンスターのレアドロップ、“魔王”のものではない『ダンジョン』から出てきた装備品と、徐々にレア度が上がっていく。
「まぁ、レイドボスのレアドロまでならうち(『聚宝竹』)はまず手に入れられますわ」
との事だったので、ユーラリングは商品の説明と移り変わる金額を眺めているだけだったが。限られた資金と時間の中で全力の駆け引きと、オークションが進むにつれ大きくなっていく落札の瞬間のリアクション。上から見下ろす分には、それでも十分楽しいな、と思うユーラリングだった。
どうやらレアアイテムという大きな区切りがあり、その締めに登場したとあるクエスト限定のレイドボスのレアドロップ品が競り落とされた時点で、一度休憩の時間が挟まった。
「この間に支払い可能なもんは支払いを済ませる訳でんな。取引用の個室も無限にある訳ではないですし」
「なるほど」
「で、物が手に入ったから退散する組と、その資金をもって本格参戦する出品者及び次の区切りに目当てがある組が入れ替わる訳ですわ」
「あぁ、それも兼ねて外に出れる休憩なのか」
「ですな。まぁ、時間までに戻れなかったら参戦権は無くなる訳ですけんど」
わらわらと人もとい魔物の入れ替わりが落ち着いて、またブザーが鳴った。司会の説明がもう一度行われるのは、今入ってきたばかりの者がいるからと、念のためだろう。聞いてないは通用しない、という予防線だ。
そんな訳で始まったのは、プレイヤーメイドの武器防具、レアポーションだった。お、これはもしや? とユーラリングが見ていると、職人たちの目の前で作ったブレスレットとロングソードが「中盤で」出てきた。
そもそも開始金額が、レアアイテムの区切りに比べて一桁多かったメイドアイテムの区切り。そんな中、『聚宝竹』の名義で出されたユーラリング作の装備はどうなったか、というと。
「……あいつらの財布は大丈夫なのか?」
「まぁ、どんな商品があるかは、出てみんと分かりませんし。……大分無理して張り込んだのは間違いないでしょうけんど」
ブレスレットが600万。ロングソードが、なんとこの区切り初の桁越えで1100万だった。金貨一枚で1万なので、じゃらっと金貨が山になったという事になる。
その猛烈な上がり方にちょっと引いていたユーラリングだったが、何かが一周したのか落札者の心配をするだけの余裕を取り戻していた。……深々と息を吐いてお茶を飲んでいる辺り、荒療治としての効果はあったようだが。
というか、あれでこうなら追加で出した方はどうなるんだ、と思っていたユーラリングだったが、意外なことに、ユーラリングの自信作が舞台に上がらないままに区切りが終わり、休憩が始まった。
「オークションの区切りは、まずレアアイテム、次いでプレイヤーメイド、その次が特殊アイテムで、最後が混合となってるんですわ」
「特殊アイテム」
「特殊アイテムいうのんは、まぁリング様には関係ありませんが、種族専用の進化アイテムとかでんな。欲しい者にとっちゃ喉から手が出るほど欲しい、そういうアイテムが並びます」
「なるほど。……混合とは」
「読んで字のごとく、ですわ。今まで出てきた区切り、あるいはそこに収まらない、一段上の品がランダムに出てくる訳ですな。ちなみに、どこの区切りに入るかを判断するのんは主催者側です」
「あぁ、そういう事か」
つまり、ユーラリングの自信作は混合の方に回された、という事だろう。評価されていると感じて、ユーラリングはちょっと機嫌が良くなった。……あの2品の詳細を見た担当者が、片っ端から1度は倒れて気絶したとは流石に思っていない。
ちなみにシズノメは「おっっっま何てもんをぶっこんできやがるこれは公式オークションの神器に混ぜて出すべきもんだろうがー!!??」というメールを受け取っているので、当然察していた。だからと言って引っ込めもしなかったが。
ユーラリングとシズノメの内心に大きな開きがあるのはいつもの事で、それを表に出すことの無い間に休憩が終わり、次の区切りが始まった。
「基礎金額が上がるだけあって、ここまでくるとそこそこ4桁万が出てくるな。競り方も激しくて見ごたえがある」
「需要が限定的な分だけ、その部分に刺ったら譲れませんからなぁ。ちなみにリング様は何か?」
「お前らはあるか?」
「……(首を横に振る)」
『まぁ進化とかしないんで』
「もう少し『配下』が増えてからの話だな」
「でっか」
あっさりと不参加を表明するユーラリング。シズノメも予想してたのか、納得の色が濃い。
……ちょっと気になって調べると、どうやら百合ップルこと
そんな訳で、ユーラリングとしては競り勝負を特等席から眺めるだけの時間が過ぎていった。これはこれで楽しかったらしいので問題は無い。
「……あー……」
「どうした?」
「いや、その……リング様って確か、まだ『配下』って少なかった……ですよな?」
「…………まぁ、少ないだろうな」
何せ正式な『配下』は、契約を結んだ順に、ヒュドラ、ドルク、不死者4体、そして新入りである「血喰い(ネームレス)」のたった7体。“魔王”ともなれば『ダンジョン』の運営の事もあり、最低数百から多ければ数千はいる筈のところを、まさかの一桁である。
居候な同盟者や一応がつくが捕虜の百合ップルは例外だが、それを含めてもようやく10体。どうしようもない。
「いえその……ちと、タレコミがありまして」
「ふむ」
「普通は無いんですけんど……なんでも、混合枠にレア種族が出される、らしいですわ」
「……ほう?」
何かメールが来て、それを読んで挙動不審になっているのは見えていた。が、その内容は斜め上だ。普通は無い、とシズノメが念を押すあたり、よほどレアケースなのだろう。
逆に言えば、そんなレアケースだからこそシズノメ、引いてはユーラリングに話が回ってきたのだろう。ちら、とユーラリングは眼下のざわめきに目をやる。一見、何も変化はないようだ。
「……詳細までは分からないんだな?」
「分かるんは2人組で、戦闘力ありと特殊能力持ち。希望があればセット売りするが基本はバラ売り、ぐらいでんな」
「いや、十分だ」
大量かつレベルの高い生産活動と、大量に入ってくるようになった“英雄”含む侵入者達の、罠や配下での撃退。それによりレベルが大分上がり、一部身体を欠損していてもかなりのステータスを持つことになったユーラリング。
その上がったステータスのお陰か、ユーラリングは捉えていた。ざわめきの一部に紛れるようにして、恐らくは同じ内容の情報を手に入れた集団がいることを。
それに対する反応が、顔をしかめる等であれば放置していい。だが、そうでないものは覚えておく。
「…………まぁ、我はまず間違いなく、この会場で一番の支払い能力を持っているだろうからな。元資金もそうだが、出品者という意味でも」
「それは間違いありませんな。……むしろリング様の場合、支払いの桁が大きいほうが楽に払える可能性までありますわ……」
実質的な競り落とし宣言に、シズノメは神妙に頷くのだった。……その後に思わず本音が漏れてしまったが、ユーラリングはそれを賢くスルーした。
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